第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法11

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1049] 重度上肢麻痺の改善に関わる因子 第二報

当院回復期リハビリテーション病棟での比較

大西徹也, 中島由美, 福田真也 (医療法人社団和風会橋本病院)

Keywords:片麻痺, 上肢機能, CT画像

【はじめに,目的】
脳卒中後の片麻痺において,上肢の機能回復は一般に下肢よりも実用的なレベルにまで回復することが困難である。当院では平成22年12月から平成26年10月までの期間に入院時上肢Brunstrome Recovery Stage(以下BRS)II以下であった患者55名中,退院時にBRSIV以上に改善した患者は14名であった。大多数は実用手の獲得が困難であったが入院時重度の上肢麻痺を有していても改善例は存在している。今回,上肢機能改善患者の因子をComputed Tomography(以下CT)評価も踏まえ検討した。
【方法】
当院回復期リハビリテーション病棟入院時に麻痺側上肢BRSII以下の初発脳卒中患者を対象とした。くも膜下出血,脳幹及び小脳部の障害は除外した。退院時の麻痺側上肢機能がBRSIV以上を改善群14名(43-87歳 男7名 梗塞9名 利き手麻痺7名 発症から入院30±16日),IV未満を非改善群41名(47-94歳 男21名 梗塞27名 利き手麻痺22名 発症から入院35±12日)とし比較を行う。CT撮影は入院時点とし撮影方法はnon helical scanを用い基底核,側脳室体部レベルでのスライス画像を用いた。基底核スライス画像では側脳室前角外側核から外側への平行線10%の幅と脈絡叢までの70%を内包後脚部分と規定し内包後脚部分前方1/3部位の病巣を調べた。側脳室体部スライス画像では側脳室外側のエリアで前核端から外側25%と後核端から外側40%を結ぶ線を規定し前方1/3部位の病巣を調べた。比較項目は発症から入院までの日数,年齢,性別,出血又は梗塞,利き手麻痺,認知症,半側空間無視及び注意障害及び身体失認を含む高次脳機能障害(以下高次脳機能障害),入院時嚥下障害,入院時下肢BRS,入院時Functional Independence Measure点数(以下入院時FIM),病棟での麻痺側上肢の使用又は上肢自主トレーニング実施(以下病棟麻痺側使用),基底核スライス画像,側脳室体部スライス画像での病巣の有無とした。カテゴリー変数にはχ2乗検定を用い連続変数には正規性を検定した後に対応のないt検定を,順序尺度にはMann-WhitneyのU検定を用いた。また相関係数により多重共線性の問題が無いことを確認し上肢機能改善を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。統計ソフトはDr.SPSSII for windowsを用い有意水準は5%未満とした。
【結果】
発症から入院までの日数,年齢,性別に有意差は無く,梗塞例は改善群64%,非改善群66%,利き手麻痺は改善群50%,非改善群54%,認知症は改善群29%,非改善群54%であった。高次脳機能障害は改善群13%,非改善群86%(P<0.01),入院時嚥下障害は改善群36%,非改善群71%(P<0.01),病棟麻痺側使用は改善群64%,非改善群5%(P<0.05),基底核スライス画像での損傷は改善群36%,非改善群73%(P<0.05),側脳室体部スライス画像での損傷は改善群36%,非改善群85%(P<0.01),入院時FIMは改善群53±22点,非改善群36±14点(P<0.05),入院時下肢BRSは改善群中央値3,非改善群中央値2(P<0.05)であった。有意差を認めた項目を用いロジスティック回帰分析を行い,病棟麻痺側使用(P=0.031)がオッズ比32.6を示した。また高次脳機能障害(P=0.03)はオッズ比0.06,側脳室体部スライス画像(P=0.03)はオッズ比0.04であった。
【考察】
CTより広範な脳梗塞を呈する患者に改善者は無く,出血例では血腫による圧排の収束に伴って上肢機能が改善するケースが散見された。今回規定した側脳室体部での損傷を有する患者は上肢麻痺の改善が乏しい上,運動機能以外の症状が多彩であった。側脳室体部には皮質脊髄路のみで無く連合線維や投射線維といった皮質間の連絡線維が密に存在する。非改善群では多数が高次脳機能障害を合併しており上肢機能改善の阻害因子となり得ている。その上,病棟生活場面では多くの患者が麻痺側上肢を使用できていない。しかし,病棟生活場面で麻痺側上肢使用の影響は大きく,上肢機能改善に繋がることが示唆された。入院時CTにて広範な梗塞巣が無く側脳室体部外側前方の損傷の可能性が低ければ病棟生活場面での麻痺側上肢使用は特に重要であり,上肢機能改善に寄与すると考える。
【理学療法学研究としての意義】
重度上肢麻痺の改善に関する報告は少なく廃用手となる症例を多く経験した。高次脳機能障害の阻害因子を考慮した上で病棟生活での麻痺側上肢使用による上肢機能改善の可能性を示せた。