第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法10

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1046] 入院時FBSによる高次脳機能障害,認知機能低下を含めた脳卒中片麻痺患者の屋内歩行自立予測

市川恭兵1, 黒田孟1, 島田直生子1, 鈴木舞1, 高橋直人1, 吉田萌乃1, 相原千草1, 嶺村圭1, 風間俊幸1, 星野泰地1, 齋藤亮1, 大越綾乃1, 田中寿実1, 増田千華1, 沼尾拓2 (1.青葉会新座病院リハビリテーション科, 2.専門学校社会医学技術学院理学療法学科)

Keywords:脳卒中, FBS, 予後予測

【はじめに,目的】
回復期リハビリテーション病棟(以下回復期病棟)において,自立歩行を獲得できるか否かを判断することは専門職種として重要な役割であるとされている。そこで,入院時評価から脳卒中片麻痺患者の歩行自立の可能性を予測する指標を得ることで,臨床経験の少ない若手理学療法士にとっても有益であると考えた。よって,今回,大木らの先行研究を参考にし,入院時Functional balance scale(以下FBS)得点を用い,高次脳機能障害,認知機能低下を含めた脳卒中片麻痺患者の屋内歩行能力を弁別するカットオフ値を検証し,高次脳機能障害と認知機能低下を含めた脳卒中片麻痺患者の退院時の歩行自立の可能性を予測する指標を得ることを目的とした。
【方法】
対象は平成25年4月から平成26年4月の間に,当院回復期病棟に入院し取り込み基準を満たした32名の脳卒中片麻痺患者である(平均年齢±標準偏差71.3±8.2歳)。取り込み基準は,入院時車椅子座位保持可能である60歳以上の初回脳卒中片麻痺患者,入院時Brunnstrom Recovery Stage(以下Br.stage)V以下,入院時Functional Independence Measure(以下FIM)移動(歩行)項目5点以下で研究参加に同意が得られたものとした。除外基準は重度の失語や認知症で指示理解の困難な者などとした。FIM移動・歩行が6点以上となった者を屋内歩行自立群(以下A群),5点以下となった者を屋内歩行非自立群(以下B群)の2群に分類した。収集データは年齢,高次脳機能障害,入院時FBS,入退院時それぞれのBr.stage,FIM,長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)とした。高次脳機能障害は,注意障害,半側空間無視,失行,失語,身体失認,記憶障害にあてはまった数を収集した。本研究の第一目的である屋内歩行自立可能性を予測する指標を得るために,入院時FBS得点を用い,歩行能力を弁別するカットオフ値を検討した。検討にはReceiver Operating Characteristic curve(ROC曲線)を用い,YOUDEN指数(感度+特異度-1)が最大となる値を最適なカットオフ値とした。また,A群とB群に関して年齢,入院時FBS,FIM,入退院時Br.stage,HDS-Rの群間比較を行った。Br.stageとHDS-Rは入院時と退院時の変化率の群間比較を行った。統計処理はマン・ホイットニーのU検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。

【結果】
A群は17名,B群15名であった。群間比較の結果(年齢A群70.9±8.4,B群71.3±7.8),年齢,Br.stageとHDS-Rの入退院時の変化率に有意差は認められなかった。入院時FBS(p<0.01),入院時Br.stage(p<0.01),退院時Br.stage(p<0.01),入院時FIM(p<0.01),入院時HDS-R(p<0.05),退院時HDS-R(p<0.05),当てはまった高次脳機能障害の数(p<0.02)で有意差を認めた。ROC曲線の結果,屋内歩行が自立出来るか,否かを分別するカットオフ値を入院時FBS16点とした時に感度が70.6%,特異度86.7%となり,Youden指数が最大となった。
【考察】
入院時歩行介助が必要であった脳卒中片麻痺患者における入院時のFBS,Br.stage,FIM,高次脳機能障害の数,認知機能低下は歩行自立に影響することが示唆された。また,大木らの先行研究において,歩行自立度の予後予測の指標としてFBSが活用され,そのカットオフ値は22点以上ならば入院中に歩行が自立する可能性が高いと報告されている。本研究は16点がカットオフ値として算出され,先行研究に対し低い数値の結果を得た。FBSは座位保持以上の動作能力を評価しており,認知機能低下や失語症で細かな動作指示が理解し難いことも少なくないと報告されている。本研究で入院時FBSカットオフ値16点となった理由は,軽度~中等度の認知症や高次脳機能障害を有している患者様も研究対象としたため,先行研究より低いカットオフ値になったのではないかと考えられる。しかし,本研究は回復期病棟の入院時において,運動機能の低下した者だけでなく,認知機能の低下した者や高次脳機能障害を有している者に対しても自立歩行に対する予測が可能となり,患者本人およびその家族に対して実現可能性の高い目標を提示することが可能になるのではないかと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得られた結果を臨床で参考することにより,高次脳機能障害,認知機能低下を含めた脳卒中片麻痺患者の歩行自立の可能性を予測する上で,特に臨床経験の少ない理学療法士にとっても有益であると考えられる。