[P3-B-0930] 卵巣摘出がラットヒラメ筋の毛細血管ネットワークと血管新生シグナルに与える影響
キーワード:卵巣摘出, 骨格筋, 毛細血管
【はじめに,目的】
更年期女性における血管障害の発症頻度が増加を示すことにエストロゲンが関与していると報告されている。また,エストロゲンは血管構造にも影響を与え,エストロゲン欠損モデルである卵巣摘出モデル動物では脳や心臓の毛細血管が退行すると報告されている。一方で,骨格筋の毛細血管は筋細胞への酸素供給や糖・インスリンなどの輸送に重要であるが,エストロゲン欠損による骨格筋の毛細血管構造の変化についてはこれまで明らかにされていない。更年期には筋持久力の低下やインスリン抵抗性などを呈することが報告され,この一因としてエストロゲンの低下による骨格筋内毛細血管構造の退行が関わっている可能性が考えられる。そこで,本研究では卵巣摘出がヒラメ筋の毛細血管構造と血管新生及び血管退行に関わるタンパク質である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び血管新生抑制因子(トロンボスポンディン-1:TSP-1)の発現パターンに与える影響を検証することを目的とした。
【方法】
7週齢のWistar系雌性ラットを用い,卵巣摘出群(OVX群)及び偽手術群(Sham群)の2群に区分した。卵巣摘出から28週間後,運動耐容能を評価するために,傾斜20°,速度15m/minに設定したトレッドミル走行により限界走行時間と走行前後の血中乳酸値を測定した。走行テストの2週間後,左側ヒラメ筋を摘出した。また,微小血管構造を3次元的に解析するため,大腿動脈より蛍光剤を下肢に灌流後,右側ヒラメ筋を摘出した。ヒラメ筋の毛細血管密度は筋横断切片のAP染色より測定し,毛細血管直径及び容積は共焦点レーザー顕微鏡を用いた3次元画像により測定した。VEGF及びTSP-1のタンパク発現量はウエスタンブロッティング法により測定し,血管新生因子と血管新生抑制因子のバランスを検証するためVEGF/TSP-1比を算出した。さらに,ミトコンドリア活性の指標として,クエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。各群間差の有意判定にはnon-paired Student t検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
OVX群ではSham群に比較して限界走行時間が有意に低値を示し,運動後乳酸値が有意に高値を示した。ヒラメ筋の毛細血管密度は群間で変化を認めなかったが,毛細血管容積・直径はSham群に対してOVX群で有意に低値を示した。さらに,VEGF発現量は群間で有意差を認めなかったが,TSP-1発現量はSham群と比較してOVX群で有意に高値を示し,VEGF/TSP-1比はSham群に対してOVX群で有意に低値を示した。また,CS活性はSham群とOVX群の間で有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,卵巣摘出がヒラメ筋の毛細血管直径及び容積の減少を惹起し,血管新生抑制因子TSP-1の発現を増加させることでVEGF/TSP-1タンパク発現比を低下させた。筋細胞への酸素供給能は骨格筋内毛細血管構造における血管密度,血管直径,血管容積などの因子に依存する。そのため,毛細血管の退行は酸素供給を制限し,筋特異的に血管退行を誘導したモデル動物では走行持久力が低下すると報告されている。本研究では,卵巣摘出により毛細血管直径と容積の減少を認め,運動時における筋細胞への酸素供給能が低下したことが考えられる。一方で,CS活性では卵巣摘出による変化を認めなかったため,OVX群における限界走行時間の低下及び運動後乳酸値の増加は,卵巣摘出に伴うヒラメ筋内毛細血管の退行による酸素供給能の低下,及び無酸素性代謝の亢進が関わっていると考えられる。さらに,OVX群では血管新生抑制因子であるTSP-1の発現増加が認められた。骨格筋内の毛細血管構造には,VEGFとTSP-1の発現バランスが密接に関与し,廃用や糖尿病ではVEGF/TSP-1比が低値を示し毛細血管が退行することが報告されている。本研究では卵巣摘出によりVEGF/TSP-1比が低値を示したためヒラメ筋内の毛細血管が退行したと考えられる。一方,骨格筋においてエストロゲンがこれら血管新生に関わる細胞内シグナルに及ぼす作用機序について本研究で明らかにされておらず,今後,詳細に検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
エストロゲンの低下・消失は更年期やスポーツ性無月経において見られるが,骨格筋に与える影響に関して未だ知られていない部分が多い。本研究によりエストロゲンの欠損が骨格筋を栄養する毛細血管を退行させることが明らかとなったため,この変化を予防改善するための運動療法や物理療法などの理学療法介入による効果を検証する必要があると考えられる。本研究は,更年期女性における持久力の低下が毛細血管退行に起因することを示し,理学療法治療の必要性を示唆した点で意義のある研究である。
