[P3-B-0921] 褥瘡の動物実験モデルにおいて,除神経が有毛型皮膚の表皮や血管分布に及ぼす影響
Keywords:褥瘡, 皮膚, 除神経
【はじめに,目的】ラットの坐骨神経を両側切断し,片側下肢に錘負荷(体重の約5%)と尾部懸垂による姿勢制御を行うと,ほぼ全例の踵部皮膚に褥瘡様の皮膚病変が出現する(長井ら,2010)。しかし,除神経によって手掌型皮膚が菲薄化し,創傷の治癒が遅れるという報告がある(Huang et al., 1999)。そこで今回は本動物実験モデルにおいて,除神経が踵部の有毛型皮膚の表皮や血管分布に及ぼす影響を,形態学的,免疫組織学的に観察した。
【方法】12週齢Wistar系雄性ラット95匹を用いた。対照群(n=5)と褥瘡モデルを作成する群(褥瘡群;n=30)を作成した。褥瘡モデルは長井ら(2010)の方法に倣い,両坐骨神経切断後に踵部を常時接地するように軽度尾部懸垂を施し,片側下腿に錘負荷を行った。さらに坐骨神経切断による皮膚への影響を見るため,坐骨神経切断後,踵部の圧迫を取り除くために尾部懸垂を施す群(除神経群;n=30),尾部懸垂そのものの影響を見るため,坐骨神経を切断せず尾部懸垂を行う群(非荷重群;n=30)を作成した。上記条件下で飼育後1,3,5,7,10,14日に,ラットをペントバルビタール水溶液の腹腔内投与にて屠殺し,10%ホルマリンで灌流固定した。圧迫部の皮膚を約1cm角で採取し10%ホルマリンで浸漬固定を行った。標本をパラフィン包埋し,厚さ3μmの踵部縦断切片を作製し,H-E染色を行って組織学的観察を行った。免疫組織化学染色により,表皮胚芽層の基底層で細胞分裂のマーカーであるPCNAと合わせて血管新生因子であるVEGFの発現を検討した。
【結果】褥瘡群の表皮胚芽層は1日後から5日後まで肥厚し,基底層や有棘層の厚みが増加した。また3日後から真皮の膠原線維が減少し,胚芽層の細胞は変性を始めた。7日後以降で胚芽層が菲薄化し,14日後には胚芽層が消失して開放創の形成に至った。同群の圧迫部直下のPCNAを見ると,1日後から3日後までは,基底層で発現が増強し,5日後から減弱し10日後には消失した。同群の圧迫部直下のVEGFを見ると,3日後に胚芽層で染色性が減弱し,5日後には真皮でも発現が減弱していた。7日後から10日後にかけて,圧迫部直下の胚芽層および真皮でVEGFの発現が減弱したが,圧迫周辺部の胚芽層および真皮でVEGFの発現は増強した。除神経群の胚芽層は3日後から菲薄化するが,その後14日後まで変化は見られなかった。褥瘡群の圧迫部と同部位のPCNAの発現を除神経群で観察すると,1日後に発現が減弱したが,その後14日後まで変化は見られなかった。非荷重群の表皮には変化が観察されず,褥瘡群圧迫部と同部位のPCNAの発現にも変化はなかった。
【考察】褥瘡群では3日後まで圧迫部直下で表皮胚芽層の基底層におけるPCNAの発現が増強するに伴い,5日後まで胚芽層は肥厚した。先行研究によれば,基底層の細胞は機械的刺激によって有糸分裂を生じ始め(Lobitz et al., 1954),機械的圧迫負荷がかかるヒトの踵部皮膚でも基底層の細胞分裂が増加し表皮が肥厚することが報告されている(Kim et al., 2010)。すなわち,褥瘡群で5日後まで胚芽層が肥厚したのは,機械的圧迫刺激によって基底層の細胞分裂能が増強したためと考えられた。また褥瘡群では3日後以降胚芽層および真皮でVEGF発現の減弱が観察された。ラット背部皮膚を用いた褥瘡モデルでは,圧迫部直下でVEGF発現が減弱し,褥瘡の進行に伴い発現が減弱していくことが報告されている(Yang et al., 2013)。ヒトの褥創形成には阻血-再灌流障害が関与していると言われる。阻血-再灌流障害はVEGF発現の減弱をもたらすため,本モデルの圧迫部にできた皮膚損傷はヒトの褥創の形成過程と類似した形成過程を経ている可能性が示唆された。除神経によって有毛型皮膚でも軽度の表皮菲薄化が起こるが,褥瘡形成までには至らない。本モデルでは,圧迫部において機械的刺激が加わり,胚芽層の基底層で細胞分裂能が増強して胚芽層が肥厚する。しかし,同時期に血管新生因子の発現は減弱するため,肥厚した表皮に必要な血流が供給されない状態を招き,後に胚芽層の消失から開放創形成に至ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本動物実験モデルにおける褥瘡様皮膚病変の発症過程は,肉眼的にも組織学的にもヒトの褥瘡と非常によく似ている。圧迫などの物理的刺激によって表皮は一時的に肥厚するが,圧迫による阻血-再灌流などによって微小血管が障害され,表皮が壊死に陥り,褥瘡に至ると考えられる。本モデルではヒトの褥瘡の病因,病態を解析する上で有用なツールである。
