[P3-A-1067] 地域在住高齢者の段差昇降能力と運動機能との関連
キーワード:段差昇降能力, 運動機能, 高齢者
【はじめに,目的】
高齢者が「要介護」となりやすい動作,すなわち日常生活動作の自立が困難となりやすい動作は段差昇降動作であることが指摘されている。近年,運動機能低下による要介護状態および要介護リスクの高い状態を示す「運動器症候群;ロコモティブシンドローム」が着目されており,我々は起居移動動作のなかで段差昇降動作の能力低下がロコモティブシンドロームに大きく影響を及ぼす要因であることを明らかにした。しかし,この段差昇降動作の能力低下にはどのような運動機能が関連しているのかについて,詳細に検討した研究は見当たらない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象に運動機能を多面的に評価し,段差昇降動作能力との関連性について検討することを目的とした。
【方法】
対象は地域在住の健常高齢者174名(男性38名,女性136名,年齢73.0±16.0歳,身長154.3±13.8cm,体重52.6±32.4kg)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。
段差昇降動作能力は段差昇降回数を用いて評価した。20cm台を用い,右下肢は台に乗せたままの状態とし,左下肢を台に昇段させて再度床へ戻す動作をできるだけ速く反復させ,30秒間での段差昇降回数を測定した。運動機能について,下肢筋力として股関節伸展筋力および膝関節伸展筋力,筋パワーとして垂直跳び,静的バランス機能として開眼片脚立位保持時間,動的バランス機能としてTimed Up and Go test(TUG),筋持久力として30秒立ち座り回数(CST),下肢敏捷性としてステッピングテスト,全身持久力としてシャトル・スタミナ・テスト(SST)を測定した。なお,股関節伸展筋力は長座位にて股関節屈曲90度位,膝関節伸展筋力は椅座位で膝関節屈曲90度位での最大等尺性筋力を測定した。ステッピングテストは椅座位で足元の30cm間隔の2本の線の内側に両足を置いた姿勢を開始肢位とし,20秒間でできるだけ速く線を踏まないように両足を開閉できた回数を測定した。シャトル・スタミナ・テスト(SST)は3分間の歩行距離を測定した。また,下肢および腰部の疼痛の有無について質問紙を用いて調査した。
統計解析について,従属変数を段差昇降回数,独立変数を年齢,性別,運動機能(股関節伸展筋力,膝関節伸展筋力,垂直跳び,片脚立位時間,TUG,CST,ステッピング,SST)および下肢・腰部痛の有無とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
段差昇降回数は27.5±17.5回,股関節伸展筋力は151.6±146.3Nm,膝関節伸展筋力は116.2±109.1Nm,垂直跳びは26.5±19.5cm,開眼片脚立位保持時間は36.8±36.3秒,TUGは7.7±3.4秒,30秒立ち座り回数は26.0±14.0回,ステッピングテストは38.0±17.0回,SSTは267.5±107.5mであった。段差昇降回数を従属変数とした重回帰分析の結果,股関節伸展筋力(標準偏回帰係数;0.27),垂直跳び(標準偏回帰係数;0.16),TUG(標準偏回帰係数;-0.20)の3項目が有意な因子として抽出された(決定係数;0.17)。
【考察】
大きな重心移動を伴う段差昇降動作は高齢者が自立困難となりやすい日常生活動作である。今回,地域在住高齢者の運動機能を多面的に評価し,段差昇降能力との関連性について分析した結果,運動機能のなかでも特に股関節伸展筋力,筋パワー,動的バランス機能が段差昇降能力に影響を及ぼしていることが示唆された。膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が段差昇降能力と関連していたことについて,高齢者が素速く昇段動作を行う際に段差にかかる最大荷重量には膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が関連していることが報告されている。このことから,下肢で強く支持面を蹴って,できるだけ素速く昇降動作を行うためには,膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が重要であると考えられた。また,今回の段差昇降動作においては,上下の大きな重心移動を素速く行う必要があるため,筋パワーや動的バランス機能も影響を及ぼす因子として抽出されたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,高齢者の段差昇降能力の向上を目的とした理学療法を行うにあたっては,運動機能のなかでも特に股関節伸展筋力,筋パワー,動的バランス機能について評価・介入していくことが重要であることが示唆された。