更年期女性における血管障害の発症頻度が増加を示すことにエストロゲンが関与していると報告されている。また,エストロゲンは血管構造にも影響を与え,エストロゲン欠損モデルである卵巣摘出モデル動物では脳や心臓の毛細血管が退行すると報告されている。一方で,骨格筋の毛細血管は筋細胞への酸素供給や糖・インスリンなどの輸送に重要であるが,エストロゲン欠損による骨格筋の毛細血管構造の変化についてはこれまで明らかにされていない。更年期には筋持久力の低下やインスリン抵抗性などを呈することが報告され,この一因としてエストロゲンの低下による骨格筋内毛細血管構造の退行が関わっている可能性が考えられる。そこで,本研究では卵巣摘出がヒラメ筋の毛細血管構造と血管新生及び血管退行に関わるタンパク質である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)及び血管新生抑制因子(トロンボスポンディン-1:TSP-1)の発現パターンに与える影響を検証することを目的とした。
【方法】
7週齢のWistar系雌性ラットを用い,卵巣摘出群(OVX群)及び偽手術群(Sham群)の2群に区分した。卵巣摘出から28週間後,運動耐容能を評価するために,傾斜20°,速度15m/minに設定したトレッドミル走行により限界走行時間と走行前後の血中乳酸値を測定した。走行テストの2週間後,左側ヒラメ筋を摘出した。また,微小血管構造を3次元的に解析するため,大腿動脈より蛍光剤を下肢に灌流後,右側ヒラメ筋を摘出した。ヒラメ筋の毛細血管密度は筋横断切片のAP染色より測定し,毛細血管直径及び容積は共焦点レーザー顕微鏡を用いた3次元画像により測定した。VEGF及びTSP-1のタンパク発現量はウエスタンブロッティング法により測定し,血管新生因子と血管新生抑制因子のバランスを検証するためVEGF/TSP-1比を算出した。さらに,ミトコンドリア活性の指標として,クエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。各群間差の有意判定にはnon-paired Student t検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
OVX群ではSham群に比較して限界走行時間が有意に低値を示し,運動後乳酸値が有意に高値を示した。ヒラメ筋の毛細血管密度は群間で変化を認めなかったが,毛細血管容積・直径はSham群に対してOVX群で有意に低値を示した。さらに,VEGF発現量は群間で有意差を認めなかったが,TSP-1発現量はSham群と比較してOVX群で有意に高値を示し,VEGF/TSP-1比はSham群に対してOVX群で有意に低値を示した。また,CS活性はSham群とOVX群の間で有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,卵巣摘出がヒラメ筋の毛細血管直径及び容積の減少を惹起し,血管新生抑制因子TSP-1の発現を増加させることでVEGF/TSP-1タンパク発現比を低下させた。筋細胞への酸素供給能は骨格筋内毛細血管構造における血管密度,血管直径,血管容積などの因子に依存する。そのため,毛細血管の退行は酸素供給を制限し,筋特異的に血管退行を誘導したモデル動物では走行持久力が低下すると報告されている。本研究では,卵巣摘出により毛細血管直径と容積の減少を認め,運動時における筋細胞への酸素供給能が低下したことが考えられる。一方で,CS活性では卵巣摘出による変化を認めなかったため,OVX群における限界走行時間の低下及び運動後乳酸値の増加は,卵巣摘出に伴うヒラメ筋内毛細血管の退行による酸素供給能の低下,及び無酸素性代謝の亢進が関わっていると考えられる。さらに,OVX群では血管新生抑制因子であるTSP-1の発現増加が認められた。骨格筋内の毛細血管構造には,VEGFとTSP-1の発現バランスが密接に関与し,廃用や糖尿病ではVEGF/TSP-1比が低値を示し毛細血管が退行することが報告されている。本研究では卵巣摘出によりVEGF/TSP-1比が低値を示したためヒラメ筋内の毛細血管が退行したと考えられる。一方,骨格筋においてエストロゲンがこれら血管新生に関わる細胞内シグナルに及ぼす作用機序について本研究で明らかにされておらず,今後,詳細に検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
エストロゲンの低下・消失は更年期やスポーツ性無月経において見られるが,骨格筋に与える影響に関して未だ知られていない部分が多い。本研究によりエストロゲンの欠損が骨格筋を栄養する毛細血管を退行させることが明らかとなったため,この変化を予防改善するための運動療法や物理療法などの理学療法介入による効果を検証する必要があると考えられる。本研究は,更年期女性における持久力の低下が毛細血管退行に起因することを示し,理学療法治療の必要性を示唆した点で意義のある研究である。