第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

体幹・歩行・その他

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0972] 栄養状態が歩行能力,日常生活自立度に与える影響

―回復期リハビリテーション病棟の大腿骨近位部骨折患者において―

渡辺知宏, 箕輪都志美, 飯塚ひとみ (なめがた地域総合病院リハビリテーション部)

Keywords:栄養状態, 歩行, 日常生活

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折は理学療法の主要な対象疾患であり,退院時の歩行能力に影響を与える要因として,下肢筋力,受傷前歩行能力,術前待機日数,年齢や認知機能などが挙げられている。また,近年では栄養状態と歩行能力についての報告がされており,リハビリテーションと栄養の関係に関心が高まってきている。当院においても明らかにやせており低栄養状態のために,十分な運動療法を行うことが出来ない症例がみられる。そこで,当院回復期リハビリテーション病棟における術後の大腿骨近位部骨折患者の栄養状態と歩行の関係を明らかにすることを目的に調査を行った。さらに,栄養状態と日常生活自立度との関係について報告が少ないので,同様に調査を行った。
【方法】
対象は2013年6月から2014年9月までに当院回復期病棟に入院した大腿骨近位部骨折の患者54名のうち後期高齢者である75歳以上,さらに脳血管疾患,視覚障害など歩行に影響を与える疾患を有する者を除外した39名(男8名,女31名)とした。術法はr-nail23名,人工骨頭11名,ハンソンピン2名,CHS2名,人工股関節1名である。退院時の歩行状態を自立群25名(年齢84.3±5.9歳),介助群14名(年齢89.4±3.9歳)に分類し,血清アルブミン(以下Alb)値(術前,術後3週±1週,7週±1週)と回復期病棟入院時のBMIを用いて比較した。なお,Alb値は当院急性期病棟から転棟群と他院からの転院群が混在するため,各期(術前,術後3週±1週,7週±1週)における人数は異なる。歩行自立の定義は古庄らの先行研究を参考に「歩行補助具の使用は制限せずに安全に50m以上歩行可能」とし,各セラピストが見守りまたは介助を必要とすると判断した場合は介助群とした。また,対象の39名の退院時のMoter-FIMと栄養状態(Alb値,BMI)の関係についても調査した。なお,統計には対応のないT検定,ピアソンの相関係数を用いた。
【結果】
歩行自立群と介助群におけるAlb値(g/dl)は術前で自立3.5±0.4介助3.4±0.5,術後3週±1週で自立3.2±0.5介助2.8±0.4,術後7週±1週で自立3.6±0.3介助3.3±0.5,入院時BMIは自立21.0±3.0介助18.7±2.1であった。自立群と介助群の術前Alb値に有意差は認められなかった。術後3週±1週のAlb値(p<0.01),術後7週±1週のAlb値(p<0.05),入院時BMI(p<0.05)は歩行介助群で有意に低値を示した。退院時Moter-FIMと栄養状態の相関は術前のAlb値はr=0.06,術後3週±1週のAlb値はr=0.32,術後7週±1週のAlb値はr=0.18,BMIはr=0.31で術後3週±1週のAlb値,BMIに関しては弱い相関を示したが,どの値も有意差は認められなかった。
【考察】
今回の調査から,術後約3週間のAlb値が術後の大腿骨近位部骨折患者の歩行自立を獲得する一要因となる可能性が示された。また,術前Alb値では,自立群と介助群に有意差が認められなかったことから歩行自立には食事の摂取状況,体重の増減など栄養状態を考慮した術後の運動療法が必要ではないかと考えられる。特に,術後は侵襲により筋蛋白の分解が起こるためレジスタンストレーニングを行う場合はAlb,CRPなどの値に注意しながら行う必要がある。ただ,Alb値はリアルタイムな栄養評価が難しいこと,炎症にも反応すると言われており,Alb値だけでなく,その他血液生化学所見,身体計測などから多角的に栄養状態を評価するべきと考えられる。また,歩行自立群,介助群ともに術前のAlb値が基準値より低値であった。このことは術前より低栄養状態の高齢者が多く,それに伴う筋力低下,体力低下などが受傷の一要因になった可能性も考えられる。BMIに関して,低値でいわゆる「やせ」の症例では,エネルギー不足の状態での運動が筋力低下,疲労につながり歩行自立の妨げとなっている可能性がある。また,日常生活との関係では,栄養状態と日常生活自立度の相関は弱いとの結果になり,認知面,元々の日常生活レベル,年齢などその他の要因との関係性が強いのではないかと考えられ,今後検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果より術後の栄養状態が歩行自立の一要因と考えられ,理学療法を行ううえで栄養状態を評価し,適切な運動療法を提供する必要がある。また,栄養状態を歩行の予後予測の一つの指標として用いることの出来る可能性が示された。