[P3-A-1076] 最大一歩幅能力の違いと自己身体認識の関係
キーワード:最大一歩幅, 見積り, 成人
【目的】
高齢者の転倒は我々理学療法士にとって大きな問題であり,様々な転倒因子の検討がなされている。これまで転倒リスクの予測としては,健脚度(10m全力歩行,最大一歩幅,40cm踏み台昇降)やFunctional reach test(以下,FRT)など運動機能をみることを1つの指標としてきた。最近ではFRT等を用いて,個人における安定性限界の自己認識と実測値との誤差が転倒と関連しているとされており,運動機能のみが影響しているわけではないことが報告されている。しかし,高齢者における転倒は歩行中に起こることが多く,FRTよりも歩行に類似したダイナミックな評価が必要と思われる。そこで今回健常成人を対象に,歩行に類似し且つ簡便に下肢筋力を反映する最大一歩幅を測定し,その能力の違いが最大一歩幅及びFRTとの自己身体認識に及ぼす影響について比較したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人47名(性別:男性30名,女性17名,平均年齢23.3±2.9歳,平均BMI21.3±3.5kg/m2)とした。対象者には最大一歩幅の予測値を出させた後,実測値を測定し,実測値を下肢長で除し補正した値(以下,下肢長比)を算出した。そして,下肢長比が全対象者の結果の中央値よりも低い値を示した者を低値群(平均年齢22.8±2.8歳,平均BMI21.7±3.5kg/m2),中央値よりも高い値を示した者を高値群(平均年齢23.8±3.0歳,平均BMI22.6±4.2kg/m2)とし,2群の対象者の身体機能に差がないことを確認するためTimed up go testの最速タイム(以下,TUG)を計測した。最大一歩幅の予測値は,実測前に静止立位から利き足をできるだけ大きく前方に踏み出した後,もう一方の足を横にそろえることができる踵の位置をイメージさせ,開始位置の足尖部から踵までの距離を測定した。実際の測定も,同様に実施した。次にFRTの予測値と実測値を測定した。FRTの予測値は実測前に,静止立位で利き手をできるだけ前方にリーチした際に第3指尖が到達する位置をイメージさせ,その位置と肩関節90°屈曲位での第3指尖の距離を測定した。統計学的解析は,低値群と高値群において,それぞれ対応のないt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
TUGは低値群4.9±0.8sec,高値群4.7±0.6secで有意差を認めなかった。最大一歩幅の結果は低値群で,予測値91.5±13.5cm,実測値83.8±11.7cmとなり,予測値が有意に高値を示した(p<0.05,95%CI:0.38~15.1)。高値群では予測値106.2±13.2cm,実測値105.0±7.4cmとなり有意差を認めなかった。また,低値群では20名(83%),高値群では11名(48%)が過大予測を呈していた。FRTの結果は低値群で予測値27.4±9.2cm,実測値36.4±5.9cmで予測値が有意に低値を示し(p<0.05,95%CI:-13.5~-4.50),高値群においても予測値35.2±7.8cm,実測値39.5±6.2cmで予測値が有意に低値を示した(p<0.05,95%CI:-8.50~-0.09)。またFRTにおいて低値群で23名(96%),高値群では20名(87%)が過小予測であった。
【考察】
本研究結果より,最大一歩幅が低値を示す者は,最大一歩幅の予測値と実測値に差があることが認められ,過大予測傾向であった。また先行研究でも多く用いられているFRTの見積りでは,両群ともに予測値と実測値に有意差が認められ,対象者のほとんどが過小予測していたため,上肢機能と下肢機能の運動見積りは同様の身体認識ではない可能性が考えられた。長谷川(2010)らは,健常成人の最大一歩幅の予測値と実測値の差の絶対値が11.0±7.3cmであったことを述べており,本研究における全対象者の差の絶対値(10.4±7.4cm)と近似した値であるため本研究データは信頼性のあるものと考える。その中で最大一歩幅能力の違いによる2群間での検討で,下肢機能の身体認識に差がでていることは,歩行中の転倒に対し検討を行っていく際には,FRTよりも最大一歩幅が有用な評価となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
加齢や転倒歴のあるもので,自己身体認識能力の低下が認められているが,最大一歩幅のような運動機能が自己身体認識に影響を与えていることはあまり報告されておらず,今後高齢者や転倒歴のあるものを対象として検討を行っていくことで,転倒予測因子の1つとなりうる可能性が示唆された。
