第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人工膝関節

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0986] 人工膝関節全置換術術前後の伸展関節可動域の推移

緒方健一, 高山正伸, 幟川奈々 (杉岡記念病院)

Keywords:人工膝関節全置換術, 関節可動域, X線画像

【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術術前後の伸展関節可動域の経過を追ったものは散見されるが,屈曲拘縮や過伸展を残すものに分類し詳細に観察したものは少ない。また,その計測方法はゴニオメータを使用したものが多く単純X線画像が用いられたものはほとんどみられない。松浦らによると膝関節伸展関節可動域測定のゴニオメータでの計測では測定誤差が大きな症例が存在し,その要因として軟部組織の関与を示唆しており,変化量の小さな膝関節伸展関節可動域測定には単純X線画像を用いることが望ましいと思われる。本研究の目的は,人工膝関節全置換術術前後の伸展関節可動域の経過を屈曲拘縮や過伸展を残すものに分類し,単純X線画像を利用しその特徴を捉えることである。

【方法】
対象は2012年1月から2013年10月まで当院にて人工膝関節全置換術を施行し経過観察可能であった67例(男性11例 女性56例)68膝(片側66膝 両側1膝),平均年齢73.5±5.9歳であった。診断名は変形性膝関節症59例,骨壊死6例,関節リウマチ2例,多発性骨端異形成症1例で,使用された機種はstryker社製Scorpio NRG PS型66膝,ナカシマメディカル社製FINE Total Knee System PS型2膝であった。対象を術後1年の伸展関節可動域から標準群(-5≦x≦5)37膝,過伸展群(x>5)16膝,拘縮群(x<-5)15膝の3群に分け,術前(0),術直後(1),術後3ヶ月(3),術後6ヶ月(6),術後1年(12)に伸展関節可動域を計測した。その計測は診療放射線技師によって撮影された単純X線画像が利用され1人の計測者によって行われた。撮影方法は仰臥位で患側足関節を台にのせ下肢全体が床から浮いた状態で側面より撮影された。統計解析手法はTukey-Kramer法を使用し有意水準を5%未満とした。
【結果】
伸展関節可動域の平均は時系列順に全対象群:-3.08±6.22,-7.19±4.93,-3.83±6.96,-1.50±7.13,-0.56±7.52,標準群:-2.18±4.39,-7.55±3.60,-2.57±2.88,-0.42±2.74,0.20±2.41,過伸展群:-0.02±4.94,-4.07±5.58,2.43±3.32,5.46±3.02,7.76±2.58,拘縮群:-8.55±6.81,-9.60±6.96,-13.62±8.90,-11.57±8.16,-11.32±7.42であった。術直後の伸展関節可動域は拘縮群を除きすべての群で術前より有意に低下した(全対象群:p=0.003,標準群:p<0.001,過伸展群:p=0.046,拘縮群:p=0.993)。全対象群において術直後より術後3ヶ月まで有意に改善し(0-1:p=0.003,1-3:p=0.027,3-6:p=0.239,6-12:p=0.923),術後3ヶ月より術後1年まで緩やかに改善した(3-12:p=0.033)。標準群においては術直後より少なくとも術後6ヶ月まで有意に改善した(0-1:p<0.001,1-3:p<0.001,3-6:p=0.042,6-12:p=0.925)。過伸展群においては術直後より術後3ヶ月まで有意に改善し(0-1:p=0.046,1-3:p<0.001,3-6:p=0.223,6-12:p=0.503),術後3ヶ月以降術後1年まで伸展可動域は増加した(3-12:p=0.003)。拘縮群においては全期間を通して術後の伸展関節可動域は術前,術直後のそれより悪化する傾向にあったが有意差はみられなかった。3群比較では拘縮群は有意に他2群より術前伸展制限が大きく(拘縮群-標準群:p<0.001,拘縮群-過伸展群:p<0.001),過伸展群は有意に他2群より術直後の伸展関節可動域がよかった(過伸展群-標準群:p=0.036,過伸展群-拘縮群:p=0.003)。術後3ヶ月以降3群間それぞれに有意差がみられた(p<0.001)。
【考察】
伸展関節可動域は標準群で少なくとも術後6ヶ月は改善することがわかった。過伸展群においては明らかではないものの伸展関節可動域の増加傾向が継続した。過伸展によるポリエチレンの摩耗が危惧されるため術後1年以降も注視が必要であると思われる。また,術直後から伸展関節可動域がよい場合は過伸展となる可能性がありその予防に留意した治療が必要であると思われる。拘縮群においては術前伸展制限が他群より強くみられ術前の関節可動域を改善しておくことが重要であり,また術後伸展関節可動域は術前,術直後のそれより悪化する傾向にあったため術後も積極的な伸展関節可動域練習が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
人工膝関節全置換術術前後の伸展関節可動域推移から回復期間や傾向を明確にすることで,屈曲拘縮や過伸展を予防するための理学療法を検討,施行することができる。