第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

アライメント・その他

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0979] 円背進行により日常生活に支障を来した症例に対する4ヶ月間の外来理学療法の経験

松本将輝, 斉藤繁幸 (社会医療法人製鉄記念室蘭病院リハビリテーション部)

Keywords:円背, 保存療法, ADL

【はじめに,目的】
円背(脊柱後弯)についての先行研究では,身体機能やADL,QOLに影響するとされ,ADL困難感に関する調査報告では,円背者は非円背者と比較し,長時間の座位,歩行に困難を感じていると報告されている。老化による姿勢変化として最も多いものは円背であり,日常生活の支障となることが考えられる。しかし,ADLが低下した円背者に対する運動療法は十分に確立されていない。高齢者の背筋筋力と最大10m歩行時間には相関があると言われ,円背者では非円背者より背筋筋力が低下していると報告されていることから,円背者に対し背筋運動を実施する事で,歩行能力の向上,活動範囲の拡大に繋がる可能性があると考えた。今回,円背進行により歩行,日常生活に支障を来した症例に対し,4ヶ月間の外来理学療法を経験したので報告する。
【方法】
症例は77歳,女性。1年程前から円背が進行し,主訴は立位・歩行時に腰がだるくなり動くのが辛くなってきたであった。立位全脊柱矢状面画像からSVA(sagittal vertical axis:第7頸椎の垂線から仙骨後壁上縁までの距離)は166.3mmであり,脊柱後弯症と診断された。下肢症状は認めず,ADL・歩行時に歩行補助具は使用していなかった。X年4月より外来理学療法を開始。主訴である日常生活への支障を考慮し,座位での脊柱伸展運動を中心に,腹部引き込み運動とバックブリッジ,体幹ストレッチを実施した。4ヶ月間,週3回の頻度で継続し,加えて上記運動療法の自主トレーニング指導をした。外来理学療法を開始したX年4月(以下,開始時)と,外来理学療法を終了するにあたり最終評価を実施したX年8月(以下,終了時)で,身体機能とADLについて評価した。身体機能は,体幹筋力,最大10m歩行時間,疼痛(以下,VAS)を計測,体幹伸展動作(prone press up test),座位姿勢を観察した。体幹筋力には徒手筋力計(徒手筋力計モービィMT-100;酒井医療社製)を用い,計測方法は背筋・腹筋共に先行文献と同様の座位とした。ADL評価にはOswestry Disability Index(以下,ODI)を用い,10項目の総スコアであるODI score(%)と,各項目を0~5点の6段階で表すsub scoreを評価した。
【結果】
開始時と終了時の身体機能は,背筋は83.4Nから161.4N,腹筋は57.9Nから78.1Nとなった。最大10m歩行時間は11.40秒から7.50秒,VASは25mmから9mmとなった。prone press up testでは開始時に疼痛のため動作が困難であったが,最終時は腹臥位での体幹伸展動作が可能となり,座位姿勢は上肢支持から上肢非支持となった。ODIは,sub scoreの「歩くこと」,「社会生活」,「乗り物での移動」では点数が改善し,「座ること」,「立っていること」で点数が低下した。ODI scoreは33%から35.5%となり改善を認めなかった。
【考察】
背筋運動に関して,腹臥位での上体起こしを運動方法とする報告が多いが,中川らは座位での脊柱伸展運動は円背姿勢の改善に有効であり,簡便に行える運動方法の一つと報告している。また,高齢者の歩行時の脊柱起立筋活動パターンは,若年者同様に立脚初期と立脚後期にピークを迎えると言われている。背筋筋力は体幹屈曲姿勢である円背に影響を及ぼすとされており,本症例の背筋筋力向上は,主訴を考慮して行った座位での脊柱伸展運動が影響した可能性がある。体幹筋力は体幹側屈や回旋,骨盤傾斜や側方移動への制動力としても作用することから,下肢が地面に接地する立脚初期と,振り出しを行う前の立脚後期に体幹が安定したと考える。また,疼痛の改善は,体幹の安定性向上や胸腰筋膜と脊柱起立筋のストレッチにより,立位や歩行時の筋内圧上昇が軽減したと推察される。背筋筋力の向上と疼痛軽減が歩行速度向上に関与した可能性が示唆された。ODIのsub scoreである「歩くこと」,「社会生活」,「乗り物での移動」では,開始時の生活範囲は自宅内に限られていたが,歩行能力の改善により,最終時には外出機会の増加と外出時間の延長が生活範囲の拡大に繋がったと考える。また,sub scoreの「座ること」,「立っていること」,ODI scoreで最終時に低下を認めた。本症例の座位の捉え方が楽に行う座位から運動療法としての座位へと変化し,全身活動の増加に伴う疲労感の出現が影響したと推察される。今後は背筋持久力や脊柱アライメントの評価を加え,検証を継続する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
十分な保存的運動療法が確立されていない円背症例に対して,座位での脊柱伸展運動を中心とした理学療法が背筋筋力向上に寄与し,歩行能力改善と活動範囲拡大に繋がる可能性があると考える。