第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0963] 徒手療法と星状神経節刺鍼の併用にて,左肩甲帯・左上肢の疼痛・痺れの改善を認めた頚椎症の一症例

井手一茂1, 長澤康弘1, 堀山祐史1, 小林浩行1, 森田良平2 (1.長谷川病院診療部リハビリテーション科, 2.長谷川病院診療部)

キーワード:頸椎症, 星状神経節, 徒手療法

【はじめに,目的】
今回,頚部から左肩甲帯,左上肢にわたる著明な疼痛・しびれを主症状とし,治療に難渋した頚椎症の症例に対し,トリガーポイントに着目した徒手療法と星状神経節鍼の併用により症状の改善を認めた。本症例における治療経過を以下に報告する。
【方法】
対象は50代女性。職業は整体師,リハビリテーション助手。診断名は頚椎症(頸椎症性脊髄症,C7神経根症)。現病歴は平成25年8月に両手の脱力感出現し,手根管症候群疑いと診断。平成26年2月に両上肢重だるさ(特に左肩),左手痺れ出現し,CTにより,頸椎椎間狭窄(C5-7)を指摘。同年5月に両肩痛に対し,トリガーポイント注射,浅頚神経根ブロック施行し,リリカ内服開始。同年6月,左上肢全体のジンジンする痛み・痺れ出現。リリカにて副作用出現し,トラムセットへ内服変更,理学療法開始,休職。A病院整形外科紹介受診し,頸椎C5/6,C6/7狭窄,C7/Th1後縦靭帯骨化指摘され,頸椎カラー終日着用指示。同年7月,セカンドオピニオン目的でB院脊椎外科紹介受診し,頸椎症性脊髄症,C7神経根症,左尺骨神経麻痺と診断され,神経伝導検査実施するも特に問題なし。当院での理学療法開始時,主訴は左肩甲帯の灼熱感を伴う疼痛,左上腕~手尖にかけての疼痛・痺れ,左手指の脱力感であった。疼痛は安静時(+),夜間時(+),圧痛(+):左肩甲挙筋,棘下筋,菱形筋,腕橈骨筋,動作時痛(+):頚部伸展,左側屈,回旋,5分程度の座位・立位姿勢保持にて疼痛・上肢痺れ出現。症状の増悪因子は座位・立位姿勢保持,朝方の起き上がり直後,夕方,頸椎牽引,軽減因子は左上側臥位,左上肢を挙上し,手を頭上へ持っていく姿勢,入浴であった。神経ダイナミックテストでは橈骨神経,正中神経にて陽性であり,橈骨神経テストにて最も疼痛が増悪し,肩甲骨下制解放により,やや疼痛の軽減がみられた。疼痛・痺れ領域は左肩甲骨上角,肩甲骨後内側面,上腕後外側から前腕橈側・手掌面・第2・3指への連続した領域,感覚検査は痺れ・疼痛が強く精査困難であった。座位姿勢は頭部前方偏位,頸椎前彎・上位胸椎後彎増強,左肩甲骨下制・下方回旋位であった。
【結果】
週2回ペースで外来理学療法を開始した。初期の理学療法評価より,橈骨・正中神経滑走不全,腕神経叢レベルでの神経伸長ストレスを問題点とし,理学療法プログラムは橈骨・正中神経の走行に沿った軟部組織マッサージ,左上側臥位にて肩甲骨下制,下方回旋アライメント修正した良肢位保持を実施した。しかし,理学療法直後も座位姿勢や立位姿勢での左上肢痺れ・疼痛,左肩甲骨上角疼痛は残存し,症状の改善は認められなかった。7月下旬より,理学療法に加え,週1回ペースで鍼灸師による星状神経節刺鍼を開始し,徐々に夜間時痛の改善がみられるようになってきた。同時に理学療法もトリガーポイントに着目した徒手療法に変更した。触診時,上部僧帽筋,斜角筋,肩甲挙筋,棘下筋,小円筋,鎖骨下筋,総指伸筋,長橈側手根伸筋,示指伸筋圧迫にて,疼痛・痺れ領域と一致した症状が再現された。星状神経節刺鍼,トリガーポイントに対する徒手療法開始後より,徐々に疼痛・痺れ改善され,モヤモヤした痛みへと症状の変化がみられ,下位頸椎に対する徒手牽引を加えることで痺れの消失がみらえるようになった。介入より約4ヶ月後,復職を検討可能なレベルまで症状の改善がみられた。
【考察】
本症例の疼痛・痺れ領域は皮膚髄節レベルや神経ダイナミックテストと完全には一致しておらず,対象となる神経を限局した初期の理学療法ではあまり改善がみられなかった。しかし,トリガーポイントに着目した徒手療法,星状神経節刺鍼の併用することで症状の改善がみられた。このことより,本症例は交感神経依存性の疼痛,末梢循環不全を呈しており,経過の中で,斜角筋,僧帽筋上部,棘下筋をキートリガーポイントとするサテライトトリガーポイントが形成されていたと考えられる。トリガーポイントが形成されていたことで,頸椎牽引による頚部筋の伸長が侵害刺激として認識されたと考えられる。神経因性疼痛・痺れに関しては,様々なメカニズムが関与していると考えられるが,今回,交感神経活動,トリガーポイントという概念を考慮した評価・治療を行うことで,症状の改善を認めた。
【理学療法学研究としての意義】
従来の神経髄節,末梢神経支配に着目した評価・治療に,今回の概念を加えることで,今後,神経因性疼痛・痺れに対し,有効な結果が得られるものと考える。