[P3-A-1055] 立位姿勢における膝関節の位置覚について
キーワード:位置覚, 膝関節, 立位
【はじめに,目的】Perryは歩行立脚期の急激な膝関節の伸展や動揺を始めとする異常歩行の原因の一つに,膝関節の固有感覚の障害を上げている。そもそも,健常人においては歩行立脚期には膝関節位置を意識的に制御している訳ではない。しかし,臨床場面では脳卒中片麻痺患者などに対して意識的に膝関節位置の制御を求めることがある。そうであれば,ヒトは歩行時に膝関節の状態をどれだけ陳述的に認識できているのか知る必要がある。先行研究では座位や腹臥位による位置覚の研究は多くなされているが,立位姿勢での報告は少ない。そのため,今回は立位姿勢における膝関節の位置覚について調査した。
【方法】対象は整形外科的疾患などの既往歴のない健常成人男性30名,平均年齢28.1(22~41)歳とした。被検者は短パンを着用し裸足とした。壁から2m離れたところに両足を肩幅に開いて直立位となり,上肢を胸の前で組んだ。右側の大転子と外果にシールを貼付し,その二点を結んだ線上の殿溝,膝蓋骨上縁,脛骨粗面の高さにシールを貼付した。被検者は示された下肢のモデルの膝関節の角度に合わせるように両膝を屈曲して模倣した。その肢位を3m右側方よりデジタルカメラで撮影した。ゴニオメーター(SMITH&NEPHEW社)の軸に膝関節がくるように転子果長50cmの下肢のモデルをゴニオメーターに貼り付けた。膝関節の設定角度は5度,10度,15度,25度,30度,35度とし,ランダムに3秒間提示した。撮影した写真を用いてシールを目印に膝関節の模倣角度をimageJにより測定し,設定角度との違いを調べた。得られた結果の中で設定角度よりも10度以上過大に屈曲したものと,10度以上過小であったものと,その中間のものとの発生率を調べた。統計学的検討はWilcoxonの符号不順和検定とクラスカル・ワーラス検定を用い,5%を有意水準とした。
【結果】各膝関節屈曲角度の平均値は5度:11.0±5.5度,10度:13.9±6.6度,15度:19.9±7.0度,25度:24.2±6.8度,30度29.1±8.2度,35度:33.2±7.5度でそれぞれの設定角度と模倣角度との違いについて有意差はみられなかった。設定角度に対して10度以上の誤差を示した人数は,設定角度が5度:過大23%,中間77%,過小-,10度:過大27%,中間73%,過小0%,15度:過大20%,中間80%,過小0%,25度:過大3%,中間77%,過小20%,30度:過大10%,中間70%,過小20%,35度:過大3%,中間80%,過小17%であった。5度~15度まではより屈曲位に,25度~35度まではより伸展位に模倣する傾向がみられた。
【考察】山田らによると若年健常成人の膝関節位置覚を腹臥位で測定し,模倣角度の誤差範囲は8~14度であり,10度以上の誤差を示す者が多く認められたと報告している。今回の結果も同様に10度以上の誤差を示す者がみられた。しかし,これらの先行研究は腹臥位であり,他の先行研究においても腹臥位や座位での研究をよく目にする。また,杉原らによると腹臥位にて自動運動で筋収縮しながら膝関節屈曲した方が位置覚の誤差が4度程度であり他動運動時に比べて誤差が少なかったとの報告している。しかし,今回は立位にて測定し,下肢の筋収縮が生じていたにも関わらず10度以上の誤差が平均22%の者にみられ,異なる結果となった。誤差を平均値でみると5.0~7.3度と大きな違いはないが,個々でみると最大で25度と大きく外れている者もいた。また,10度以上の誤差が生じている群の特徴として5~15度まではより屈曲位に,25~35度まではより伸展位に模倣する傾向がみられた。Mageeによると膝関節の最大緩みの肢位は膝関節屈曲25度と報告している。そのことを考えると,5~15度では膝関節後方の軟部組織がより伸長され,25~35度では膝関節前方の軟部組織がより伸長され,メカノレセプターからの情報量が膝関節の前後で異なることが何かしら関連していると考えられる。このような膝関節角度による違いが歩行機能とどのように関係しているのか,脳卒中患者を含めて今後考えていく必要がある。今回は体重をかけた立位姿勢で研究を行ったが,歩行などの下肢機能を考えた時の荷重位での位置覚の検査を考える必要性があると考える。また,今回の結果のように健常成人でも10度以上の誤差がみられ平均22%の者にみられており,Perryの固有感覚障害と異常歩行について再度検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】健常成人でさえ立位姿勢で位置覚の10度以上の誤差が平均22%の者にみられたため,位置覚の障害と膝関節に関する異常歩行の関係を見直していく必要があると示唆された。
