[P3-A-1000] 回復期リハビリテーション病院における大腿骨近位部骨折術後患者の歩行・バランス能力と体幹機能との関連性
キーワード:大腿骨近位部骨折, 体幹機能, 歩行・バランス能力
【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折術後患者(以下:術後患者)の理学療法目的は,受傷前の状態に近い歩行・バランス能力の再獲得である。しかし,受傷後に約7割の症例は歩行能力が低下し,さらに対側の大腿骨近位部骨折のリスクが高いと報告される。そのため,歩行能力向上や骨折リスク減少をアプローチによって実現するためには,術後患者の機能特性をより詳細に把握することが重要である。これまで術後患者の機能的予後に影響する因子として,性別や年齢,疼痛,下肢筋力などの報告がされているが近年,歩行・バランス能力に対する体幹機能の影響も着目されており,臨床的にも術後患者の歩行・バランス能力に対し体幹機能が重要であることは,しばしば経験される。しかし我々の知る限り,術後患者の体幹機能について検討した報告はない。
そこで,本研究では,大腿骨近位部骨折術後患者の歩行・バランス能力と体幹機能との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,A病院回復期リハビリテーション病院に入院した大腿骨近位部骨折術後患者15名(女性11名),平均年齢82.0±4.6歳とした。評価時期は入院時(術後平均日数33.2±13日目)であった。
歩行能力は,10m歩行時間とTimed up and go test(以下TUG)を,バランス能力はFunctional reach test(以下FRT)とBerg balance scale(以下BBS)をそれぞれ測定した。体幹機能は体幹筋の筋厚と筋持久力により評価した。筋厚は,超音波画像診断装置(東芝Nemio MX SSA-590A)を用いて腹直筋(臍より3cm外側),多裂筋(L4棘突起より2cm外側),胸部脊柱起立筋(TH9棘突起より4cm外側)を測定した。筋持久力は腹筋群と背筋群を測定した。
その他に,歩行・バランス能力の回復へ影響を与える指標として,下肢筋力と痛みの評価を行なった。下肢筋力は,膝関節伸展筋を用い,筋力計(アニマ株式会社,μ-tasF1)にて術側・非術側の等尺性筋力(kg)を測定し,体重で除した値を算出した。痛みの評価はNumeric Rating Scale(以下NRS)により,痛みを0から10の11段階に分け痛みの程度を数字で選択させた。統計学的解析は,Pearson及びSpearmanの相関分析を行い有意水準は5%未満とした。
【結果】
測定結果の平均値±標準偏差は,歩行能力は,10m歩行時間23.8±8.5秒,TUG 25.2±8.5秒であった。バランス能力は,FRT 19.3±6.0cm,BBS 36.7±6.8点であった。体幹機能は腹直筋の筋厚9.3±1.9mm,多裂筋22.6±5.1mm,胸部脊柱起立筋10.5±2.9mmであった。筋持久力は腹筋群16.1±13.7秒,背筋群24.2±23.9秒であった。下肢筋力は非術側膝伸展筋力0.22±0.09kgf/kg,術側膝伸展筋力0.17±0.05kgf/kgであった。疼痛はNRS 2.6±1.4であった。
体幹機能と歩行能力の関係を分析した結果,有意な相関は認められなかった。一方,体幹機能とバランス能力との関係は背筋持久力がFRT(r=0.69)と及び多裂筋の筋厚がBBS(r=0.54),FRT(r=0.74)とそれぞれ有意な正の相関を認めた。
次に,下肢筋力と歩行能力との相関分析を行ったが有意な関連は認められなかった。一方,下肢筋力とバランス能力の相関は,術側膝伸展筋力とFRT(r=0.52)に有意な相関を認めた。また,疼痛と歩行・バランス能力との相関分析を行ったが有意な関連は認められなかった。なお,全ての測定結果は年齢との間に有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究より術後患者の歩行・バランス能力と体幹機能の相関のうち,バランス能力は体幹機能の中でも背筋持久力,多裂筋の筋厚と相関することが示唆された。筋厚値は筋力と相関を示すことが報告されているため,多裂筋の機能を考慮すると腰部の体幹伸展筋力がバランス能力と関連していると考えられる。先行研究では,動的姿勢制御課題において体幹の安定化のために体幹伸展筋の活動が必要なことが報告されていることから,バランス能力と相関を認めたと考える。また,術側下肢の筋力低下により,バランスの保持においては下肢だけでなく体幹機能も含めた姿勢制御が必要になったことも術後患者のバランス能力と体幹機能に関連を認めた要因の1つであると考えられる。これらより,術後患者のバランス能力は,受傷した下肢筋力だけでなく,体幹伸展筋力も関連することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