高齢者の転倒は我々理学療法士にとって大きな問題であり,様々な転倒因子の検討がなされている。これまで転倒リスクの予測としては,健脚度(10m全力歩行,最大一歩幅,40cm踏み台昇降)やFunctional reach test(以下,FRT)など運動機能をみることを1つの指標としてきた。最近ではFRT等を用いて,個人における安定性限界の自己認識と実測値との誤差が転倒と関連しているとされており,運動機能のみが影響しているわけではないことが報告されている。しかし,高齢者における転倒は歩行中に起こることが多く,FRTよりも歩行に類似したダイナミックな評価が必要と思われる。そこで今回健常成人を対象に,歩行に類似し且つ簡便に下肢筋力を反映する最大一歩幅を測定し,その能力の違いが最大一歩幅及びFRTとの自己身体認識に及ぼす影響について比較したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人47名(性別:男性30名,女性17名,平均年齢23.3±2.9歳,平均BMI21.3±3.5kg/m2)とした。対象者には最大一歩幅の予測値を出させた後,実測値を測定し,実測値を下肢長で除し補正した値(以下,下肢長比)を算出した。そして,下肢長比が全対象者の結果の中央値よりも低い値を示した者を低値群(平均年齢22.8±2.8歳,平均BMI21.7±3.5kg/m2),中央値よりも高い値を示した者を高値群(平均年齢23.8±3.0歳,平均BMI22.6±4.2kg/m2)とし,2群の対象者の身体機能に差がないことを確認するためTimed up go testの最速タイム(以下,TUG)を計測した。最大一歩幅の予測値は,実測前に静止立位から利き足をできるだけ大きく前方に踏み出した後,もう一方の足を横にそろえることができる踵の位置をイメージさせ,開始位置の足尖部から踵までの距離を測定した。実際の測定も,同様に実施した。次にFRTの予測値と実測値を測定した。FRTの予測値は実測前に,静止立位で利き手をできるだけ前方にリーチした際に第3指尖が到達する位置をイメージさせ,その位置と肩関節90°屈曲位での第3指尖の距離を測定した。統計学的解析は,低値群と高値群において,それぞれ対応のないt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
TUGは低値群4.9±0.8sec,高値群4.7±0.6secで有意差を認めなかった。最大一歩幅の結果は低値群で,予測値91.5±13.5cm,実測値83.8±11.7cmとなり,予測値が有意に高値を示した(p<0.05,95%CI:0.38~15.1)。高値群では予測値106.2±13.2cm,実測値105.0±7.4cmとなり有意差を認めなかった。また,低値群では20名(83%),高値群では11名(48%)が過大予測を呈していた。FRTの結果は低値群で予測値27.4±9.2cm,実測値36.4±5.9cmで予測値が有意に低値を示し(p<0.05,95%CI:-13.5~-4.50),高値群においても予測値35.2±7.8cm,実測値39.5±6.2cmで予測値が有意に低値を示した(p<0.05,95%CI:-8.50~-0.09)。またFRTにおいて低値群で23名(96%),高値群では20名(87%)が過小予測であった。
【考察】
本研究結果より,最大一歩幅が低値を示す者は,最大一歩幅の予測値と実測値に差があることが認められ,過大予測傾向であった。また先行研究でも多く用いられているFRTの見積りでは,両群ともに予測値と実測値に有意差が認められ,対象者のほとんどが過小予測していたため,上肢機能と下肢機能の運動見積りは同様の身体認識ではない可能性が考えられた。長谷川(2010)らは,健常成人の最大一歩幅の予測値と実測値の差の絶対値が11.0±7.3cmであったことを述べており,本研究における全対象者の差の絶対値(10.4±7.4cm)と近似した値であるため本研究データは信頼性のあるものと考える。その中で最大一歩幅能力の違いによる2群間での検討で,下肢機能の身体認識に差がでていることは,歩行中の転倒に対し検討を行っていく際には,FRTよりも最大一歩幅が有用な評価となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
加齢や転倒歴のあるもので,自己身体認識能力の低下が認められているが,最大一歩幅のような運動機能が自己身体認識に影響を与えていることはあまり報告されておらず,今後高齢者や転倒歴のあるものを対象として検討を行っていくことで,転倒予測因子の1つとなりうる可能性が示唆された。