第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法8

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1021] 内頚動脈重度狭窄による脳梗塞発症後に生じた重度の下肢麻痺と歩行能力が乖離した一症例

齋藤麻梨子, 阿部浩明, 大鹿糠徹, 辻本直秀 (一般財団法人広南会広南病院)

Keywords:脳画像, 補足運動野, modified constraint-induced movement療法

【はじめに,目的】
今回,補足運動野を中心とした脳梗塞発症後に重度下肢麻痺を呈したにもかかわらず,歩行時の麻痺側下肢支持性が良好であった症例を担当した。本症例は,麻痺側下肢の随意運動が困難であるのに,歩行中の支持性が保たれ,直線歩行では自力での遊脚が可能であった。一方で,歩行開始時と歩行の連続性が途絶える方向転換時には,麻痺側下肢を踏み出すことが困難であった。麻痺側下肢の随意運動と支持性の乖離,また,歩行開始と方向転換時の下肢の踏み出しが困難な背景には,補足運動野損傷による高次の運動機能障害の影響が推察された。我々の経験した症例と類似の症状を呈した補足運動野損傷例に対して,modified constraint-induced movement療法(以下,mCI療法)を試みたところ,随意的な運動機能の改善が得られたとの報告(Numata et al. 2008)がある。我々もその報告を参考として,下肢へのmCI療法を含めた理学療法を2週間実施したところ,随意的な運動機能に改善がみられた。本症例における画像所見を含む理学療法評価,およびアプローチの経過を報告する。
【方法】
症例は60歳代男性で,入院前ADLは自立していた。以前より右下肢の引きずりがあり,下肢脱力を認め,近院にて頸髄,胸髄症の診断を受け手術を施行された。その術後,右下肢麻痺の増悪と失語が出現し,脳梗塞の診断で当院へ転院された。拡散強調画像では左前大脳動脈及び中大脳動脈領域(補足運動野,中心前回内側部)に高信号がみられた。
初期評価は2~4病日に実施した。JCS 1,SIASの運動項目では上肢,手指4,下肢は全て0であった。平行棒内歩行は,麻痺側振出しに介助を要すが,立脚期中の著明な膝折れはなく,膝関節軽度屈曲位のまま支持が可能で,その際に上肢による過度な支持もみられなかった。理学療法は歩行練習を中心に実施し,7病日目にはピックアップ式歩行器にて見守りで歩行可能となり,最大歩行速度は15.2m/minとなった。その後,さらに麻痺側下肢の支持性が向上し,直線歩行では自力での振出しも可能となったが,15病日時点でも麻痺側下肢の随意運動は全く改善しなかった。特に,歩行開始と方向転換の下肢の踏み出しが困難であり,歩行自立の阻害因子となった。そこで,16病日より先行報告を参考とし,非麻痺側の膝関節をknee braceで固定した状態で,歩行や階段昇降練習を中心とした理学療法を2週間実施した。病棟歩行時も看護師に方法を説明し,可能な範囲でmCI療法を実施した。
【結果】
mCI療法介入翌日より,麻痺側膝関節の伸展が一部可能となった。最終評価時には,SIASの下肢運動項目は,股関節1,膝関節2に改善した。最大歩行速度は45.2m/minに改善し,歩行は無杖見守りで可能となり,歩行開始と方向転換時の下肢の踏み出しも改善がみられた。しかし下肢の踏み出しが不十分な時もあり,歩行は自立には至らなかった。
【考察】
本症例は,脳梗塞により補足運動野に損傷がみられた。補足運動野は,運動のプログラミングに関わっており,随意運動の調節や運動開始に関して重要な役割を担っている。また補足運動野損傷例では,随意運動の困難性,及び歩行開始,方向転換の困難性が生じると報告されている(Della Sala et al. 2002, Numata et al. 2008, Ju Seok Ryu et al. 2013)。本症例における麻痺側下肢の随意運動と支持性の乖離,特に歩行開始と方向転換時の下肢の踏み出しが困難となった背景には,補足運動野の損傷が一要因として推察された。先行報告(Numata et al. 2008)では,歩行可能だが,麻痺側下肢の随意運動や歩行開始,方向転換が困難である補足運動野損傷例に対し,日常生活で非麻痺側下肢をknee braceで固定する下肢へのmCI療法を実施し,約2日で下肢の随意運動が可能となり,歩行開始と方向転換時の下肢の踏み出しも改善したと報告している。本症例にもmCI療法を2週間実施し,麻痺側下肢の随意運動,歩行開始と方向転換時の下肢の踏み出しに改善がみられた。しかし先行報告と比較すると,その改善は不十分で,歩行自立には至らなかった。その要因として,本症例では補足運動野の損傷のみならず,下肢錐体路の損傷と脊髄性由来の運動障害を伴っていたことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本症例を通じて,理学療法介入を検討する際には,臨床所見のみならず,画像所見を評価の一つとして利用し,様々な介入方法を模索してくことが重要であると思われた。