術後患者の歩行・バランス機能の早期再獲得には術側下肢への積極的な理学療法介入だけでなく,今回関連が明らかとなった腰部の体幹伸展筋力を考慮しアプローチを行うことで治療の一助になる可能性がある。
大腿骨近位部骨折術後患者(以下:術後患者)の理学療法目的は,受傷前の状態に近い歩行・バランス能力の再獲得である。しかし,受傷後に約7割の症例は歩行能力が低下し,さらに対側の大腿骨近位部骨折のリスクが高いと報告される。そのため,歩行能力向上や骨折リスク減少をアプローチによって実現するためには,術後患者の機能特性をより詳細に把握することが重要である。これまで術後患者の機能的予後に影響する因子として,性別や年齢,疼痛,下肢筋力などの報告がされているが近年,歩行・バランス能力に対する体幹機能の影響も着目されており,臨床的にも術後患者の歩行・バランス能力に対し体幹機能が重要であることは,しばしば経験される。しかし我々の知る限り,術後患者の体幹機能について検討した報告はない。
そこで,本研究では,大腿骨近位部骨折術後患者の歩行・バランス能力と体幹機能との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,A病院回復期リハビリテーション病院に入院した大腿骨近位部骨折術後患者15名(女性11名),平均年齢82.0±4.6歳とした。評価時期は入院時(術後平均日数33.2±13日目)であった。
歩行能力は,10m歩行時間とTimed up and go test(以下TUG)を,バランス能力はFunctional reach test(以下FRT)とBerg balance scale(以下BBS)をそれぞれ測定した。体幹機能は体幹筋の筋厚と筋持久力により評価した。筋厚は,超音波画像診断装置(東芝Nemio MX SSA-590A)を用いて腹直筋(臍より3cm外側),多裂筋(L4棘突起より2cm外側),胸部脊柱起立筋(TH9棘突起より4cm外側)を測定した。筋持久力は腹筋群と背筋群を測定した。
その他に,歩行・バランス能力の回復へ影響を与える指標として,下肢筋力と痛みの評価を行なった。下肢筋力は,膝関節伸展筋を用い,筋力計(アニマ株式会社,μ-tasF1)にて術側・非術側の等尺性筋力(kg)を測定し,体重で除した値を算出した。痛みの評価はNumeric Rating Scale(以下NRS)により,痛みを0から10の11段階に分け痛みの程度を数字で選択させた。統計学的解析は,Pearson及びSpearmanの相関分析を行い有意水準は5%未満とした。
【結果】
測定結果の平均値±標準偏差は,歩行能力は,10m歩行時間23.8±8.5秒,TUG 25.2±8.5秒であった。バランス能力は,FRT 19.3±6.0cm,BBS 36.7±6.8点であった。体幹機能は腹直筋の筋厚9.3±1.9mm,多裂筋22.6±5.1mm,胸部脊柱起立筋10.5±2.9mmであった。筋持久力は腹筋群16.1±13.7秒,背筋群24.2±23.9秒であった。下肢筋力は非術側膝伸展筋力0.22±0.09kgf/kg,術側膝伸展筋力0.17±0.05kgf/kgであった。疼痛はNRS 2.6±1.4であった。
体幹機能と歩行能力の関係を分析した結果,有意な相関は認められなかった。一方,体幹機能とバランス能力との関係は背筋持久力がFRT(r=0.69)と及び多裂筋の筋厚がBBS(r=0.54),FRT(r=0.74)とそれぞれ有意な正の相関を認めた。
次に,下肢筋力と歩行能力との相関分析を行ったが有意な関連は認められなかった。一方,下肢筋力とバランス能力の相関は,術側膝伸展筋力とFRT(r=0.52)に有意な相関を認めた。また,疼痛と歩行・バランス能力との相関分析を行ったが有意な関連は認められなかった。なお,全ての測定結果は年齢との間に有意な相関を認めなかった。
【考察】
本研究より術後患者の歩行・バランス能力と体幹機能の相関のうち,バランス能力は体幹機能の中でも背筋持久力,多裂筋の筋厚と相関することが示唆された。筋厚値は筋力と相関を示すことが報告されているため,多裂筋の機能を考慮すると腰部の体幹伸展筋力がバランス能力と関連していると考えられる。先行研究では,動的姿勢制御課題において体幹の安定化のために体幹伸展筋の活動が必要なことが報告されていることから,バランス能力と相関を認めたと考える。また,術側下肢の筋力低下により,バランスの保持においては下肢だけでなく体幹機能も含めた姿勢制御が必要になったことも術後患者のバランス能力と体幹機能に関連を認めた要因の1つであると考えられる。これらより,術後患者のバランス能力は,受傷した下肢筋力だけでなく,体幹伸展筋力も関連することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
術後患者の歩行・バランス機能の早期再獲得には術側下肢への積極的な理学療法介入だけでなく,今回関連が明らかとなった腰部の体幹伸展筋力を考慮しアプローチを行うことで治療の一助になる可能性がある。