【方法】対象は整形外科的疾患などの既往歴のない健常成人男性30名,平均年齢28.1(22~41)歳とした。被検者は短パンを着用し裸足とした。壁から2m離れたところに両足を肩幅に開いて直立位となり,上肢を胸の前で組んだ。右側の大転子と外果にシールを貼付し,その二点を結んだ線上の殿溝,膝蓋骨上縁,脛骨粗面の高さにシールを貼付した。被検者は示された下肢のモデルの膝関節の角度に合わせるように両膝を屈曲して模倣した。その肢位を3m右側方よりデジタルカメラで撮影した。ゴニオメーター(SMITH&NEPHEW社)の軸に膝関節がくるように転子果長50cmの下肢のモデルをゴニオメーターに貼り付けた。膝関節の設定角度は5度,10度,15度,25度,30度,35度とし,ランダムに3秒間提示した。撮影した写真を用いてシールを目印に膝関節の模倣角度をimageJにより測定し,設定角度との違いを調べた。得られた結果の中で設定角度よりも10度以上過大に屈曲したものと,10度以上過小であったものと,その中間のものとの発生率を調べた。統計学的検討はWilcoxonの符号不順和検定とクラスカル・ワーラス検定を用い,5%を有意水準とした。
【結果】各膝関節屈曲角度の平均値は5度:11.0±5.5度,10度:13.9±6.6度,15度:19.9±7.0度,25度:24.2±6.8度,30度29.1±8.2度,35度:33.2±7.5度でそれぞれの設定角度と模倣角度との違いについて有意差はみられなかった。設定角度に対して10度以上の誤差を示した人数は,設定角度が5度:過大23%,中間77%,過小-,10度:過大27%,中間73%,過小0%,15度:過大20%,中間80%,過小0%,25度:過大3%,中間77%,過小20%,30度:過大10%,中間70%,過小20%,35度:過大3%,中間80%,過小17%であった。5度~15度まではより屈曲位に,25度~35度まではより伸展位に模倣する傾向がみられた。
【考察】山田らによると若年健常成人の膝関節位置覚を腹臥位で測定し,模倣角度の誤差範囲は8~14度であり,10度以上の誤差を示す者が多く認められたと報告している。今回の結果も同様に10度以上の誤差を示す者がみられた。しかし,これらの先行研究は腹臥位であり,他の先行研究においても腹臥位や座位での研究をよく目にする。また,杉原らによると腹臥位にて自動運動で筋収縮しながら膝関節屈曲した方が位置覚の誤差が4度程度であり他動運動時に比べて誤差が少なかったとの報告している。しかし,今回は立位にて測定し,下肢の筋収縮が生じていたにも関わらず10度以上の誤差が平均22%の者にみられ,異なる結果となった。誤差を平均値でみると5.0~7.3度と大きな違いはないが,個々でみると最大で25度と大きく外れている者もいた。また,10度以上の誤差が生じている群の特徴として5~15度まではより屈曲位に,25~35度まではより伸展位に模倣する傾向がみられた。Mageeによると膝関節の最大緩みの肢位は膝関節屈曲25度と報告している。そのことを考えると,5~15度では膝関節後方の軟部組織がより伸長され,25~35度では膝関節前方の軟部組織がより伸長され,メカノレセプターからの情報量が膝関節の前後で異なることが何かしら関連していると考えられる。このような膝関節角度による違いが歩行機能とどのように関係しているのか,脳卒中患者を含めて今後考えていく必要がある。今回は体重をかけた立位姿勢で研究を行ったが,歩行などの下肢機能を考えた時の荷重位での位置覚の検査を考える必要性があると考える。また,今回の結果のように健常成人でも10度以上の誤差がみられ平均22%の者にみられており,Perryの固有感覚障害と異常歩行について再度検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】健常成人でさえ立位姿勢で位置覚の10度以上の誤差が平均22%の者にみられたため,位置覚の障害と膝関節に関する異常歩行の関係を見直していく必要があると示唆された。