第50回日本理学療法学術大会

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ポスター3

支援工学理学療法2

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1105] ロボットスーツHALによるアシストが立ち上がり動作時の筋活動に与える影響

荒木海人1,2, 高橋正明2, 江口勝彦2, 富田隆之1, 飯塚典子1 (1.医療法人樹心会角田病院, 2.群馬パース大学大学院保健科学研究科)

キーワード:ロボットスーツHAL福祉用, 立ち上がり, 筋活動

【はじめに,目的】
椅子からの立ち上がり動作が困難な高齢者や障害者のために,様々な支援装置が考案され開発されている。ロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)もその支援装置の一つである。しかし,このような動作支援装置は,装着者の動作に合わせた支援を行わないと,無理な動作を強いることになり,適切なアシストが行えないばかりか,患者が不快や苦痛を感じることの原因となったり,転倒などの事故が起こる危険性が高まってしまう。HALの適応には,脳卒中片麻痺,脊髄損傷,パーキンソン病や虚弱高齢者があり,立ち上がりや歩行が困難となった患者が使用している。臨床場面において,HALの適応や使用方法は医療者の経験知に基づいた判断で行われているところが多く,HALによるアシストが適切に行われているのか曖昧なまま使用している病院,施設も少なくない。椅子からの立ち上がり動作において,介助を要す様々な原因が考えられるが,通常の重心移動とは異なる患者に対してもHALは使用されており,そのような患者に対してHALが適切にアシストできているのかを研究する意義は高いと考える。本研究の目的は,通常とは異なる重心移動での椅子からの立ち上がり動作において,HALのアシストが筋活動に与える影響について検討したものである。
【方法】
対象は若年健常成人男性3名(平均年齢19.3歳±0.58)であった。被験者全員に対して,HALを装着して,条件1:HALそのものの重さはキャンセリングするが,積極的なアシストは行わない「粘性補償制御モード(Viscosity Compensation Controlモード:以下VISモード)」,条件2:筋活動の情報からアシストを行う「随意制御モード(Cybernic Voluntary Controlモード:以下CVCモード)」の2条件で通常とは異なる重心移動での立ち上がり動作を実施した。また,HALはStandモードで実施した。被験者は肘掛け,背もたれのない椅子に着席し,上肢は体側に垂らし,足部の位置は,ショパール関節より遠位が床面に接地しないように板を足部の下に設置した状態で,被験者が楽に起立できる任意の位置とし,全試行で位置が変わらないよう指示した。また,動作スピードに関しても全試行で位置が変わらないよう指示し,立ち上がり動作開始前の坐位姿勢や動作終了後の立位姿勢は可能な限り静的姿勢を保つよう指示した。また,HALの装着および操作は,CYBERDYNE社の定める安全講習会の受講者のみで実施した。床反力計(VICON NEXUS Ver.1.4, Vicon Motion Systems Ltd, UK)は,椅子の下および足部の下で2枚使用した。さらにEMGシステムPTS137(Biometrics社)を用い右側大腿直筋,内側ハムストリングス,前脛骨筋より筋電図を導出した。得られた床反力のデータを基に,椅子の下の床反力が0~最大への移行相,足部の下の床反力が最大~下降相,床反力が下降~フラットへの移行相の3相に分け,相ごとの筋活動の違いを視覚的に捉えた。
【結果】
内側ハムストリングス,前脛骨筋に関してはHALによるアシストの有無に関係なく,筋活動に大きな変化は見られなかった。大腿四頭筋に関しては3人の被験者のうち2人で椅子の下の床反力が0~最大への移行相で,条件2のHALによるアシストが行われた方で筋活動が低下していた。
【考察】
HALを装着しアシストを行うことで,立ち上がり動作の離殿直後の大腿四頭筋の筋活動が低下したことが示唆された。これは,立ち上がり動作時の重心が前足部に乗らない環境設定をして,通常の立ち上がり動作時と異なる筋活動を誘発しても,HALによるアシストが適切に行われ,少ない筋活動でも同様の動作が行えたことを意味していると考えられる。また,今回の実験では足部のショパール関節より遠位が床面に接地せず,立ち上がり動作時に重心が前方に十分移動できない環境の中で実施したが,HALのアシストにより,楽に立てたとの意見も聞かれた。立ち上がり動作は,動作スピードや上肢の構え,重心の位置などにより,その筋活動は変化してしまう。今回の実験では立ち上がり動作時の重心移動の制約であり,筋活動に着目して行ったが,臨床場面でHALを使用している方の中には様々な症状を持った方がいる。今後は,様々な症状を想定した中で,筋活動のみでなく,関節モーメントや関節可動域などを含め,多角的に検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は直接臨床上活かせるものではないが,HALをより安全に使用していく上で,貴重な基礎データであると考える。