第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

股関節・膝関節

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-0994] 変形性膝関節症における脛骨回旋可動域と膝関節屈曲・伸展可動域・疼痛・JOA scoreとの関連性

松浦佑樹1, 久保田雅史2, 西前亮基1, 岩本祥太1, 由井和男1, 斉藤雄己1, 境井翔1, 中瀬裕介3 (1.中瀬整形外科医院リハビリテーション科, 2.福井大学医学部付属病院リハビリテーション部, 3.中瀬整形外科医院整形外科)

Keywords:変形性膝関節症, 脛骨回旋可動域, 膝関節屈曲・伸展可動域

【はじめに,目的】
正常な膝関節運動では,膝関節屈曲・伸展運動に伴い,脛骨が内外旋することが知られている。歩行においても脛骨が回旋し,関節面を適合させることで膝関節が安定すると言われている。変形性膝関節症(膝OA)患者においては関節可動域の制限や膝関節の疼痛,筋力低下などが生じる。膝関節屈曲及び伸展時に必要となる回旋可動性は,膝OAによって制限されることが言われているが,内旋及び外旋可動性がそれぞれどの程度関節可動域に影響を与えているかは一定の見解が得られていない。一般的に脛骨回旋可動域は膝関節屈曲90°で測定されているが,より伸展可動域に影響があるのは軽度屈曲位での回旋可動性である可能性がある。さらに,回旋可動性の低下又は増大は可動域のみでなく,疼痛や膝関節の安定性といった膝関節機能に広く影響を与える可能性も考えられる。本研究では,膝関節屈曲90°と膝関節屈曲30°での脛骨内旋及び外旋可動域をを測定し,膝OA患者の膝関節屈曲・伸展可動域,疼痛,膝関節機能とどの程度関連性があるかを明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は膝OAにより当院外来運動療法を実施している26名40膝(男性9例,女性17例,平均年齢75.1±4.9歳)とした。中枢神経障害を有する症例や独歩困難な症例は除外した。Kellgren-Lawrenceの分類は,gradeIが1膝,gradeIIが23膝,gradeIIIが9膝,gradeIVが5膝であった。膝に関する何らかの疼痛をNumerical Rating Scale(以下,NRS),膝関節機能評価にはJOA-scoreを用い,問診にて評価を行った。また,膝関節屈曲・伸展の可動域測定は1°単位で測定した。脛骨回旋可動域の測定は,以下の2肢位にて膝関節屈曲位と伸展位での可動域を測定した。一つ目は,端坐位にて股関節屈曲90°,内外旋0°,膝関節屈曲90°,短下肢装具にて足関節を底背屈中間位に固定し,角度計を貼付した測定台上に足部を垂直に接地させた。二つ目は,端坐位にて股関節屈曲90°,内外旋0°,膝関節屈曲約30°,短下肢装具にて足関節を底背屈中間位に固定し,傾斜角を60°に設定した測定台上に足部を垂直に接地させた。次に検者が他動的に大腿部を固定し,下腿の内旋及び外旋を最終域まで運動させた。移動軸を第二趾の延長線とし,第二趾が内方へ向かう脛骨の角度を脛骨内旋可動域,第二趾が外方へ向かう角度を脛骨外旋可動域とし,角度の計測を行った。脛骨内旋・外旋可動域と疼痛,JOA-score,膝関節屈曲・伸展可動域との相関関係をPearson及びSpearmanの相関係数を用いて検討し,有意水準は5%とした。また,有意な相関を認めた項目のみ抽出し,従属変数を膝関節屈曲可動域又は伸展可動域としてそれぞれ重回帰分析を行った。
【結果】
NRSは平均3.3±2.8,JOA-scoreは平均81.2±14.4点,膝関節伸展可動域は平均-5.6±5.1°,膝関節屈曲可動域は平均130±12.9°であった。また,膝関節屈曲90°での脛骨内旋可動域は平均13.3±4.9°,脛骨外旋可動域は平均16.8±4.4°であり,膝関節屈曲30°での脛骨内旋可動域は平均7.8±3.2°,脛骨外旋可動域は10.8±3.0°であった。膝関節屈曲30°,膝関節屈曲90°での脛骨内旋・外旋可動域と膝関節屈曲・伸展可動域,膝関節屈曲30°での脛骨内旋可動域とNRS,JOA-scoreに有意な相関関係を認めた。重回帰分析では,膝関節 伸展可動域,屈曲可動域ともに膝関節屈曲30°での内旋可動域のみがモデルとして選択された。
【考察】
本研究結果より,脛骨回旋可動域は屈曲位でも伸展位でも比較的高い相関係数で屈曲可動域や伸展可動域と関連していることが示された。膝OA症例では,重症度の進行に伴い大腿骨及び脛骨が変形し,関節可動域は制限されていくが,脛骨の回旋可動性は膝関節のあそびを反映していることが考えられ,関節としての全体的なあそびの消失が可動域と関連していると考えられた。一方で,重回帰分析の結果より,膝関節伸展可動域も屈曲可動域も膝関節屈曲30°での脛骨内旋可動域が最も重要な因子であるとされた。膝外側コンパートメントの拘縮により膝OA患者は下腿内旋制限が生じるとの報告があり,膝関節屈曲30°での内旋可動性を改善させることは,可動域改善につながるかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,膝OAの可動域制限や疼痛,膝関節機能と関連する因子として,膝関節30°屈曲位での内旋可動域が挙げられた。脛骨回旋可動域を評価する際に膝関節軽度屈曲位でも評価することが重要でることや,関節可動域改善のために内旋可動域に注目した運動療法の可能性が示唆され,理学療法の臨床において非常に意義が高いと考えられた。