[P3-A-1124] 脊髄小脳変性症の反復嚥下によって生じる嚥下関連筋の機能変化
―表面筋電図を用いた嚥下機能の時系列解析―
Keywords:脊髄小脳変性症, 反復嚥下, 疲労
【はじめに,目的】
脊髄小脳変性症は,進行性の小脳失調に加えて痙性麻痺やジストニアなどの多系統変性を呈す。構音および嚥下障害は必発で,誤嚥性肺炎,窒息をきたすことがあり生命予後に大きな影響を与える。我々は,脊髄小脳変性症の嚥下では時系列的に呼吸機能の低下に伴う嚥下の機能制限について報告してきた。今回は,反復嚥下を実施し,嚥下関連筋が時系列的に生じる機能変化について検討した。
【方法】
対象は,誤嚥を呈す脊髄小脳変性症で,日々の摂食には増粘剤や刻み食などの何らかの補助的手段をを要す9名(平均年齢67.3±4.1歳,平均体重57.9±2.4kg,平均身長161.4±4.6cm,ICARS:12点~35点)とした。コントロール群は,過去に基礎疾患を有さず,日常生活が自立して行えている健常高齢者10名(平均年齢65.1±5.6歳,平均体重59.2±3.6kg,平均身長164.1±5.4cm)とした。
方法は,反復嚥下課題での嚥下機能を検討するために,嚥下関連筋として代表的に扱われている顎二腹筋と胸骨舌骨筋を被験筋とした表面筋電図学解析(surface Electromyogram:以下sEMG)を実施した。測定条件は,modified water swallow testに準じて体幹,頸部を中間位に保持させた状態で3mlの冷水を10秒間隔で10回行う反復嚥下課題とした。表面筋電図の測定項目は,筋の量的評価としての積分筋電図(以下,IEMG)解析と,筋の質的評価としてのウェーブレット変換を用いた動的周波数解析を各被験筋に実施した。嚥下に要した時間としてsEMGの原波形を時定数0.1秒で整流積分し,記録期間中で活動振幅が最小となる時点の値を基線とし,最大値と基線から半値を求めその半値と整流積分波形の二交点間の時間を嚥下時間とした。測定値は,嚥下試験で発生するRMSを,測定前に予備試験として同条件で実施したRMSで除し,1回目と10回目の%RMSを算出した。さらに,RMSと同じ区間のデータについて,連続Wavelet変換(マザー関数:Gabor)を用いて時間・周波数解析を行い,平均周波数(mean power frequency:MPF)を算出した。統計学的手法として,被験筋の活動を示す%RMSと嚥下時間,MPFの1回目と10回目の各項目の差について対応のあるt検定を行い,群内比較を実施した。
【結果】
%RMSは,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が95.5±8.3%RMS,10回目が83.1±13.2%RMS,胸骨舌骨筋の1回目が93.5±10.3%RMS,10回目は74.3±15.2%RMSであり両被験筋とも10回目は有意に低値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が98.1±6.2%RMS,10回目が93.3±8.9%RMS,胸骨舌骨筋の1回目が97.5±6.8%RMS,10回目は95.8±7.2%RMSであり両被験筋とも差を認めなかった。嚥下時間は,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が1.1±0.4秒,10回目が1.9±0.4秒,胸骨舌骨筋の1回目が1.2±0.4秒,10回目は2.1±0.5秒であり両被験筋とも10回目は有意に高値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が0.8±0.2秒,10回目が0.9±0.3秒,胸骨舌骨筋の1回目が1.0±0.3秒,10回目は1.1±0.2秒であり両被験筋とも差を認めなかった。MPFは,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が98.5±14.5Hz,10回目が78.8±16.2Hz,胸骨舌骨筋の1回目が89.3±9.1Hz,10回目は74.1±12.8Hzであり両被験筋とも10回目は有意に低値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が142.5±8.5Hz,10回目が139.4±9.6Hz,胸骨舌骨筋の1回目が131.4±9.7Hz,10回目は127.1±7.9Hzであり両被験筋とも差を認めなかった。
【考察】
脊髄小脳変性症の嚥下機能は反復嚥下課題により制限されていた。%RMSでは顎二腹筋,胸骨舌骨筋ともに10回目には活動が減少した。嚥下時間は同様に10回目に延長していることから%RMSの減少に伴い嚥下に関与する協調作用が制限されたものと推察された。MPFでは45Hz以下はTypeI線維を反映し,81Hz以上はTypeII繊維の運動単位の活動状況を示すと言われている。本研究の結果からは脊髄小脳変性症の10回目にはTypeII繊維からTypeI繊維への移行が生じており疲労の影響を示していた。反復嚥下により疲労が生じることで%RMSの低下や嚥下時間の延長が生じ,嚥下機能が徐々に低下するものと考えられた。今回は受動的条件での測定とした。多くは運動失調を伴っている事から能動的な摂食条件での評価が必要である。
