第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学1

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0896] 上腕筋は3頭である

―肘関節屈曲作用および支配神経に関する発生学的考察―

山本昌樹1,2, 林省吾3, 鈴木雅人4, 木全健太郎5, 浅本憲2, 中野隆2 (1.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センター, 2.愛知医科大学医学部解剖学講座, 3.東京医科大学人体構造学分野, 4.愛知医科大学病院リハビリテーション部, 5.中和医療専門学校柔道整復科)

Keywords:上腕筋, 筋頭, 肘関節

【はじめに】
我々は,第48回本学術大会(2012)において,上腕筋の筋頭は単一ではなく3頭から構成されることを示し,その形態的特徴と機能的意義について報告した。今回,3頭を支配する神経を詳細に観察し,機能と支配神経の関連を発生学的な観点から考察した。
【対象および方法】
愛知医科大学医学部において教育・研究に供された解剖体19体36肢を対象とした。頚部から前腕遠位までを剥皮後,腕神経叢の枝を同定した。上腕筋以外の上腕および前腕の筋を除去した後に,上腕筋の3頭を同定した。3頭の起始部および分布する神経を確認した後,3頭を分離し,それらの走行や配列を詳細に観察した。
【結果】
上腕筋は,全肢において,三角筋後部線維から起こる筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から起こる筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起こる筋頭(以下,内側頭)の3頭に区分された。「外側頭」は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって浅層を斜走し,腱になって尺骨粗面の遠位部に停止していた。「中間頭」は,最も薄く細い筋束で,内側頭の浅層においては外側頭に並走し,遠位部は内側頭に合流していた。「内側頭」は,最も深層を走行し,停止部付近まで幅広く厚い筋腹を有していた。その遠位端は,短い腱を介して,尺骨粗面の近位内側部に停止していた。また,縦断面の観察において,筋線維の一部が肘関節包前面に付着していた。
筋皮神経は,全肢において,3頭すべてに分布していた。橈骨神経は,上腕外側部の上腕筋「外側頭」と上腕三頭筋の境界部から前面(屈側)に回り込み,上腕筋「外側頭」と「内側頭」の境界に沿って前腕外側部に向かっていた。橈骨神経は,29肢(80.6%)において上腕筋に分布していた。「外側頭」は,24肢(66.7%)において筋皮神経のみが分布し,12肢(33.3%)において筋皮神経と橈骨神経が分布していた。一方「内側頭」は,10肢(27.8%)において筋皮神経のみが分布し,26肢(72.2%)において筋皮神経と橈骨神経が分布していた。「中間頭」には,橈骨神経の進入が認められなかった。正中神経あるいは尺骨神経が,上腕筋に進入する例は認められなかった。
【考察】
下肢において,大腿四頭筋は膝関節の主要な伸筋として作用する。そのうち,内側広筋は粗線内側唇,外側広筋と中間広筋は粗線外側唇から起始する。すなわち大腿四頭筋の起始部は,大腿前面(伸側)だけではなく,後面(屈側)に拡がっている。一方,上腕筋は,上腕二頭筋や腕橈骨筋,前腕屈筋群とともに,肘関節の主要な屈筋として作用する。上腕筋の起始部は,上腕前面(屈側)だけではなく,上腕骨の後面(伸側)に拡がり,上腕遠位部において横断面の約2/3を占める。したがって上腕筋,とくに「内側頭」は,大腿四頭筋と同様に,広大な起始部を有していると考えられる。膝関節は伸展作用が,肘関節は屈曲作用が強い。下肢においては大腿四頭筋が,上肢においては上腕筋が,それぞれ膝関節と肘関節に要求される作用に適応するように,発達したことが示唆される。前腕を近位外方へ引き寄せるように走行する上腕筋「外側頭」が外側広筋,「中間頭」が内側広筋,深層を走行して関節包にも付着する「内側頭」が中間広筋と,それぞれ相同の機能を有すると考えられる。
上腕筋が筋皮神経と橈骨神経の二重支配を受けることは,よく知られている。しかし,その機能的および発生学的な意義は明らかではない。今回の結果から,橈骨神経は「中間頭」には進入せず,「内側頭」に分布する傾向が強いことが明らかになった。「内側頭」に隣接する腕橈骨筋は,橈骨神経支配であるにも関わらず,肘関節屈曲作用を有する。腕橈骨筋および上腕筋「内側頭」は,肘関節屈曲作用を増大するために,伸筋群の原基の一部が屈側に回り込んで形成されたと推測される。筋皮神経によって優位に支配される「外側頭」および「中間頭」の遠位部が内側頭に合流したため,上腕筋全体が二重支配になった可能性も示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
科学的根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である。本研究は,上腕筋の構成と支配神経を詳細に観察し,肘関節屈曲作用に関して上腕筋と他の筋が機能的および発生学的に関連している可能性を示唆するものであり,肘関節疾患の病態理解や治療の発展に寄与すると考える。