[P3-A-1099] 麻痺側立脚期の反張膝に対して短下肢装具を用いた歩行練習が1症例に及ぼした影響
Keywords:短下肢装具, 歩行, 関節角度
【はじめに,目的】
健常者に対し,短下肢装具を装着して歩行時筋活動,下肢関節角度を計測し,足関節の底背屈角度による筋活動および他関節の角度へ影響を検討した。裸足歩行と比較し,背屈10°の設定において,立脚中期における膝関節屈曲角度,大腿四頭筋の筋活動の増大と立脚終期における股関節伸展角度,腓腹筋の筋活動の増大を認めた。小林らは,AFO装着によって足部機能が制限されることを他の関節機能で代償すると報告している。関川らは,AFOに必要な装具機能を付加することにより片麻痺者の麻痺側下腿の筋活動は変化し,歩行を改善すると報告している。麻痺側立脚期に反張膝を認める片麻痺症例において,背屈10°に設定した短下肢装具を装着することで,立脚終期の股関節伸展角度を保ちながら膝関節の反張膝が減少するか検討することが目的である。
【方法】
脳血管疾患患者1例(以下,症例)に対して,短下肢装具を装着した歩行(以下,装具歩行)の前後に実施した,裸足歩行時の麻痺側股関節,膝関節の関節角度を計測し,比較,検討した。症例はアテローム血栓性脳梗塞を発症し,右片麻痺を呈した男性であった。Brunnstrom recovery stageは上肢II,手指II,下肢IVであり,歩行補助具を使用せず,歩行は自立しているが,麻痺側立脚期の反張膝が問題点であった。短下肢装具は,調整機能付後方平板支柱型短下肢装具TAPS-AFO(東名ブレース社)を装着し,装着下の足関節底背屈角度を背屈10°に固定した。症例には麻痺側の肩峰,上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上顆,腓骨頭,外果,第5中足骨頭に印をつけた。装具歩行前後の裸足歩行,装具歩行を各2回ずつ撮影した。歩容の撮影は対馬らの報告をもとに,デジタルビデオカメラを身体部位が画面中央で撮影できる高さに三脚で固定し,正投影面から実施した。撮影した動画より初期接地,荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の静止画を抽出し,関節角度を計測した。Image Jを使用して各静止画における股関節,膝関節の屈曲,伸展角度を計測した。装具歩行前後の裸足歩行,装具歩行における2歩行周期の平均関節角度を算出し,比較した。
【結果】
装具歩行前の裸足歩行では,股関節屈曲17°で初期接地となり,立脚終期には伸展5.5°と伸展していき,前遊脚期には屈曲3.5°となった。膝関節は,初期接地が屈曲19°,荷重応答期が屈曲26°,立脚中期が屈曲25.5°と大きく変化せず,立脚終期に屈曲13°と中期から終期に12.5°伸展した。前遊脚期には屈曲34.5°となった。装具歩行の股関節は,屈曲14.5°で初期接地し,荷重応答期に屈曲10°,立脚中期に屈曲7.5°と屈曲位を保ち,立脚終期に伸展5°と12.5°伸展し,前遊脚期には屈曲3.5°となった。膝関節においては,初期接地で屈曲26.5°,荷重応答期は29°,立脚中期に26°,立脚終期に25°,前遊脚期に32°であった。装具歩行後の裸足歩行では,股関節屈曲15°で初期接地となり,立脚中期の屈曲9°から立脚終期に伸展8.5°と17.5°伸展し,前遊脚期には屈曲2°であった。膝関節は,初期接地が屈曲20°,荷重応答期が28°,立脚中期が25°,立脚終期が23°と大きく変化せず,前遊脚期は屈曲37.5°であった。
【考察】
装具歩行前後の裸足歩行を比較すると,装具歩行前では立脚中期から終期に12.5°伸展していた歩容に対し,装具歩行後には2°の伸展に減少した。装具歩行において,立脚中期から終期の伸展が1°であったことから,装具歩行は本症例の立脚中期から終期の膝関節屈曲を促す効果があったと推察する。諸角らは,立脚中期膝最大伸展角度は足関節底屈制動の増加によって屈曲傾向を示したと報告している。装具歩行において,立脚終期まで屈曲角度を維持できていたことから,本症例の反張膝を制御できたと考える。丸山らは,膝ロッキングの原因を骨盤周囲,膝関節伸展筋の筋活動不足,膝関節伸展筋の過剰収縮,足関節背屈制限の4つを挙げている。足関節背屈を設定した装具歩行を練習として用いることで,反張膝を制御でき,その後の裸足歩行において,立脚中期から終期における伸展角度が減少した可能性がある。本症例に対して,足関節の背屈設定を行った装具歩行練習を行うことは,立脚中期から終期の膝関節伸展角度に影響を及ぼすことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