高齢者が「要介護」となりやすい動作,すなわち日常生活動作の自立が困難となりやすい動作は段差昇降動作であることが指摘されている。近年,運動機能低下による要介護状態および要介護リスクの高い状態を示す「運動器症候群;ロコモティブシンドローム」が着目されており,我々は起居移動動作のなかで段差昇降動作の能力低下がロコモティブシンドロームに大きく影響を及ぼす要因であることを明らかにした。しかし,この段差昇降動作の能力低下にはどのような運動機能が関連しているのかについて,詳細に検討した研究は見当たらない。そこで,本研究では地域在住高齢者を対象に運動機能を多面的に評価し,段差昇降動作能力との関連性について検討することを目的とした。
【方法】
対象は地域在住の健常高齢者174名(男性38名,女性136名,年齢73.0±16.0歳,身長154.3±13.8cm,体重52.6±32.4kg)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。
段差昇降動作能力は段差昇降回数を用いて評価した。20cm台を用い,右下肢は台に乗せたままの状態とし,左下肢を台に昇段させて再度床へ戻す動作をできるだけ速く反復させ,30秒間での段差昇降回数を測定した。運動機能について,下肢筋力として股関節伸展筋力および膝関節伸展筋力,筋パワーとして垂直跳び,静的バランス機能として開眼片脚立位保持時間,動的バランス機能としてTimed Up and Go test(TUG),筋持久力として30秒立ち座り回数(CST),下肢敏捷性としてステッピングテスト,全身持久力としてシャトル・スタミナ・テスト(SST)を測定した。なお,股関節伸展筋力は長座位にて股関節屈曲90度位,膝関節伸展筋力は椅座位で膝関節屈曲90度位での最大等尺性筋力を測定した。ステッピングテストは椅座位で足元の30cm間隔の2本の線の内側に両足を置いた姿勢を開始肢位とし,20秒間でできるだけ速く線を踏まないように両足を開閉できた回数を測定した。シャトル・スタミナ・テスト(SST)は3分間の歩行距離を測定した。また,下肢および腰部の疼痛の有無について質問紙を用いて調査した。
統計解析について,従属変数を段差昇降回数,独立変数を年齢,性別,運動機能(股関節伸展筋力,膝関節伸展筋力,垂直跳び,片脚立位時間,TUG,CST,ステッピング,SST)および下肢・腰部痛の有無とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
段差昇降回数は27.5±17.5回,股関節伸展筋力は151.6±146.3Nm,膝関節伸展筋力は116.2±109.1Nm,垂直跳びは26.5±19.5cm,開眼片脚立位保持時間は36.8±36.3秒,TUGは7.7±3.4秒,30秒立ち座り回数は26.0±14.0回,ステッピングテストは38.0±17.0回,SSTは267.5±107.5mであった。段差昇降回数を従属変数とした重回帰分析の結果,股関節伸展筋力(標準偏回帰係数;0.27),垂直跳び(標準偏回帰係数;0.16),TUG(標準偏回帰係数;-0.20)の3項目が有意な因子として抽出された(決定係数;0.17)。
【考察】
大きな重心移動を伴う段差昇降動作は高齢者が自立困難となりやすい日常生活動作である。今回,地域在住高齢者の運動機能を多面的に評価し,段差昇降能力との関連性について分析した結果,運動機能のなかでも特に股関節伸展筋力,筋パワー,動的バランス機能が段差昇降能力に影響を及ぼしていることが示唆された。膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が段差昇降能力と関連していたことについて,高齢者が素速く昇段動作を行う際に段差にかかる最大荷重量には膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が関連していることが報告されている。このことから,下肢で強く支持面を蹴って,できるだけ素速く昇降動作を行うためには,膝関節伸展筋力よりも股関節伸展筋力が重要であると考えられた。また,今回の段差昇降動作においては,上下の大きな重心移動を素速く行う必要があるため,筋パワーや動的バランス機能も影響を及ぼす因子として抽出されたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,高齢者の段差昇降能力の向上を目的とした理学療法を行うにあたっては,運動機能のなかでも特に股関節伸展筋力,筋パワー,動的バランス機能について評価・介入していくことが重要であることが示唆された。