[P3-A-1040] 脳卒中患者における回復期リハビリテーション病棟退院後の転倒リスク因子
Keywords:脳卒中, 転倒, 半側空間無視
【はじめに,目的】
転倒は脳卒中患者に頻発し,機能予後,ADL,QOLに影響を及ぼす。入院中の転倒に関する報告はあるものの,退院後の脳卒中患者の転倒に関する報告は少なく,またどのような要因が影響するかについて,退院時の情報から検討した報告は少ない。脳卒中患者の退院時における心身機能から転倒リスクを予測できれば,転倒に関する患者・家族指導および住宅改修案や福祉用具の選択に有益と考えられる。そこで,本研究では,脳卒中患者の回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟退院時の心身機能および各種情報から退院後の転倒に及ぼす因子を解析することを目的とした。
【方法】
2013年12月から2014年5月の間に当院回リハ病棟から退院し,研究の参加に同意を得られた脳卒中患者を対象とした。進行性疾患(悪性腫瘍,神経難病,アルツハイマー病)を有する者,リハビリテーションの阻害となる重篤な整形疾患および循環器疾患を有する者は除外した。研究デザインは前方視的コホート研究とした。カルテ情報より,年齢,性別,診断名,発症から退院までの日数,退院時のBrunnstrom recovery stage(BRS),modified Rankin Scale(mRS),立位の可否,要介護度,外来リハの有無,デイケア利用の有無,半側空間無視の有無,失語の有無,疼痛の有無,入院中の転倒の有無,併存疾患(高血圧,糖尿病,心疾患,呼吸器疾患,整形疾患),Mini Mental State Examination(MMSE),functional independence measure(FIM)を調査した。退院後の転倒状況を把握するために,退院8週間後に電話による聞き取り調査を行った。退院8週時点での転倒の有無で,転倒群と非転倒群の2群に分けた。2群間の差の検定には,対応のないt-test,Mann-Whitney U test,χ2検定,Fisherの正確確立検定を用いた。差を認めた項目を独立変数,転倒の有無を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者は68名(年齢71.3±13.0)で,転倒群は15名(22.1%)であった。群間比較では,退院時のFIM運動(転倒群65.2±16.6,非転倒群77.2±15.6,p=0.012),FIM合計(転倒群92.1±21.5,非転倒群106.8±21.5,p=0.022),BRS上肢(転倒群4.0[3.0-5.0],非転倒群5.0[4.0-6.0],p=0.041),BRS手指(転倒群5.0[4.0-5.0],非転倒群5.0[5.0-6.0],p=0.043),整形疾患(転倒群40.0%,非転倒群15.1%,p=0.035),半側空間無視(転倒群46.7%,非転倒群9.4%,p=0.001)に有意な差が認められた。発症から退院までの日数(転倒群113.5±40.3,非転倒群104.6±38.0,p=0.493),mRS(転倒群3.0[2.0-4.0],非転倒群2.0[2.0-3.5],p=0.223),MMSE(転倒群24.9±4.6,非転倒群25.4±5.9,p=0.782),入院中の転倒の有無には群間に差は認められなかった。ロジスティック解析の結果,半側空間無視と整形疾患が抽出され,そのオッズ比は半側空間無視9.324(95% CI:2.181-39.860,p=0.003),整形疾患4.345(95% CI:1.040-18.161,p=0.044)であった。
【考察】
米国老年医学会他による転倒予防ガイドラインによれば,高齢者における転倒リスクの内的因子として,筋力低下,転倒歴,歩行障害,バランス障害,補助具の使用,視覚障害,関節炎,ADL障害,抑うつ,認知障害,80歳以上,が報告されている。脳卒中はこれらの因子を複数有しており,転倒リスクの高い疾患と考えられる。しかし,本研究では,回リハ病棟退院後の脳卒中患者における退院後の転倒に影響を与える因子として,歩行障害,認知障害,ADL障害が抽出されず,半側空間無視と整形疾患が抽出された。本研究の結果は,半側空間無視が疾患特異的な転倒予測因子として重要な評価項目であることを示していると考えられる。また,整形疾患は脳卒中と同様に転倒リスクを有している疾患であることから,脳卒中発症前より転倒リスクが高い状態であったため,本研究で転倒予測因子として抽出されたかもしれない。本研究では,住宅改修や福祉用具の使用など転倒に対する外的要因については解析していないため,今後この点も考慮した検討が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者における回リハ病棟退院後の転倒に疾患特異的な半側空間無視と併存疾患である整形疾患が関与していることが示された。この知見は,脳卒中患者の転倒予防対策を講じる際の一助となると考えられる。
