[P3-A-1130] がん患者の日常生活活動とQOLの関連性の検討
健康状態と生活の質に着目して
Keywords:がん, ADL, QOL
【はじめに,目的】
がん患者の診療場面において,原疾患の進行に伴い,日常生活活動能力(以下,ADL)が低下しても,リハビリテーション(以下,リハ)によって,Quality of Life(以下,QOL)が向上する症例をしばしば経験する。安部(2007)は,がん緩和医療において,ADLが低下した状況でもQOL向上がありうるため,患者の意志を尊重し,QOL向上を優先させることが重要であるとしている。しかし,具体的な評価尺度を用いて,ADLとQOLの関連性を示した報告は乏しい。
そこで,今回,がん患者のADLおよびQOLを評価し,両者の関連性について検討した。
【方法】
対象は,2014年6月から10月までに加療目的で当院に入院し,リハ依頼があったがん患者のうち,20歳以上で,経時的に評価可能であった12名(男性8名,女性4名,平均年齢67.0±9.2歳)とした。脳腫瘍患者および,認知機能低下や精神疾患の既往があるもの,明らかな意識障害のあるものは除外した。また,妥当なデータを収集する為に,入院期間が2週間以下のものは除外した。原発巣の内訳は頭頸部5名,呼吸器3名,消化管2名,乳腺1名,造血器1名であった。
全身状態の指標として,Performance Status Scale(以下,PS),ADL評価として,Functional Independence Measureの運動項目(以下,mFIM)を担当療法士が評価し,QOLの評価は,Europen Organization for Research and Treatment of Cancer(以下,EORTC QLQ c-30)を用い,自覚的な症状の評価には,Edmonton Symptom Assessment Sustem reviserd日本語版(以下,ESAS)を自己記入してもらった。評価はリハ介入初回時(以下,初回時)に実施し,以降1週毎に行った。
統計解析にはSPSSを使用し,Spearmanの順位相関分析を用いて,危険率0.05未満を有意差ありとした。
【結果】
EORTC QLQ c-30の健康状態の変化量とmFIMの変化量との間に強い正の相関(r=.842)を認めた。また,PSの変化量との間にも強い負の相関(r=-.722)を認め,ESASの変化量との間にも強い負の相関(r=-.860)を認めた。mFIMの変化量は,PSの変化量との間に強い負の相関(r=-.890)を認め,ESASの変化量との間に負の相関(r=-.691)を認めた。PSの変化量とESASの変化量との間に正の相関(r=.626)を認めた。その一方で,EORTC QLQ c-30の生活の質の変化量は,いずれの項目においても有意な相関を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,全身状態,がん症状,「しているADL」,健康状態の相互に関連性があることが分かった。また,上記4項目と生活の質に必ずしも関連性があるとは言えないということが分かった。
池上ら(2001)は,QOLの概念は健康関連QOL,健康に関連しないQOL,生きがい・幸福人生の満足の3つに分けられ,それぞれ前者が後者に含まれるという関係について報告している。今回使用したEORTC QLQc30は健康関連QOLを評価する尺度であり,生きがいや満足度等は反映していない。今回の結果より,身体機能やADLへのアプローチを中心としたリハでは,健康状態の向上が得られても,必ずしも生活の質の向上は得られない可能性があることが示唆された。生活の質を向上するためには,個々の希望に沿った個別的なアプローチを検討していく必要があると考える。
今回の研究の限界として,対象者数が少ないこと,対象者の原疾患に偏りがあり,がん患者全体を反映しているわけではないことが挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の報告は,がん患者のADLとQOLの関連性を数値的に明らかにした数少ない報告である。今後,さらに対象者数や検討項目を増やしていくことで,がん患者のQOL向上に関与する因子を見出すことができ,効果的なリハが提供できると考える。
がん患者の診療場面において,原疾患の進行に伴い,日常生活活動能力(以下,ADL)が低下しても,リハビリテーション(以下,リハ)によって,Quality of Life(以下,QOL)が向上する症例をしばしば経験する。安部(2007)は,がん緩和医療において,ADLが低下した状況でもQOL向上がありうるため,患者の意志を尊重し,QOL向上を優先させることが重要であるとしている。しかし,具体的な評価尺度を用いて,ADLとQOLの関連性を示した報告は乏しい。
そこで,今回,がん患者のADLおよびQOLを評価し,両者の関連性について検討した。
【方法】
対象は,2014年6月から10月までに加療目的で当院に入院し,リハ依頼があったがん患者のうち,20歳以上で,経時的に評価可能であった12名(男性8名,女性4名,平均年齢67.0±9.2歳)とした。脳腫瘍患者および,認知機能低下や精神疾患の既往があるもの,明らかな意識障害のあるものは除外した。また,妥当なデータを収集する為に,入院期間が2週間以下のものは除外した。原発巣の内訳は頭頸部5名,呼吸器3名,消化管2名,乳腺1名,造血器1名であった。
全身状態の指標として,Performance Status Scale(以下,PS),ADL評価として,Functional Independence Measureの運動項目(以下,mFIM)を担当療法士が評価し,QOLの評価は,Europen Organization for Research and Treatment of Cancer(以下,EORTC QLQ c-30)を用い,自覚的な症状の評価には,Edmonton Symptom Assessment Sustem reviserd日本語版(以下,ESAS)を自己記入してもらった。評価はリハ介入初回時(以下,初回時)に実施し,以降1週毎に行った。
統計解析にはSPSSを使用し,Spearmanの順位相関分析を用いて,危険率0.05未満を有意差ありとした。
【結果】
EORTC QLQ c-30の健康状態の変化量とmFIMの変化量との間に強い正の相関(r=.842)を認めた。また,PSの変化量との間にも強い負の相関(r=-.722)を認め,ESASの変化量との間にも強い負の相関(r=-.860)を認めた。mFIMの変化量は,PSの変化量との間に強い負の相関(r=-.890)を認め,ESASの変化量との間に負の相関(r=-.691)を認めた。PSの変化量とESASの変化量との間に正の相関(r=.626)を認めた。その一方で,EORTC QLQ c-30の生活の質の変化量は,いずれの項目においても有意な相関を認めなかった。
【考察】
今回の結果から,全身状態,がん症状,「しているADL」,健康状態の相互に関連性があることが分かった。また,上記4項目と生活の質に必ずしも関連性があるとは言えないということが分かった。
池上ら(2001)は,QOLの概念は健康関連QOL,健康に関連しないQOL,生きがい・幸福人生の満足の3つに分けられ,それぞれ前者が後者に含まれるという関係について報告している。今回使用したEORTC QLQc30は健康関連QOLを評価する尺度であり,生きがいや満足度等は反映していない。今回の結果より,身体機能やADLへのアプローチを中心としたリハでは,健康状態の向上が得られても,必ずしも生活の質の向上は得られない可能性があることが示唆された。生活の質を向上するためには,個々の希望に沿った個別的なアプローチを検討していく必要があると考える。
今回の研究の限界として,対象者数が少ないこと,対象者の原疾患に偏りがあり,がん患者全体を反映しているわけではないことが挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の報告は,がん患者のADLとQOLの関連性を数値的に明らかにした数少ない報告である。今後,さらに対象者数や検討項目を増やしていくことで,がん患者のQOL向上に関与する因子を見出すことができ,効果的なリハが提供できると考える。