[P3-B-0909] 後肢懸垂と関節固定により発生した関節拘縮に対する歩行訓練の影響
―ラットを用いた実験的研究―
キーワード:後肢懸垂, 拘縮, トレッドミル
【はじめに,目的】
動物実験において,関節固定法は関節拘縮を発生させるために用いられている。我々は関節不動による関節拘縮を予防するために必要な関節運動時間を検討したところ,1週間の自由運動中に1日8時間の関節固定を行うと関節拘縮が発生し,1日4時間の関節固定を行った場合は関節拘縮が発生しないことを明らかにした。臨床における臥床状態は関節不動だけでなく,下肢の非荷重状態が加わっている。そこで,我々は関節不動を関節固定,非荷重を後肢懸垂法で再現し,両者を組み合わせ関節拘縮の発生を検討した。それにより,関節不動と比べて関節不動と非荷重の組み合わせは関節拘縮の発生を促進することを報告した。さらに,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定(以下モデル)を行うことで,関節拘縮が発生することを明らかにした。この知見は臥床期間が長い患者において,連続4時間の関節不動は関節拘縮を発生させることを示唆している。これまでに,このモデルにおいて発生した関節拘縮に対して,治療介入を調査した研究はない。先行研究では関節拘縮の治療介入として,歩行訓練が行われている。そこで,本研究の目的は20分の歩行訓練がモデルによって発生した関節拘縮に与える影響を検討することである。
【方法】
対象は8週齢,体重220.2±6.6gのWistar系雌ラット18匹である。各個体は各群が6匹になるように,1週間の自由運動中に1日4時間の関節固定を行う「固定群」,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定を行う「懸垂群」,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定に加えて,1日20分のトレッドミル歩行を行う「運動群」に振り分けた。実験期間は1週間である。関節固定は右下肢とし,左下肢は非固定肢とした。関節固定の肢位は足関節最大底屈位とし,テーピングを用いて行った。後肢懸垂は尾部に直径1.0mmキルシュナー鋼線を刺入し,ナスカンフックを介して飼育ゲージの金網に掛けることで行った。運動群の関節固定の実施時間は9時から13時とした。トレッドミル歩行において使用した機器はラット・マウス用トレッドミルである。歩行速度は10m/minとし,歩行時間は20分とした。運動群のトレッドミル歩行の実施時間は関節固定の直前である。足関節背屈可動域は実験開始前と終了直後に行い,小型筋力計を用いて行った。足関節可動域測定時に加える力は0.3Nである。統計処理として,二次元配置分散分析を行い有意差がみられた場合に事後検定としてScheffe法を用いた。交互作用がある場合は単純主効果を確認した。危険率は5%未満を有意差ありとした。
【結果】
各群の実験開始前の背屈可動域は固定群136.1±2.6,懸垂群135.0±2.3,運動群137.1±1.8であり,全群間に有意差は認められなかった。実験終了直後の背屈可動域は固定群138.5±2.8,懸垂群120.8±11.1,運動群126.4±12.2であり固定群と比べて懸垂群と運動群は有意な低下が認められた。なお,運動群と懸垂群の間に有意差は認められなかった。固定群は実験期間を通して有意差を認めなかった。懸垂群と運動群の背屈可動域は実験開始前と比べて,実験終了後において有意な低下が認められた。
【考察】
後肢懸垂による非荷重や関節固定による関節不動は低酸素状態を示唆する低酸素誘導因子の増加を引き起こすことが明らかとなっている。そして,組織の低酸素状態はその組織の伸張性が低下する線維化を引き起こす。本研究の懸垂群は後肢懸垂に関節固定を加えているため,関節固定のみの固定群よりも低酸素状態による組織の線維化が促進することが考えられる。それにより,懸垂群の関節拘縮は固定群よりも増悪したと考えられる。関節拘縮に対してトレッドミル歩行を行った先行研究によると,10分間のドレッドミル歩行は関節拘縮改善に影響がなく,20分においては不完全ではあったが改善が認められたと報告している。本研究では,20分のトレッドミル歩行は関節拘縮の改善に至らなかった。後肢懸垂や関節固定による痛覚過敏を検討した報告によると,両処置によって痛覚過敏が発生することが報告されている。また,ストレッチングは最終可動域でより長い時間実施される方が望ましいと報告されている。そのため,懸垂群のトレッドミル歩行は下肢の関節固定と後肢懸垂による痛覚過敏発生により最終可動域までの足関節背屈が行えず,関節拘縮に対して十分な介入とならなかった可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,非荷重と関節不動の組み合わせが関節拘縮に悪影響を及ぼすことを示した。さらに,20分間の歩行訓練は,関節拘縮予防に対して有効的な手段とならないことを示した。
