[P3-A-1062] 脳血管疾患と大腿骨近位部骨折後の退院時歩行形態に関する回復期病院入院時の予後予測の比較検討
―できるFIMを用いて―
Keywords:予後予測, 歩行形態, できるFIM
【はじめに,目的】自宅復帰や早期社会復帰へ目標を定めるために入院早期から退院時の適切な予後予測を行う必要があることから,回復期病院での予後予測研究が数多く行われている。当院はADLとしてのFIMだけでなく,できるFIMを入院時と毎月朔日に評価している。一般的にFIM得点は,病棟での評価よりも訓練室での評価の方が高い点数になると言われ,その理由として機能の未習得,訓練場面以外で行動を起こすには疲れすぎていること,意欲がないことと報告されている。入院時のリハビリ訓練にて潜在的な能力=できるFIMから退院時の歩行形態の予後予測が可能となれば,本人や家族に対してより迅速な退院後のプランニング調整が可能となると考える。我々は,第33回関東甲信越ブロック理学療法士学会にて大腿骨近位部骨折後の症例に関して,病前歩行形態へ改善したか否か(以下,病前歩行改善有無),歩行が自立へ改善したか否か(以下,歩行自立改善有無)の2条件について,できるFIM下位項目を用いた予後予測検討を報告し,前者はベッド移乗項目(オッズ比/カットオフ値/感度/特異度が4.54倍/5点/85%/53%),後者はベッド移乗,上衣,表出項目(同3.62倍/5点/83%/63%,2.09倍/7点/61%/90%,2.28倍/7点/83%/66%)が抽出された。今回は脳血管疾患症例を対象に回復期病院入院時のできるFIM下位項目を用いた歩行形態の指標となる項目を検討し,大腿骨近位部骨折症例との比較を行うことを目的とした。
【方法】2013年1年間の脳血管疾患での当回復期病院入院患者170名(平均年齢:69.5±12.8歳,男性91名,女性79名,脳梗塞102名,脳出血64名,その他4名)を調査対象とした。対象者の入院時できるFIM下位項目を,退院時に“病前歩行改善有無”“歩行自立改善有無(歩行形態は考慮しない)”の2条件を各々2群間でMann-Whitney U検定にて比較検討した。階段昇降,入浴,浴槽移乗項目は入院時に未実施の場合が多く検討項目から除外した。その後,有意差が認められた項目に関して,ステップワイズの変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行い,この結果で得られた項目に対しROC分析を行った。尚,説明変数間の相関関係がSpearmanの順位相関係数にてr>0.9となった場合は多重共線性の回避のため,一方のFIM項目を除外した。統計ソフトはEZR 1.22を使用し,有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】病前歩行形態へ改善した率は53%,自立へ改善した率は65%であり,入院時できるFIM項目は2条件共に全てで改善群が有意に高値であった。上衣-下衣-トイレ動作の3項目間,トイレ動作-トイレ移乗間,排尿管理-排便管理間,ベッド移乗-トイレ移乗間,理解-表出間にr>0.9の相関がみられたため上衣,下衣,トイレ移乗,排尿管理,表出項目を除外し,多重ロジスティック回帰分析を実施したところ,前者は歩行,理解項目が抽出され,オッズ比/カットオフ値/感度/特異度が順に2.28倍/5点/67%/91%,1.47倍/5点/82%/61%であった。後者はトイレ動作,社会的交流項目が抽出され,順に2.07倍/5点/68%/92%,1.74倍/4点/89%/64%であった。
【考察】病前歩行改善有無に関しては,入院時に歩行・理解項目が監視レベル必要であることがわかった。大腿骨近位部骨折後はベッド移乗項目のカットオフ値が監視レベルであり,脳血管疾患では大腿骨近位部骨折後よりも回復期入院時に求められる能力が高い可能性が考えられる。また,自立改善有無に関しては,入院時にトイレ動作が監視,社会的交流項目は最小介助レベル必要であり,相関関係を踏まえると,トイレに関連する動作(上衣・下衣・トイレ移乗)が入院時の予後予測に携わる可能性が考えられる。また,ベッド移乗項目の監視が必要な大腿骨近位部骨折後と異なり,下肢だけでなく上肢・体幹へも障害が起きうるため,トイレ動作のような多要因が関わる能力が影響を及ぼすことが考えられる。