[P3-A-1110] 消化器がん患者における下腿三頭筋の周術期変化
Keywords:消化器がん患者, 下腿三頭筋, 周術期変化
【はじめに,目的】
昨今がん生存者は,がん医療の発展により増加傾向にある。我が国では,2010年度診療報酬改定でがん患者リハビリテーション料が新設され,理学療法分野もがん医療への貢献が義務付けられている。
がん患者の運動機能や体格は,Quality of Life(以下QOL)や生存率と関連しており,がん患者の療養生活の質の向上に重要な因子であることが報告されている。我々は,周術期消化器がん患者の運動機能や体格に着目し検討,報告してきた。同対象者では,手術後運動機能低下が少ないほど自宅復帰後QOLが高く,自宅復帰後において運動機能が手術前と同程度まで回復する一方,体格が有意に痩身であり,とくに下腿部が有意に萎縮していることが明らかとなった。
本研究では,周術期消化器がん患者の下腿三頭筋に着目し,手術前後で評価,観察すると共に,運動機能や体格と関連性があるか否か予備的に検討することを目的とした。
【方法】
対象は,手術前に運動および認知機能障害を認めず日常生活が自立し,手術後経過が良好で自宅退院された周術期消化器がん患者7例(男性3例,女性4例,平均年齢57.6±10.9歳)とした。対象者の手術部位は,胃2例,結腸3例,直腸2例とした。
下腿三頭筋評価は,足関節底屈筋力(以下APF),最大下腿周径(以下MCC),腓腹筋の羽状角(以下GPA),ヒラメ筋の筋厚(以下SMT)を使用し,右下肢のみ計測した。APFは,バイオデックスシステム4(酒井医療,BDX-4)を使用し,足関節底背屈0°位での等尺性足関節底屈筋力(Nm)を計測した。計測課題は,最大努力下で5秒間足関節底屈筋力を発揮することとし,30秒間の休憩をはさみ2回計測した。計測値には,最大値を体重で正規化した値(Nm/kg)を採択した。MCC,GPA,SMTは,計測姿勢を安静椅子座位とした。MCCは,テープメジャーを使用し,下腿三頭筋の最大膨隆部の周径(cm)を計測した。GPA(°)とSMT(cm)は,超音波診断装置(GEヘルスケア社,LOGIQ Book XP)を使用し,撮影した腓腹筋とヒラメ筋の縦断画像より計測した。縦断画像は,MCC計測部と腓骨を基準とした位置に10MHzリニアプローブを設置し,ゲインなどの画像条件は統一して撮影した。画像解析には,Image J 1.48を使用した。
運動機能評価には,6分間歩行距離(以下6MD)を使用した。6MDの計測動作は,対象者に勾配のない50mの歩行路を最大努力下で可能な限り往復することとした。検査者は,対象者の後方から歩行距離測定器(セキスイ樹脂,SDM-1)を用いて追跡し,歩行距離(m)を計測した。
体格評価には,Body Mass Index(以下BMI)を使用した。BMI算出に使用した身長と体重は,衣服着用下で計測した。
各パラメーターの計測時期は,手術日より1日以上前の時期(以下pre),手術後10前後経過した時期(以下post),の2つの時期とした。
統計学的処理では,Wilcoxonの符号付き順位検定で各パラメーターの手術前後の値を比較し,Spearmanの順位相関係数で各計測時期において下腿三頭筋各指標と6MD,BMIの関係を検討した。有意水準は,全て5%未満とした。
【結果】
各パラメーターの計測値は,APFがpre1.37±0.41Nm/kg,post1.18±0.34Nm/kg,MCCがpre33.7±2.6cm,post32.0±2.7cm,GPAがpre15.7±2.2°,post12.8±2.1°,SMTがpre1.97±0.50cm,post1.71±0.32cm,6MDがpre524.4±78.4m,post513.7±61.6m,BMIがpre20.8±1.7,post19.7±1.6であった。MCC,GPA,BMIに手術前後で有意差が認められ,post SMTとpost 6MDに有意な正の相関関係(r=0.821)が認められた。
【考察】
全てのパラメーターが手術後に低値を示す中,MCC,GPA,BMIが有意に減少した。消化器がん患者は,手術侵襲に伴う急性炎症や手術後の食事制限などにより手術後10日まで蛋白代謝が異化状態といわれている。手術後に運動機能や体格が低下しやすい環境下では,とくに体格に関連する項目が低下しやすい可能性が示唆された。また腓腹筋は,手術後有意に萎縮した。重症ICU患者を想定したラット研究では,ヒラメ筋より腓腹筋に著明な萎縮を生じる(Ochala J 2011)。手術翌日より歩行可能であった消化器がん患者でも下腿三頭筋の筋萎縮は,同様の傾向にある可能性が推察される。また,手術後のSMTと6MDの有意な関連を認めたことから消化器がん患者では,ヒラメ筋萎縮の程度が運動機能低下に影響している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
消化器がん患者における下腿三頭筋の周術期変化は,筋力が比較的維持される一方,萎縮の程度が腓腹筋とヒラメ筋で異なること,手術後のヒラメ筋萎縮と運動機能低下が関連することが明らかとなった。今後は,対象者増加,属性情報統制,介入研究など検討が必要と考える。
