第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0966] 胸・腰椎疾患患者の歩行速度に前方リーチ距離と等尺性膝伸展筋力が及ぼす影響

山本哲生1, 山崎裕司2, 山下亜乃1, 片岡歩1, 中内睦朗3 (1.中内整形外科クリニックリハビリテーション科, 2.高知リハビリテーション学院理学療法学科, 3.中内整形外科クリニック整形外科)

Keywords:10m最大歩行速度, 等尺性膝伸展筋力, 前方リーチ距離

【目的】下肢筋力と立位バランスの2つの変量を用いた場合,より正確に虚弱高齢者の歩行自立度を予測し得ることを森尾ら(2007)は報告した。胸・腰椎疾患患者は,脊柱の変形を伴うことが多く,姿勢の異常が立位バランスや下肢筋力,歩行能力に与える影響は一般高齢者に比較して大きい。しかし,これらの疾患群において下肢筋力と立位バランス能力の両者が歩行速度に及ぼす影響を検討した報告は見られない。本研究では,胸・腰椎疾患患者の10m最大歩行速度(歩行速度)と等尺性膝伸展筋力(膝伸展筋力),前方リーチ距離(FRT)の関係について検討した。
【方法】対象者は60歳以上で胸・腰椎疾患を有し,独歩での通院が可能な症例である。除外基準は,研究に対して同意が得られなかったもの,疼痛の急性期および,明らかな中枢神経系疾患を有するもの,認知症などによって指示理解が困難なものとした。上記の基準に照らし得られた対象者数は138名(男性30名,女性108名,年齢74.1±7.2歳)である。疾患の内訳は重複例も含み,腰部脊柱管狭窄症50名,腰部変形性脊椎症62名,圧迫骨折12名,その他の病名は17名であった。評価項目としては身長,体重,年齢,歩行速度,FRT,膝伸展筋力(アニマ社製 徒手筋力計測器μTasF-1)の6項目を調査・測定した。なお膝伸展筋力は左右の平均値を体重で除したものを採用した。統計学的手法としては,上記評価項目で重回帰分析を行い,歩行速度と関連の強い因子を特定した。次に虚弱高齢者の院内歩行が自立する前方リーチ距離のカットオフ値26cmと歩行速度が1.0m/secを上回る膝伸展筋力のカットオフ値0.36kgf/kg(大森,2005)を参考として,膝伸展筋力0.36kgf/kg以上FRT26cm以上を筋力・バランス良好群,膝伸展筋力0.36kgf/kg未満FRT26cm未満を筋力・バランス不良群,膝伸展筋力0.36kgf/kg未満FRT26cm以上を筋力不良群,膝伸展筋力0.36kgf/kg以上FRT26cm未満をバランス不良群とした。そして4群間での歩行速度,年齢を一元配置分散分析にて検討し,歩行速度が1.0m/secを下回る対象者の割合をχ2検定にて検討した。
【結果】歩行速度との偏相関係数は,膝伸展筋力r=-0.38,FRT r=-0.33,年齢r=0.25,体重r=-0.19,身長r=0.10であり歩行速度と関連の強かった膝伸展筋力,FRTについて検討を行った。筋力・バランス良好群は,46名で歩行速度6.3±1.1秒,膝伸展筋力0.51±0.11kgf/kg,FRT30.7±4.4cm,年齢71.4±6.6歳であった。この群には1.0m/secの歩行速度を下回る症例はなかった。筋力不良群は,歩行速度7.6±2.1秒,膝伸展筋力0.31±0.04kgf/kg,FRT31.4±3.8cm,年齢72.4±8.0歳であり,31例中4例(13%)が1.0m/secの歩行速度を下回っていた。バランス不良群は,歩行速度8.5±2.3秒,膝伸展筋力0.45±0.10kgf/kg,FRT20.1±3.5cm,年齢76.9±6.9歳で,29例中6例(21%)が1.0m/secの歩行速度を下回っていた。筋力・バランス不良群は,歩行速度9.9±2.9秒,膝伸展筋力0.28±0.06kgf/kg,FRT20.1±3.5cm,年齢76.9±6.9歳で32例中13例(41%)が1.0m/secの歩行速度を下回っていた。各群間の歩行速度を一元配置分散分析で処理した結果,有意差が見られた。(p<0.01)また,年齢にも有意差が見られた(p<0.05)。歩行速度が1.0m/secを下回る対象者の割合についても群間で有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】筋力と立位バランスともに良好な胸・腰椎疾患患者は1.0m/sec以上の歩行速度を有していた。一方,筋力と立位バランスともに不良な胸・腰椎疾患患者では41%の症例が1.0m/secの歩行速度を下回った,この結果から,虚弱高齢者と同様に胸・腰椎疾患患者においても,下肢筋力と立位バランスの2つの変量を用いることで歩行能力低下の原因分析がより正確に行えるものと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果から,胸・腰椎疾患患者においても,歩行速度を規定する要因が,膝伸展筋力とFRTの水準によって予測されうることが示された。今回の結果,胸・腰椎疾患患者における歩行速度の低下原因を考察するうえでの基礎的データとして活用できる。