[P3-B-0890] HHDを用いた頸部筋力測定における座位での徒手固定法の検討
Keywords:徒手筋力計, 徒手固定, 頸部筋力測定
【はじめに,目的】
頸部筋は頚椎症だけでなく姿勢制御や嚥下機能にも深く関与するため,その筋力評価はリハビリテーションにおいて重要な役割を果たす。しかし,徒手筋力検査法(MMT)では,頸部のリスク管理や測定肢位自体をとることが困難となりやすく,また評価の客観性に問題があること等から,臨床での実施頻度は低い。そのため,客観性に優れる徒手筋力計(HHD)を用いた座位での頸部筋力測定法が考案されている。しかし,測定の際には上部胸郭・骨盤・大腿部をベルト固定するため,設定に時間を要することや,固定用の背もたれ椅子を用いらなければならないことから更なる測定法の簡便化が必要と考えられた。本研究の目的は,HHDでの頸部筋力測定について,新たに考案した座位での徒手固定法(徒手固定法),従来のベルト固定法,臥位でのMMT,以上の3条件で,頸部屈曲・伸展筋の筋力値および筋活動量を比較検討し,徒手固定法の有用性を検討することである。
【方法】
対象は健常成人20名(男性10名,女性10名,平均24歳,60kg)とした。施行運動は等尺性頸部複合屈曲運動(頸屈曲)と伸展運動(頸伸展)とした。測定条件は座位での徒手固定法,ベルト固定法,臥位でのMMTの3条件とし,いずれも抵抗部は頸屈曲時で額,頸伸展時で外後頭隆起とした。なお徒手固定法とベルト固定法は頸部,体幹中間位での実施とした。徒手固定法の固定部は頸屈曲時には肩甲骨レベル,頸伸展時には胸骨柄レベルとし,ベルト固定法は先行研究に則り,上部胸郭と骨盤,大腿部を非伸縮性のベルトで固定し,実施した。頸屈曲,伸展筋力値はHHD(Mobie MT-100,酒井医療)を用いて計測し,体重で除した値(kgf/kg)を採用した。筋活動の測定には表面筋電図計(Tele Myo G2,Noraxon社製)を用いた。導出筋は右側の胸鎖乳突筋,頸部傍脊柱筋(頸筋後部),僧帽筋上部線維,腹直筋,腰部傍脊柱筋(腰背筋)の5筋とした。筋活動はいずれも各測定条件での筋活動ピーク値前後0.5秒の積分筋電値(μVs)を求め,MMT判定5の筋電値で正規化し算出した値(%MVC)を筋活動量として採用した。なお筋電図は生波形を全波整流し,筋電図解析ソフト(Myoreserch,Noraxon社製)にて解析した。各測定条件における頸屈曲,伸展筋力値の検者内信頼性を級内相関係数ICC(1.1)にて検討した。また,各測定条件間の筋力値と筋活動量の比較はt-testとHolmの方法を用いて検討し,各測定条件間の筋力値と筋活動量の相関はSpearmanの順位相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
筋力値のICC(1,1)は徒手固定法,ベルト固定法,MMTで良好な値を示した(頸屈曲:男性;0.91,0.92,0.91,女性;0.91,0.85,0.92),(頸伸展:男性;0.84,0.88,0.92,女性;0.95,0.94,0.93)。頸屈曲,伸展筋力値は,徒手固定法とベルト固定法がMMTよりも高値を示した。また,徒手固定法はMMTとベルト固定法との間に有意な相関を認めた(頸屈曲r=0.75,0.86,頸伸展r=0.59,0.95)。頸屈曲時の筋活動量は,腹直筋がMMTで有意に高値を示した。また,胸鎖乳突筋,腹直筋は各測定条件間に有意な相関を認めた(r=0.64~0.87)。頸伸展時の筋活動量は,各筋ともに測定条件間に有意な差を認めなかった。頚筋後部は各測定条件間に有意な相関を認めた(r=0.67~0.89)。
【考察】
本結果より,徒手固定法はベルト固定法と同程度の筋力値が発揮でき被験者の性差に関わらず高い再現性が得られることが示された。そして徒手固定法での頸屈曲,伸展筋力値,および頸屈曲時での胸鎖乳突筋と頸伸展時での頚筋後部の筋活動量は,従来のMMTと有意な相関を認めたことから,徒手固定法は妥当性のある測定法と考えられる。また臥位でのMMT頸屈曲時には,体幹筋の腹直筋が代償として活動することに留意する必要性が示唆された。今後は有疾患者を対象とした検討や,徒手固定法での頸部側屈,回旋筋力測定についても検討し,より臨床的意義を深めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
座位での徒手固定法による頸部屈曲,伸展筋力測定は,体幹筋の影響を受けにくい状況で信頼性および妥当性の高い測定値が得られ,臨床における簡便な測定法として有用となり得る。