【理学療法学研究としての意義】脊髄小脳変性症の嚥下機能の評価では,RSSTやMWSTのような短時間の検査では特異的にみられる時系列的異常が判別しにくいものであると考えている。本研究の結果により,時系列的に評価を実施する事の重要性と,嚥下関連筋に起こっている疲労に対する今後の理学療法介入の必要性が考えられた。
脊髄小脳変性症は,進行性の小脳失調に加えて痙性麻痺やジストニアなどの多系統変性を呈す。構音および嚥下障害は必発で,誤嚥性肺炎,窒息をきたすことがあり生命予後に大きな影響を与える。我々は,脊髄小脳変性症の嚥下では時系列的に呼吸機能の低下に伴う嚥下の機能制限について報告してきた。今回は,反復嚥下を実施し,嚥下関連筋が時系列的に生じる機能変化について検討した。
【方法】
対象は,誤嚥を呈す脊髄小脳変性症で,日々の摂食には増粘剤や刻み食などの何らかの補助的手段をを要す9名(平均年齢67.3±4.1歳,平均体重57.9±2.4kg,平均身長161.4±4.6cm,ICARS:12点~35点)とした。コントロール群は,過去に基礎疾患を有さず,日常生活が自立して行えている健常高齢者10名(平均年齢65.1±5.6歳,平均体重59.2±3.6kg,平均身長164.1±5.4cm)とした。
方法は,反復嚥下課題での嚥下機能を検討するために,嚥下関連筋として代表的に扱われている顎二腹筋と胸骨舌骨筋を被験筋とした表面筋電図学解析(surface Electromyogram:以下sEMG)を実施した。測定条件は,modified water swallow testに準じて体幹,頸部を中間位に保持させた状態で3mlの冷水を10秒間隔で10回行う反復嚥下課題とした。表面筋電図の測定項目は,筋の量的評価としての積分筋電図(以下,IEMG)解析と,筋の質的評価としてのウェーブレット変換を用いた動的周波数解析を各被験筋に実施した。嚥下に要した時間としてsEMGの原波形を時定数0.1秒で整流積分し,記録期間中で活動振幅が最小となる時点の値を基線とし,最大値と基線から半値を求めその半値と整流積分波形の二交点間の時間を嚥下時間とした。測定値は,嚥下試験で発生するRMSを,測定前に予備試験として同条件で実施したRMSで除し,1回目と10回目の%RMSを算出した。さらに,RMSと同じ区間のデータについて,連続Wavelet変換(マザー関数:Gabor)を用いて時間・周波数解析を行い,平均周波数(mean power frequency:MPF)を算出した。統計学的手法として,被験筋の活動を示す%RMSと嚥下時間,MPFの1回目と10回目の各項目の差について対応のあるt検定を行い,群内比較を実施した。
【結果】
%RMSは,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が95.5±8.3%RMS,10回目が83.1±13.2%RMS,胸骨舌骨筋の1回目が93.5±10.3%RMS,10回目は74.3±15.2%RMSであり両被験筋とも10回目は有意に低値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が98.1±6.2%RMS,10回目が93.3±8.9%RMS,胸骨舌骨筋の1回目が97.5±6.8%RMS,10回目は95.8±7.2%RMSであり両被験筋とも差を認めなかった。嚥下時間は,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が1.1±0.4秒,10回目が1.9±0.4秒,胸骨舌骨筋の1回目が1.2±0.4秒,10回目は2.1±0.5秒であり両被験筋とも10回目は有意に高値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が0.8±0.2秒,10回目が0.9±0.3秒,胸骨舌骨筋の1回目が1.0±0.3秒,10回目は1.1±0.2秒であり両被験筋とも差を認めなかった。MPFは,脊髄小脳変性症で顎二腹筋の1回目が98.5±14.5Hz,10回目が78.8±16.2Hz,胸骨舌骨筋の1回目が89.3±9.1Hz,10回目は74.1±12.8Hzであり両被験筋とも10回目は有意に低値を示した。健常高齢者では顎二腹筋の1回目が142.5±8.5Hz,10回目が139.4±9.6Hz,胸骨舌骨筋の1回目が131.4±9.7Hz,10回目は127.1±7.9Hzであり両被験筋とも差を認めなかった。
【考察】
脊髄小脳変性症の嚥下機能は反復嚥下課題により制限されていた。%RMSでは顎二腹筋,胸骨舌骨筋ともに10回目には活動が減少した。嚥下時間は同様に10回目に延長していることから%RMSの減少に伴い嚥下に関与する協調作用が制限されたものと推察された。MPFでは45Hz以下はTypeI線維を反映し,81Hz以上はTypeII繊維の運動単位の活動状況を示すと言われている。本研究の結果からは脊髄小脳変性症の10回目にはTypeII繊維からTypeI繊維への移行が生じており疲労の影響を示していた。反復嚥下により疲労が生じることで%RMSの低下や嚥下時間の延長が生じ,嚥下機能が徐々に低下するものと考えられた。今回は受動的条件での測定とした。多くは運動失調を伴っている事から能動的な摂食条件での評価が必要である。
【理学療法学研究としての意義】脊髄小脳変性症の嚥下機能の評価では,RSSTやMWSTのような短時間の検査では特異的にみられる時系列的異常が判別しにくいものであると考えている。本研究の結果により,時系列的に評価を実施する事の重要性と,嚥下関連筋に起こっている疲労に対する今後の理学療法介入の必要性が考えられた。