昨今がん生存者は,がん医療の発展により増加傾向にある。我が国では,2010年度診療報酬改定でがん患者リハビリテーション料が新設され,理学療法分野もがん医療への貢献が義務付けられている。
がん患者の運動機能や体格は,Quality of Life(以下QOL)や生存率と関連しており,がん患者の療養生活の質の向上に重要な因子であることが報告されている。我々は,周術期消化器がん患者の運動機能や体格に着目し検討,報告してきた。同対象者では,手術後運動機能低下が少ないほど自宅復帰後QOLが高く,自宅復帰後において運動機能が手術前と同程度まで回復する一方,体格が有意に痩身であり,とくに下腿部が有意に萎縮していることが明らかとなった。
本研究では,周術期消化器がん患者の下腿三頭筋に着目し,手術前後で評価,観察すると共に,運動機能や体格と関連性があるか否か予備的に検討することを目的とした。
【方法】
対象は,手術前に運動および認知機能障害を認めず日常生活が自立し,手術後経過が良好で自宅退院された周術期消化器がん患者7例(男性3例,女性4例,平均年齢57.6±10.9歳)とした。対象者の手術部位は,胃2例,結腸3例,直腸2例とした。
下腿三頭筋評価は,足関節底屈筋力(以下APF),最大下腿周径(以下MCC),腓腹筋の羽状角(以下GPA),ヒラメ筋の筋厚(以下SMT)を使用し,右下肢のみ計測した。APFは,バイオデックスシステム4(酒井医療,BDX-4)を使用し,足関節底背屈0°位での等尺性足関節底屈筋力(Nm)を計測した。計測課題は,最大努力下で5秒間足関節底屈筋力を発揮することとし,30秒間の休憩をはさみ2回計測した。計測値には,最大値を体重で正規化した値(Nm/kg)を採択した。MCC,GPA,SMTは,計測姿勢を安静椅子座位とした。MCCは,テープメジャーを使用し,下腿三頭筋の最大膨隆部の周径(cm)を計測した。GPA(°)とSMT(cm)は,超音波診断装置(GEヘルスケア社,LOGIQ Book XP)を使用し,撮影した腓腹筋とヒラメ筋の縦断画像より計測した。縦断画像は,MCC計測部と腓骨を基準とした位置に10MHzリニアプローブを設置し,ゲインなどの画像条件は統一して撮影した。画像解析には,Image J 1.48を使用した。
運動機能評価には,6分間歩行距離(以下6MD)を使用した。6MDの計測動作は,対象者に勾配のない50mの歩行路を最大努力下で可能な限り往復することとした。検査者は,対象者の後方から歩行距離測定器(セキスイ樹脂,SDM-1)を用いて追跡し,歩行距離(m)を計測した。
体格評価には,Body Mass Index(以下BMI)を使用した。BMI算出に使用した身長と体重は,衣服着用下で計測した。
各パラメーターの計測時期は,手術日より1日以上前の時期(以下pre),手術後10前後経過した時期(以下post),の2つの時期とした。
統計学的処理では,Wilcoxonの符号付き順位検定で各パラメーターの手術前後の値を比較し,Spearmanの順位相関係数で各計測時期において下腿三頭筋各指標と6MD,BMIの関係を検討した。有意水準は,全て5%未満とした。
【結果】
各パラメーターの計測値は,APFがpre1.37±0.41Nm/kg,post1.18±0.34Nm/kg,MCCがpre33.7±2.6cm,post32.0±2.7cm,GPAがpre15.7±2.2°,post12.8±2.1°,SMTがpre1.97±0.50cm,post1.71±0.32cm,6MDがpre524.4±78.4m,post513.7±61.6m,BMIがpre20.8±1.7,post19.7±1.6であった。MCC,GPA,BMIに手術前後で有意差が認められ,post SMTとpost 6MDに有意な正の相関関係(r=0.821)が認められた。
【考察】
全てのパラメーターが手術後に低値を示す中,MCC,GPA,BMIが有意に減少した。消化器がん患者は,手術侵襲に伴う急性炎症や手術後の食事制限などにより手術後10日まで蛋白代謝が異化状態といわれている。手術後に運動機能や体格が低下しやすい環境下では,とくに体格に関連する項目が低下しやすい可能性が示唆された。また腓腹筋は,手術後有意に萎縮した。重症ICU患者を想定したラット研究では,ヒラメ筋より腓腹筋に著明な萎縮を生じる(Ochala J 2011)。手術翌日より歩行可能であった消化器がん患者でも下腿三頭筋の筋萎縮は,同様の傾向にある可能性が推察される。また,手術後のSMTと6MDの有意な関連を認めたことから消化器がん患者では,ヒラメ筋萎縮の程度が運動機能低下に影響している可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
消化器がん患者における下腿三頭筋の周術期変化は,筋力が比較的維持される一方,萎縮の程度が腓腹筋とヒラメ筋で異なること,手術後のヒラメ筋萎縮と運動機能低下が関連することが明らかとなった。今後は,対象者増加,属性情報統制,介入研究など検討が必要と考える。