第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学1

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0902] 自律神経機能異常(交感神経優位状態)に対する運動療法の検討

田中恩, 宇野健太郎, 谷頭幸二 (特定医療法人茜会昭和病院リハビリテーション部)

キーワード:自律神経機能, CRPS, 運動リズム

【はじめに,目的】
CRPSやRSDをはじめとする交感神経の異常は,重症になると治療に難渋することが多い。手術や外傷後にCRPSやRSDを発症すると痛みや腫脹熱感が継続し改善傾向がみられずクリニカルパスの標準的治療期間で治癒しないことが多い。
自律神経の異常(交感神経優位状態)が,痛みや筋緊張の原因であると推測される一方,自律神経の異常に対する運動療法の有効な報告は少ない。
本研究は,筋緊張を自律神経機能異常の一つの兆候と捉え,運動療法により交感神経の活動を抑制することができるのではないかという仮説の元,これまでの臨床経験から幾つかの運動を選択し,自覚のない筋緊張の軽減を図り自己コントロールできる状態を作るための運動療法について検討することを目的とする。
【方法】
被験者:20歳~32歳の健常成人8名(男性6名,女性2名)。使用機器:自律神経機能測定装置(クロスウェル社製Reflex名人)。概要:被験者はベッド上安静臥位をとり,左右の肘関節に対し2種類の他動運動 ①小振幅他動運動(Short Stroke Passive Movement;以下SS),②全可動域他動運動(Full Range Passive Movement;以下FR)を行う。運動開始前安静(Control以下Cont),運動中および運動間の安静(Rest)における自律神経活動を測定した。プロトコール:①Cont:安静2分,②Rt SS:右肘関節小振幅他動運動2分,③Lt SS:左肘関節小振幅他動運動2分,④Rt FR:右肘関節全可動域他動運動2分,⑤Lt FR:左肘関節全可動域他動運動2分,⑥Rest:運動間安静2分とした。①の後②~⑤の運動をそれぞれ2回実施し各運動の間に⑥の安静時間を設定した。②③のSS運動は,2Hzの反復スピードで実施した。これは,臨床経験上反復しやすいと思われるリズムであること,また2Hzの運動が一次運動野の興奮性を抑制するというUehara et al.(2011)の報告を参考に設定した。また,④⑤のFR運動は,対照的な運動とするため,ゆっくりと屈曲伸展を行うこととし一往復が10秒となるようにした。統計処理は,一元配置分散分析を行い有意水準5%とした。
【結果】
各測定結果の平均は以下の通りであった。自律神経活動CVRR:Cont;5.395,Rt SS;4.431,Lt SS;4.504,Rest;5.292,Rt FR;4.154,Lt FR;4.666,Rest;5.363。交感神経+副交感神経HF:Cont;693.153,Rt SS;463.716,Lt SS;443.017,Rest;442.417,Rt FR;408.712,Lt FR;550.905,Rest;404.909。副交感神経LF:Cont;919.688,Rt SS;712.747,Lt SS;787.829,Rest;1154.655,Rt FR;795.191,Lt FR;1019.873,Rest;1436.849。交感神経切替力L/H:Cont;3.380,Rt SS;2.401,Lt SS;2.199,Rest;2.977,Rt FR;2.409,Lt FR;2.151,Rest;3.621。Contと比較してSS,FRともに自律神経活動を抑制する傾向がみられたが有意差はみられなかった。また,実験中の自律神経バランスの経時的変化は,運動前と比較して運動中において交感神経の活動が低下する傾向にあった。SSにおいては60秒前後にて筋緊張が低下(弛緩)する傾向がみられ,FRにおいては被験者のリズムと一致した時に交換神経活動が低下する傾向がみられた。
【考察】
今回,CRPSやRSDをはじめとする自律神経の異常に対する運動療法について検討することを目的とし,研究成果の汎用性を考え一関節(肘関節)に対するアプローチに絞り,他動運動による自律神経活動へ与える影響を調査し,より適切な運動について検討した。SSにおいて交感神経活動の低下がみられた。2Hzの運動はヒトの動きやすさと関係していると思われる。例えばヒトの自由歩行時の歩行率は,長崎ら(1994)によると男性で112.9歩/分,女性で114.6歩/分とされ1秒間に約1.9歩であり,ほぼ2Hzのリズムで歩行していることからも伺える。なぜ2Hzのリズムが有効かについては明らかになっておらず後の研究が必要である。また,SS60秒経過あたりから筋緊張の低下が感じられ,被験者においても脱力の自覚があり実験中の値の変化ともほぼ一致していた。本研究で実施したSSは,副交感神経活動の変化および筋緊張低下に一定の効果があり,単一関節に対するアプローチであっても自律神経系に影響を与えることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
交感神経優位による,筋緊張の亢進は運動制限や痛みの原因となり悪循環となる。交感神経の活動を抑制し悪循環を断ち切ることができれば理学療法プログラムをスムーズに進めることができると思われ本研究はその一助となると思われる。