立脚期に認める反張膝の原因は様々である中で,装具を用いた歩行練習を行うことで,本症例の反張膝は軽減した。特に,立脚中期から終期に認める膝関節の伸展角度の減少に影響があった。反張膝が出現する時期とその時期に合わせた足関節背屈角度の設定を詳細に検討していくことが今後必要である。
健常者に対し,短下肢装具を装着して歩行時筋活動,下肢関節角度を計測し,足関節の底背屈角度による筋活動および他関節の角度へ影響を検討した。裸足歩行と比較し,背屈10°の設定において,立脚中期における膝関節屈曲角度,大腿四頭筋の筋活動の増大と立脚終期における股関節伸展角度,腓腹筋の筋活動の増大を認めた。小林らは,AFO装着によって足部機能が制限されることを他の関節機能で代償すると報告している。関川らは,AFOに必要な装具機能を付加することにより片麻痺者の麻痺側下腿の筋活動は変化し,歩行を改善すると報告している。麻痺側立脚期に反張膝を認める片麻痺症例において,背屈10°に設定した短下肢装具を装着することで,立脚終期の股関節伸展角度を保ちながら膝関節の反張膝が減少するか検討することが目的である。
【方法】
脳血管疾患患者1例(以下,症例)に対して,短下肢装具を装着した歩行(以下,装具歩行)の前後に実施した,裸足歩行時の麻痺側股関節,膝関節の関節角度を計測し,比較,検討した。症例はアテローム血栓性脳梗塞を発症し,右片麻痺を呈した男性であった。Brunnstrom recovery stageは上肢II,手指II,下肢IVであり,歩行補助具を使用せず,歩行は自立しているが,麻痺側立脚期の反張膝が問題点であった。短下肢装具は,調整機能付後方平板支柱型短下肢装具TAPS-AFO(東名ブレース社)を装着し,装着下の足関節底背屈角度を背屈10°に固定した。症例には麻痺側の肩峰,上前腸骨棘,大転子,大腿骨外側上顆,腓骨頭,外果,第5中足骨頭に印をつけた。装具歩行前後の裸足歩行,装具歩行を各2回ずつ撮影した。歩容の撮影は対馬らの報告をもとに,デジタルビデオカメラを身体部位が画面中央で撮影できる高さに三脚で固定し,正投影面から実施した。撮影した動画より初期接地,荷重応答期,立脚中期,立脚終期,前遊脚期の静止画を抽出し,関節角度を計測した。Image Jを使用して各静止画における股関節,膝関節の屈曲,伸展角度を計測した。装具歩行前後の裸足歩行,装具歩行における2歩行周期の平均関節角度を算出し,比較した。
【結果】
装具歩行前の裸足歩行では,股関節屈曲17°で初期接地となり,立脚終期には伸展5.5°と伸展していき,前遊脚期には屈曲3.5°となった。膝関節は,初期接地が屈曲19°,荷重応答期が屈曲26°,立脚中期が屈曲25.5°と大きく変化せず,立脚終期に屈曲13°と中期から終期に12.5°伸展した。前遊脚期には屈曲34.5°となった。装具歩行の股関節は,屈曲14.5°で初期接地し,荷重応答期に屈曲10°,立脚中期に屈曲7.5°と屈曲位を保ち,立脚終期に伸展5°と12.5°伸展し,前遊脚期には屈曲3.5°となった。膝関節においては,初期接地で屈曲26.5°,荷重応答期は29°,立脚中期に26°,立脚終期に25°,前遊脚期に32°であった。装具歩行後の裸足歩行では,股関節屈曲15°で初期接地となり,立脚中期の屈曲9°から立脚終期に伸展8.5°と17.5°伸展し,前遊脚期には屈曲2°であった。膝関節は,初期接地が屈曲20°,荷重応答期が28°,立脚中期が25°,立脚終期が23°と大きく変化せず,前遊脚期は屈曲37.5°であった。
【考察】
装具歩行前後の裸足歩行を比較すると,装具歩行前では立脚中期から終期に12.5°伸展していた歩容に対し,装具歩行後には2°の伸展に減少した。装具歩行において,立脚中期から終期の伸展が1°であったことから,装具歩行は本症例の立脚中期から終期の膝関節屈曲を促す効果があったと推察する。諸角らは,立脚中期膝最大伸展角度は足関節底屈制動の増加によって屈曲傾向を示したと報告している。装具歩行において,立脚終期まで屈曲角度を維持できていたことから,本症例の反張膝を制御できたと考える。丸山らは,膝ロッキングの原因を骨盤周囲,膝関節伸展筋の筋活動不足,膝関節伸展筋の過剰収縮,足関節背屈制限の4つを挙げている。足関節背屈を設定した装具歩行を練習として用いることで,反張膝を制御でき,その後の裸足歩行において,立脚中期から終期における伸展角度が減少した可能性がある。本症例に対して,足関節の背屈設定を行った装具歩行練習を行うことは,立脚中期から終期の膝関節伸展角度に影響を及ぼすことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
立脚期に認める反張膝の原因は様々である中で,装具を用いた歩行練習を行うことで,本症例の反張膝は軽減した。特に,立脚中期から終期に認める膝関節の伸展角度の減少に影響があった。反張膝が出現する時期とその時期に合わせた足関節背屈角度の設定を詳細に検討していくことが今後必要である。