動物実験において,関節固定法は関節拘縮を発生させるために用いられている。我々は関節不動による関節拘縮を予防するために必要な関節運動時間を検討したところ,1週間の自由運動中に1日8時間の関節固定を行うと関節拘縮が発生し,1日4時間の関節固定を行った場合は関節拘縮が発生しないことを明らかにした。臨床における臥床状態は関節不動だけでなく,下肢の非荷重状態が加わっている。そこで,我々は関節不動を関節固定,非荷重を後肢懸垂法で再現し,両者を組み合わせ関節拘縮の発生を検討した。それにより,関節不動と比べて関節不動と非荷重の組み合わせは関節拘縮の発生を促進することを報告した。さらに,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定(以下モデル)を行うことで,関節拘縮が発生することを明らかにした。この知見は臥床期間が長い患者において,連続4時間の関節不動は関節拘縮を発生させることを示唆している。これまでに,このモデルにおいて発生した関節拘縮に対して,治療介入を調査した研究はない。先行研究では関節拘縮の治療介入として,歩行訓練が行われている。そこで,本研究の目的は20分の歩行訓練がモデルによって発生した関節拘縮に与える影響を検討することである。
【方法】
対象は8週齢,体重220.2±6.6gのWistar系雌ラット18匹である。各個体は各群が6匹になるように,1週間の自由運動中に1日4時間の関節固定を行う「固定群」,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定を行う「懸垂群」,1週間の後肢懸垂中に1日4時間の関節固定に加えて,1日20分のトレッドミル歩行を行う「運動群」に振り分けた。実験期間は1週間である。関節固定は右下肢とし,左下肢は非固定肢とした。関節固定の肢位は足関節最大底屈位とし,テーピングを用いて行った。後肢懸垂は尾部に直径1.0mmキルシュナー鋼線を刺入し,ナスカンフックを介して飼育ゲージの金網に掛けることで行った。運動群の関節固定の実施時間は9時から13時とした。トレッドミル歩行において使用した機器はラット・マウス用トレッドミルである。歩行速度は10m/minとし,歩行時間は20分とした。運動群のトレッドミル歩行の実施時間は関節固定の直前である。足関節背屈可動域は実験開始前と終了直後に行い,小型筋力計を用いて行った。足関節可動域測定時に加える力は0.3Nである。統計処理として,二次元配置分散分析を行い有意差がみられた場合に事後検定としてScheffe法を用いた。交互作用がある場合は単純主効果を確認した。危険率は5%未満を有意差ありとした。
【結果】
各群の実験開始前の背屈可動域は固定群136.1±2.6,懸垂群135.0±2.3,運動群137.1±1.8であり,全群間に有意差は認められなかった。実験終了直後の背屈可動域は固定群138.5±2.8,懸垂群120.8±11.1,運動群126.4±12.2であり固定群と比べて懸垂群と運動群は有意な低下が認められた。なお,運動群と懸垂群の間に有意差は認められなかった。固定群は実験期間を通して有意差を認めなかった。懸垂群と運動群の背屈可動域は実験開始前と比べて,実験終了後において有意な低下が認められた。
【考察】
後肢懸垂による非荷重や関節固定による関節不動は低酸素状態を示唆する低酸素誘導因子の増加を引き起こすことが明らかとなっている。そして,組織の低酸素状態はその組織の伸張性が低下する線維化を引き起こす。本研究の懸垂群は後肢懸垂に関節固定を加えているため,関節固定のみの固定群よりも低酸素状態による組織の線維化が促進することが考えられる。それにより,懸垂群の関節拘縮は固定群よりも増悪したと考えられる。関節拘縮に対してトレッドミル歩行を行った先行研究によると,10分間のドレッドミル歩行は関節拘縮改善に影響がなく,20分においては不完全ではあったが改善が認められたと報告している。本研究では,20分のトレッドミル歩行は関節拘縮の改善に至らなかった。後肢懸垂や関節固定による痛覚過敏を検討した報告によると,両処置によって痛覚過敏が発生することが報告されている。また,ストレッチングは最終可動域でより長い時間実施される方が望ましいと報告されている。そのため,懸垂群のトレッドミル歩行は下肢の関節固定と後肢懸垂による痛覚過敏発生により最終可動域までの足関節背屈が行えず,関節拘縮に対して十分な介入とならなかった可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,非荷重と関節不動の組み合わせが関節拘縮に悪影響を及ぼすことを示した。さらに,20分間の歩行訓練は,関節拘縮予防に対して有効的な手段とならないことを示した。