第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

がん その他1

2015年6月7日(日) 09:40 〜 10:40 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1118] 大腸がん患者における在宅復帰の予測因子の検討

中村浩明1, 茅根沙由佳1, 加藤博己1, 矢崎高明1, 山元佐和子2 (1.地域医療振興協会東京北医療センター, 2.浮間中央病院)

キーワード:がん, 在宅, 予測因子

【はじめに,目的】
過去30年以上にわたり日本人の死因第1位はがんである。我が国は世界第2位の長寿国となり,高齢化に伴いがんでの死亡数も増加の一途をたどっている。また最近の医療の動向として,疾患を抱えていてもできる限り住み慣れた地域で在宅を基本とした生活を目指す地域包括ケアシステムの構築も推進されている。しかし,がん患者に対する在宅復帰の予測をする報告は少ない。そこで今回,大腸がん患者に対し,在宅復帰の予測因子を検討した。
【説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の審査及び承認を得た。
【対象】
対象は2012年9月から2014年9月まで当院外科病棟にて入院加療を行った大腸がん患者のうち,リハビリ処方のあった49例(男性28例,女性21例,平均年齢81.7±8.4歳)である。平均在院日数30.2±16.6日,がんのStage分類は,Iは5名,IIは17名,IIIは11名,IVは16名であった。なお,在宅復帰の予測因子を調べることを目的としていることから,入院前は在宅生活を営んでいた者に限定した。
【方法】
在宅復帰の予測因子として対象者の属性(年齢,性別),がん患者の病態因子(入院期間,Stege分類,手術の有無,化学療法の有無,転移の有無,血液データ,有害事象),日常生活動作因子(Barthel Index,以下BI),社会的因子(同居者の有無,介護保険の有無)を挙げて,リハビリ介入時(以下,介入時)と,リハビリ終了時(以下,終了時)の差異を診療録より後方視的に収集した。そして,対象者を在宅復帰の可否で,在宅群,非在宅群に分け比較した。在宅復帰の予測因子として挙げられた項目で欠損値のあるものは分析から除外した。
統計学的分析は,在宅群,非在宅群に対し,在宅復帰の予測因子として挙げた項目についてt検定およびχ2検定を行い,有意差を認めたものを独立変数,在宅復帰を目的変数として,多重ロジスティック回帰分析を行った。各分析の有意水準は5%とした。
【結果】
対象49例中,在宅群32例,非在宅群17例であった。t検定において,在宅群,非在宅群で有意差を認めた項目(平均±標準偏差)は,入院期間(在宅群26.1±14.8日,非在宅群36.7±18.3日),介入時のBI(在宅群45.2±32.0点,非在宅群23.0±23.2点),終了時BI(在宅群68.9±27.5点,非在宅群19.4±23.2点),終了時白血球数(在宅群6491±1564.5/ul,非在宅群9208.8±3468.9/ul)であった(p<0.05)。Pearsonのχ2検定において,在宅群,非在宅群で有意差を認めた項目は,転移の有無であった。
目的変数を在宅復帰,独立変数を入院期間,介入時BI,終了時BI,終了時白血球数,転移の有無とし,尤度比による変数増加法での多重ロジスティック回帰分析の結果,退院時BIが方程式中の変数として抽出された(P<0.05)。偏回帰係数は0.54,95%信頼区間は1.027~1.084であった。モデルχ2検定の結果はp<0.01で有意であり,終了時BI得点が有意(p<0.01)であった。HossmerとLemeshowの検定結果はp=0.497で良好であり,判定的中率は79.6%であった。
【考察】
今回,大腸がん患者における在宅復帰の予測因子で採択されたのは,終了時BI得点であった。臨床の現場でも在宅復帰する際,対象者の身体能力の低下に伴い,ADLが低下することで本人や家族が不安を持つことが在宅復帰の大きな障壁をなることを経験する。厚生労働省の在宅療養を行うことができた理由の調査においても,在宅療養を行うには,家族等の介護者の不安が軽減された状態が必要とされている。つまり,在宅復帰する因子として身体能力の低下に不安を持ち,その身体能力が保たれていることが在宅復帰への大きな因子であると思われた。今回の研究でも,がんという疾患を抱えていたとしても身体能力の低下を予防し,日常生活動作を遂行できることが,在宅復帰への大きな影響因子であると考えられた。このことからリハビリ介入時は,日常生活動作の低下を防ぐと共に,より在宅のイメージを持ちながら介入をすることが大腸がん患者の在宅復帰に効率的であると考えられた。なお,今回はロジスティック解析で在宅復帰の予測因子を分析したが,今後は,影響力が高いとされた退院時BI内の個別因子の影響力の検討が必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
在宅を基本とした生活を目指す地域包括ケアシステムの中で,大腸がん患者の在宅予測因子を知ることで,より明確な予測因子へのリハビリアプローチが図れると考えられた。大腸がん患者における在宅復帰の予測因子で採択されたのは,終了時BI得点であり,リハビリでも廃用症候群の予防,日常生活動作能力の低下を来さないような介入が必要であると考えられた。