さらに,表出のカットオフ値が自立である大腿骨近位部骨折後に比べ,脳血管疾患では理解が監視レベル,社会的交流が最小介助レベルと,できる能力が低い状態でも病前歩行形態や自立への改善が起こることから,認知機能の低下よりも,脳血管疾患による高次脳機能障害や高率に出現するうつ状態が原因であることが考えられる。今後は,できるFIMが共通尺度ではなく信頼性や妥当性が十分ではないこと,歩行項目に関してはできるFIMとしているFIMで解離が大きく生じることが予測されることから,今回の研究を発展させるためにできるFIMとしているFIMの関連性を調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】退院後ADLの早期プランニングにおいて有意義な研究となりうる。
【方法】2013年1年間の脳血管疾患での当回復期病院入院患者170名(平均年齢:69.5±12.8歳,男性91名,女性79名,脳梗塞102名,脳出血64名,その他4名)を調査対象とした。対象者の入院時できるFIM下位項目を,退院時に“病前歩行改善有無”“歩行自立改善有無(歩行形態は考慮しない)”の2条件を各々2群間でMann-Whitney U検定にて比較検討した。階段昇降,入浴,浴槽移乗項目は入院時に未実施の場合が多く検討項目から除外した。その後,有意差が認められた項目に関して,ステップワイズの変数減少法による多重ロジスティック回帰分析を行い,この結果で得られた項目に対しROC分析を行った。尚,説明変数間の相関関係がSpearmanの順位相関係数にてr>0.9となった場合は多重共線性の回避のため,一方のFIM項目を除外した。統計ソフトはEZR 1.22を使用し,有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】病前歩行形態へ改善した率は53%,自立へ改善した率は65%であり,入院時できるFIM項目は2条件共に全てで改善群が有意に高値であった。上衣-下衣-トイレ動作の3項目間,トイレ動作-トイレ移乗間,排尿管理-排便管理間,ベッド移乗-トイレ移乗間,理解-表出間にr>0.9の相関がみられたため上衣,下衣,トイレ移乗,排尿管理,表出項目を除外し,多重ロジスティック回帰分析を実施したところ,前者は歩行,理解項目が抽出され,オッズ比/カットオフ値/感度/特異度が順に2.28倍/5点/67%/91%,1.47倍/5点/82%/61%であった。後者はトイレ動作,社会的交流項目が抽出され,順に2.07倍/5点/68%/92%,1.74倍/4点/89%/64%であった。
【考察】病前歩行改善有無に関しては,入院時に歩行・理解項目が監視レベル必要であることがわかった。大腿骨近位部骨折後はベッド移乗項目のカットオフ値が監視レベルであり,脳血管疾患では大腿骨近位部骨折後よりも回復期入院時に求められる能力が高い可能性が考えられる。また,自立改善有無に関しては,入院時にトイレ動作が監視,社会的交流項目は最小介助レベル必要であり,相関関係を踏まえると,トイレに関連する動作(上衣・下衣・トイレ移乗)が入院時の予後予測に携わる可能性が考えられる。また,ベッド移乗項目の監視が必要な大腿骨近位部骨折後と異なり,下肢だけでなく上肢・体幹へも障害が起きうるため,トイレ動作のような多要因が関わる能力が影響を及ぼすことが考えられる。さらに,表出のカットオフ値が自立である大腿骨近位部骨折後に比べ,脳血管疾患では理解が監視レベル,社会的交流が最小介助レベルと,できる能力が低い状態でも病前歩行形態や自立への改善が起こることから,認知機能の低下よりも,脳血管疾患による高次脳機能障害や高率に出現するうつ状態が原因であることが考えられる。今後は,できるFIMが共通尺度ではなく信頼性や妥当性が十分ではないこと,歩行項目に関してはできるFIMとしているFIMで解離が大きく生じることが予測されることから,今回の研究を発展させるためにできるFIMとしているFIMの関連性を調査していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】退院後ADLの早期プランニングにおいて有意義な研究となりうる。