第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

がん その他1

Sun. Jun 7, 2015 9:40 AM - 10:40 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-A-1121] 入院中の血液がん患者に対する身体的活動量変化の調査

後藤吾郎1,2, 田中直樹1, 金森毅繁1, 長澤俊郎3, 柳久子2 (1.医療法人社団筑波記念会筑波記念病院, 2.筑波大学大学院人間総合科学研究科, 3.筑波記念病院血液内科)

Keywords:血液がん, リハビリテーション, 身体的活動量

【はじめに】
現在がんサバイバーと呼ばれるがん生存者は増加の一途をたどっており,2015年には全国で500万人を超えるとされている。がんそのものによる影響やがんに対する治療過程で身体に障害を抱えてしまう人も少なくない。リハビリテーション分野においては2010年より「がん患者リハビリテーション料」が新設され,がん患者に対するリハビリテーションが徐々に普及してきている。国内外において乳癌や消化器がんに対するリハビリテーションの報告は散見されるが,血液がん患者に対する報告は造血幹細胞移植に伴う報告がわずかに存在するだけである。血液がん患者は治療過程で入院中の活動制限が余儀なくされるといった点が特徴的であり,実際に活動量低下が起きてしまうと血液がんに対する治療の対象外となることがあるためリハビリテーション介入の意義は大きいと考えられている。そこで本研究では治療目的に入院した血液がん患者を対象に入院中の身体的活動量変化を調査し現状を把握することを目的とした。

【方法】
対象は2病院において化学療法あるいは移植目的に入院した白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫,骨髄異形成症候群のいずれかの診断を受けた血液がん患者とした。除外基準は研究内容に同意をしなかった者,未成年者,がんの告知をされていない者,歩行が困難である者,認知機能が低下している者とした。研究デザインは観察研究とした。基本属性としてカルテより年齢,性別,診断名,在院日数,リハビリテーション実施の有無,治療プログラムを収集した。評価時期は入院時,骨髄抑制時,退院時とした。入院時は入院日~治療開始前,骨髄抑制時は最小白血球数の前後1週間,退院時は退院3日前~退院日までと定めた。評価項目は万歩計を用いた入院中の歩数と全身性の筋力指標として握力を計測した。万歩計は対象者のズボンのポケットに装着する形とし,就寝時など動かない際は装着しなくても構わないこととした。

【結果】
対象者は24名(男性13名,女性11名)であった。年齢は56.0±20.0歳であった。診断別では白血病9名,悪性リンパ腫10名,多発性骨髄腫4名,骨髄異形成症候群1名であった。移植目的に入院した者は5名であった。リハビリテーションの指示が出た者は14名であった。在院日数は32.7±17.4日であった。治療プログラムは筋力強化,自転車エルゴメータに代表される有酸素運動,QOL維持の為の作業活動が中心であった。歩数は入院時1280±1698歩,骨髄抑制時418±749歩,退院時1247±1057歩であり,1患者あたり1日平均1033歩(範囲123-4490歩)であった。握力は入院時(n=24,右28.1±9.5kg/左26.6±8.7kg),骨髄抑制時(n=8,右23.1±7.3kg/左21.1±6.5kg),退院時(n=18,右26.6±8.8kg/左24.3±9.0kg)であった。

【考察】
厚生労働省は1日あたりの平均歩数は男性で7139歩,女性で6257歩と報告しており,久松らは慢性血液透析患者47例を対象として1日あたりの平均歩数は透析日で3492歩,非透析日で4676歩と報告している。本研究では1日あたりの平均歩数は1033歩であり,それらと比較し低値を示した。また身体的活動量変化として歩数は入院時・骨髄抑制時・退院時で比較すると骨髄抑制時には一時的に減少するが,退院時には入院時とほぼ同様の歩数まで回復しており,握力に関しても同様であった。これらは対象者が骨髄抑制時に発熱・吐き気などの症状が出現し離床困難となりやすいこと,無菌管理内の範囲でしか動けないといった環境要因が影響していると考えられた。入院中の身体的活動量低下は顕著であるため,骨髄抑制時を含め入院時から活動量を増加させる試みが必要であることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
血液がん患者に対するリハビリテーションの報告は少なく,どのような評価・治療が望ましいか不明な点が多い。このような患者は本研究より治療過程で入院中の身体的活動量低下が顕著となるだけでなく,先行文献より退院後も長期間体力低下を自覚することが多いとされるため,今後理学療法が発展させるべき分野である