頸部筋は頚椎症だけでなく姿勢制御や嚥下機能にも深く関与するため,その筋力評価はリハビリテーションにおいて重要な役割を果たす。しかし,徒手筋力検査法(MMT)では,頸部のリスク管理や測定肢位自体をとることが困難となりやすく,また評価の客観性に問題があること等から,臨床での実施頻度は低い。そのため,客観性に優れる徒手筋力計(HHD)を用いた座位での頸部筋力測定法が考案されている。しかし,測定の際には上部胸郭・骨盤・大腿部をベルト固定するため,設定に時間を要することや,固定用の背もたれ椅子を用いらなければならないことから更なる測定法の簡便化が必要と考えられた。本研究の目的は,HHDでの頸部筋力測定について,新たに考案した座位での徒手固定法(徒手固定法),従来のベルト固定法,臥位でのMMT,以上の3条件で,頸部屈曲・伸展筋の筋力値および筋活動量を比較検討し,徒手固定法の有用性を検討することである。
【方法】
対象は健常成人20名(男性10名,女性10名,平均24歳,60kg)とした。施行運動は等尺性頸部複合屈曲運動(頸屈曲)と伸展運動(頸伸展)とした。測定条件は座位での徒手固定法,ベルト固定法,臥位でのMMTの3条件とし,いずれも抵抗部は頸屈曲時で額,頸伸展時で外後頭隆起とした。なお徒手固定法とベルト固定法は頸部,体幹中間位での実施とした。徒手固定法の固定部は頸屈曲時には肩甲骨レベル,頸伸展時には胸骨柄レベルとし,ベルト固定法は先行研究に則り,上部胸郭と骨盤,大腿部を非伸縮性のベルトで固定し,実施した。頸屈曲,伸展筋力値はHHD(Mobie MT-100,酒井医療)を用いて計測し,体重で除した値(kgf/kg)を採用した。筋活動の測定には表面筋電図計(Tele Myo G2,Noraxon社製)を用いた。導出筋は右側の胸鎖乳突筋,頸部傍脊柱筋(頸筋後部),僧帽筋上部線維,腹直筋,腰部傍脊柱筋(腰背筋)の5筋とした。筋活動はいずれも各測定条件での筋活動ピーク値前後0.5秒の積分筋電値(μVs)を求め,MMT判定5の筋電値で正規化し算出した値(%MVC)を筋活動量として採用した。なお筋電図は生波形を全波整流し,筋電図解析ソフト(Myoreserch,Noraxon社製)にて解析した。各測定条件における頸屈曲,伸展筋力値の検者内信頼性を級内相関係数ICC(1.1)にて検討した。また,各測定条件間の筋力値と筋活動量の比較はt-testとHolmの方法を用いて検討し,各測定条件間の筋力値と筋活動量の相関はSpearmanの順位相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
筋力値のICC(1,1)は徒手固定法,ベルト固定法,MMTで良好な値を示した(頸屈曲:男性;0.91,0.92,0.91,女性;0.91,0.85,0.92),(頸伸展:男性;0.84,0.88,0.92,女性;0.95,0.94,0.93)。頸屈曲,伸展筋力値は,徒手固定法とベルト固定法がMMTよりも高値を示した。また,徒手固定法はMMTとベルト固定法との間に有意な相関を認めた(頸屈曲r=0.75,0.86,頸伸展r=0.59,0.95)。頸屈曲時の筋活動量は,腹直筋がMMTで有意に高値を示した。また,胸鎖乳突筋,腹直筋は各測定条件間に有意な相関を認めた(r=0.64~0.87)。頸伸展時の筋活動量は,各筋ともに測定条件間に有意な差を認めなかった。頚筋後部は各測定条件間に有意な相関を認めた(r=0.67~0.89)。
【考察】
本結果より,徒手固定法はベルト固定法と同程度の筋力値が発揮でき被験者の性差に関わらず高い再現性が得られることが示された。そして徒手固定法での頸屈曲,伸展筋力値,および頸屈曲時での胸鎖乳突筋と頸伸展時での頚筋後部の筋活動量は,従来のMMTと有意な相関を認めたことから,徒手固定法は妥当性のある測定法と考えられる。また臥位でのMMT頸屈曲時には,体幹筋の腹直筋が代償として活動することに留意する必要性が示唆された。今後は有疾患者を対象とした検討や,徒手固定法での頸部側屈,回旋筋力測定についても検討し,より臨床的意義を深めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
座位での徒手固定法による頸部屈曲,伸展筋力測定は,体幹筋の影響を受けにくい状況で信頼性および妥当性の高い測定値が得られ,臨床における簡便な測定法として有用となり得る。