【方法】12週齢Wistar系雄性ラット95匹を用いた。対照群(n=5)と褥瘡モデルを作成する群(褥瘡群;n=30)を作成した。褥瘡モデルは長井ら(2010)の方法に倣い,両坐骨神経切断後に踵部を常時接地するように軽度尾部懸垂を施し,片側下腿に錘負荷を行った。さらに坐骨神経切断による皮膚への影響を見るため,坐骨神経切断後,踵部の圧迫を取り除くために尾部懸垂を施す群(除神経群;n=30),尾部懸垂そのものの影響を見るため,坐骨神経を切断せず尾部懸垂を行う群(非荷重群;n=30)を作成した。上記条件下で飼育後1,3,5,7,10,14日に,ラットをペントバルビタール水溶液の腹腔内投与にて屠殺し,10%ホルマリンで灌流固定した。圧迫部の皮膚を約1cm角で採取し10%ホルマリンで浸漬固定を行った。標本をパラフィン包埋し,厚さ3μmの踵部縦断切片を作製し,H-E染色を行って組織学的観察を行った。免疫組織化学染色により,表皮胚芽層の基底層で細胞分裂のマーカーであるPCNAと合わせて血管新生因子であるVEGFの発現を検討した。
【結果】褥瘡群の表皮胚芽層は1日後から5日後まで肥厚し,基底層や有棘層の厚みが増加した。また3日後から真皮の膠原線維が減少し,胚芽層の細胞は変性を始めた。7日後以降で胚芽層が菲薄化し,14日後には胚芽層が消失して開放創の形成に至った。同群の圧迫部直下のPCNAを見ると,1日後から3日後までは,基底層で発現が増強し,5日後から減弱し10日後には消失した。同群の圧迫部直下のVEGFを見ると,3日後に胚芽層で染色性が減弱し,5日後には真皮でも発現が減弱していた。7日後から10日後にかけて,圧迫部直下の胚芽層および真皮でVEGFの発現が減弱したが,圧迫周辺部の胚芽層および真皮でVEGFの発現は増強した。除神経群の胚芽層は3日後から菲薄化するが,その後14日後まで変化は見られなかった。褥瘡群の圧迫部と同部位のPCNAの発現を除神経群で観察すると,1日後に発現が減弱したが,その後14日後まで変化は見られなかった。非荷重群の表皮には変化が観察されず,褥瘡群圧迫部と同部位のPCNAの発現にも変化はなかった。
【考察】褥瘡群では3日後まで圧迫部直下で表皮胚芽層の基底層におけるPCNAの発現が増強するに伴い,5日後まで胚芽層は肥厚した。先行研究によれば,基底層の細胞は機械的刺激によって有糸分裂を生じ始め(Lobitz et al., 1954),機械的圧迫負荷がかかるヒトの踵部皮膚でも基底層の細胞分裂が増加し表皮が肥厚することが報告されている(Kim et al., 2010)。すなわち,褥瘡群で5日後まで胚芽層が肥厚したのは,機械的圧迫刺激によって基底層の細胞分裂能が増強したためと考えられた。また褥瘡群では3日後以降胚芽層および真皮でVEGF発現の減弱が観察された。ラット背部皮膚を用いた褥瘡モデルでは,圧迫部直下でVEGF発現が減弱し,褥瘡の進行に伴い発現が減弱していくことが報告されている(Yang et al., 2013)。ヒトの褥創形成には阻血-再灌流障害が関与していると言われる。阻血-再灌流障害はVEGF発現の減弱をもたらすため,本モデルの圧迫部にできた皮膚損傷はヒトの褥創の形成過程と類似した形成過程を経ている可能性が示唆された。除神経によって有毛型皮膚でも軽度の表皮菲薄化が起こるが,褥瘡形成までには至らない。本モデルでは,圧迫部において機械的刺激が加わり,胚芽層の基底層で細胞分裂能が増強して胚芽層が肥厚する。しかし,同時期に血管新生因子の発現は減弱するため,肥厚した表皮に必要な血流が供給されない状態を招き,後に胚芽層の消失から開放創形成に至ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本動物実験モデルにおける褥瘡様皮膚病変の発症過程は,肉眼的にも組織学的にもヒトの褥瘡と非常によく似ている。圧迫などの物理的刺激によって表皮は一時的に肥厚するが,圧迫による阻血-再灌流などによって微小血管が障害され,表皮が壊死に陥り,褥瘡に至ると考えられる。本モデルではヒトの褥瘡の病因,病態を解析する上で有用なツールである。