第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人体構造・機能情報学3

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0915] 神経因性疼痛モデルラットに対する定期的な走運動が疼痛緩和に及ぼす影響

角園恵1, 大塚章太郎1, 用皆正文2, 榊間春利3 (1.鹿児島大学大学院保健学研究科, 2.鹿児島大学大学院医歯学総合研究科, 3.鹿児島大学医学部保健学科)

Keywords:神経因性疼痛, 運動療法, グリア細胞

【はじめに,目的】
神経因性疼痛は圧迫性の神経損傷などを契機に続く病的慢性疼痛である。神経細胞が障害されることにより,脊髄後角のミクログリアが活性化され炎症性物質の産生や神経細胞の機能異常により疼痛を引き起こす。臨床症状としてはアロディニア,疼痛過敏,自発痛などの症状をきたす。ヒトや動物実験において,運動には一過性に鎮痛作用があり,急性疼痛を軽減することが示されている。しかし,慢性疼痛に対する長期運動効果に関してはよく分かっていない。今回,我々は神経因性疼痛モデルラットを用いて,定期的な走運動が神経因性疼痛の緩和に及ぼす影響を調べた。
【方法】
7週齢の雄性Sprague-Dawleyラット38匹(体重250g~270g)を対象とし,無作為に運動群群(18匹),非運動群(17匹),正常コントロール群(正常群:3匹)に分けた。環境適応させるため3日間のトレッドミル走行練習を行った後,神経因性疼痛モデルを作成した。右坐骨神経を大腿部で露出し,4-0縫合糸で4ヵ所を緩く結紮することにより慢性絞扼性損傷(Chronic Constriction Injury:CCI)を作成した。CCI後2日より速度20m/min,15分間からトレッドミル運動を開始し,2日目以降は速度20m/min,30分間,5日/週,5週間運動を行った。術前,CCI後1日,3日,1週,2週,3週,4週,5週にVon Frey Testを実施し,50%疼痛閾値を算出した。CCIモデル作成後3週と5週に4%パラホルムアルデヒド燐酸緩衝液(pH7.4)にて灌流固定した。中脳-橋,脊髄腰膨大部,坐骨神経を摘出し,4%パラホルムアルデヒド燐酸緩衝液で一晩浸漬固定した後,パラフィン包埋を行い,厚さ5μmの連続環状切片を作成し,組織学的,免疫組織学的観察を行った。中脳-橋を内因性オピオイドのマーカーである抗β-endorphin/met-enkephalin抗体で免疫染色した後,中脳水道周囲灰白質における陽性細胞面積を定量した。また,脊髄腰膨大部をミクログリアのマーカーである抗Iba1抗体とアストロサイトのマーカーである抗GFAP抗体で免疫染色した後,損傷側と非損傷側の脊髄後角における陽性細胞面積の定量化を行った。両後肢よりヒラメ筋,腓腹筋,前脛骨筋を摘出し筋重量を測定した。統計学的検定には,統計処理ソフトSPSSを使用し二元配置分散分析後,多重比較検定を実施した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
CCIにより,損傷側疼痛閾値は非損傷側と比較して低下した。1週後まで損傷側後肢の疼痛閾値は低下したが,4週と5週後では非運動群と比較して運動群の疼痛閾値は有意に上昇を認めた。非損傷側の疼痛閾値は実験期間を通して変化は見られなかった。CCI後3週において,損傷側脊髄後角におけるIba1やGFAPの発現は正常群と比べて非運動群,運動群ともに増加した。運動群のIba1,GFAP陽性面積は非運動群と比較して有意に減少していた。5週後には,3週後と同様に損傷側脊髄後角におけるIba1やGFAPの発現は正常群と比較して増加していた。運動群と非運動群の発現量には有意な違いは認められなかった。5週後の非運動群のIba1陽性面積は3週後と比較して減少したが,GFAP陽性細胞は増加していた。3週後のβ-endorphin/met-enkephalin陽性面積は,運動群と非運動群に明らかな違いは見られなかったが,5週後には運動群の発現量が非運動群と比べて有意に増加していた。CCI後3週,5週の運動群,非運動群の損傷側骨格筋重量は正常群と比べて有意に減少していたが,運動群,非運動群の間に有意な違いは認められなかった。また,運動群と非運動群の損傷部坐骨神経には明らかな形態学的違いは認められなかった。
【考察】
疼痛の発現や維持には脊髄後角におけるミクログリアやアストロサイトの活性化が関与している。本研究は,神経因性疼痛モデルラットに対するレッドミル運動が機械的アロディニアを軽減し,脊髄後角におけるミクログリアやアストロサイトの活性化の抑制や中脳における内因性オピオイドの発現の増加に影響を及ぼすことを示した。また,運動により末梢神経の再生を促進すると言う報告もあるが,今回,運動による明らかな神経再生促進効果はみられなかった。今回の結果は,継続した運動は神経因性疼痛の緩和作用があり,そのメカニズムとして脊髄後角におけるグリア細胞の活性化の抑制や脳幹での内因性オピオイドの産生増加が関与していることを示唆した。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は難治性の疼痛である神経因性疼痛に対する運動療法効果を局所から脊髄,脳レベルでの変化と幅広く検証し基礎研究から明らかにしようとするもので,理学療法研究として意義があるものであると考える。