転倒は脳卒中患者に頻発し,機能予後,ADL,QOLに影響を及ぼす。入院中の転倒に関する報告はあるものの,退院後の脳卒中患者の転倒に関する報告は少なく,またどのような要因が影響するかについて,退院時の情報から検討した報告は少ない。脳卒中患者の退院時における心身機能から転倒リスクを予測できれば,転倒に関する患者・家族指導および住宅改修案や福祉用具の選択に有益と考えられる。そこで,本研究では,脳卒中患者の回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟退院時の心身機能および各種情報から退院後の転倒に及ぼす因子を解析することを目的とした。
【方法】
2013年12月から2014年5月の間に当院回リハ病棟から退院し,研究の参加に同意を得られた脳卒中患者を対象とした。進行性疾患(悪性腫瘍,神経難病,アルツハイマー病)を有する者,リハビリテーションの阻害となる重篤な整形疾患および循環器疾患を有する者は除外した。研究デザインは前方視的コホート研究とした。カルテ情報より,年齢,性別,診断名,発症から退院までの日数,退院時のBrunnstrom recovery stage(BRS),modified Rankin Scale(mRS),立位の可否,要介護度,外来リハの有無,デイケア利用の有無,半側空間無視の有無,失語の有無,疼痛の有無,入院中の転倒の有無,併存疾患(高血圧,糖尿病,心疾患,呼吸器疾患,整形疾患),Mini Mental State Examination(MMSE),functional independence measure(FIM)を調査した。退院後の転倒状況を把握するために,退院8週間後に電話による聞き取り調査を行った。退院8週時点での転倒の有無で,転倒群と非転倒群の2群に分けた。2群間の差の検定には,対応のないt-test,Mann-Whitney U test,χ2検定,Fisherの正確確立検定を用いた。差を認めた項目を独立変数,転倒の有無を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者は68名(年齢71.3±13.0)で,転倒群は15名(22.1%)であった。群間比較では,退院時のFIM運動(転倒群65.2±16.6,非転倒群77.2±15.6,p=0.012),FIM合計(転倒群92.1±21.5,非転倒群106.8±21.5,p=0.022),BRS上肢(転倒群4.0[3.0-5.0],非転倒群5.0[4.0-6.0],p=0.041),BRS手指(転倒群5.0[4.0-5.0],非転倒群5.0[5.0-6.0],p=0.043),整形疾患(転倒群40.0%,非転倒群15.1%,p=0.035),半側空間無視(転倒群46.7%,非転倒群9.4%,p=0.001)に有意な差が認められた。発症から退院までの日数(転倒群113.5±40.3,非転倒群104.6±38.0,p=0.493),mRS(転倒群3.0[2.0-4.0],非転倒群2.0[2.0-3.5],p=0.223),MMSE(転倒群24.9±4.6,非転倒群25.4±5.9,p=0.782),入院中の転倒の有無には群間に差は認められなかった。ロジスティック解析の結果,半側空間無視と整形疾患が抽出され,そのオッズ比は半側空間無視9.324(95% CI:2.181-39.860,p=0.003),整形疾患4.345(95% CI:1.040-18.161,p=0.044)であった。
【考察】
米国老年医学会他による転倒予防ガイドラインによれば,高齢者における転倒リスクの内的因子として,筋力低下,転倒歴,歩行障害,バランス障害,補助具の使用,視覚障害,関節炎,ADL障害,抑うつ,認知障害,80歳以上,が報告されている。脳卒中はこれらの因子を複数有しており,転倒リスクの高い疾患と考えられる。しかし,本研究では,回リハ病棟退院後の脳卒中患者における退院後の転倒に影響を与える因子として,歩行障害,認知障害,ADL障害が抽出されず,半側空間無視と整形疾患が抽出された。本研究の結果は,半側空間無視が疾患特異的な転倒予測因子として重要な評価項目であることを示していると考えられる。また,整形疾患は脳卒中と同様に転倒リスクを有している疾患であることから,脳卒中発症前より転倒リスクが高い状態であったため,本研究で転倒予測因子として抽出されたかもしれない。本研究では,住宅改修や福祉用具の使用など転倒に対する外的要因については解析していないため,今後この点も考慮した検討が必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者における回リハ病棟退院後の転倒に疾患特異的な半側空間無視と併存疾患である整形疾患が関与していることが示された。この知見は,脳卒中患者の転倒予防対策を講じる際の一助となると考えられる。