[P3-B-0989] 人工膝関節全置換術後患者に対する姿勢制御能力と神経筋協調トレーニング効果について
Keywords:人工膝関節全置換術, 姿勢制御能力, 神経筋協調トレーニング
【はじめに】人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty;TKA)では,手術による関節内外受容器への直接的侵襲やアライメント変化が起こり,これが固有受容器の機能を低下させ,立位での姿勢制御能力に影響を及ぼすと予測される。健常者や変形性膝関節症患者において,神経筋協調トレーニングによる固有感覚の改善が報告されているが,TKA術後早期の患者における姿勢制御能力や,視覚的フィードバックを用いた神経筋協調トレーニングの効果については明らかになっていない。本研究では,TKA術前後の姿勢制御能力の経時的変化を把握すること,姿勢制御能力に関係する要因を明らかにすること,視覚的フィードバックを用いた神経筋協調トレーニングによる姿勢制御能力や運動機能の改善効果について明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者は,TKAを施行した30名(75.4±7.18歳)とし,連続した16名をコントロール群,次の連続した14名を神経筋協調トレーニング群(介入群)とし2群に分け比較検討した。姿勢制御能力の評価には,ディジョックボード・プラスSV-200(ver.2.0)(酒井医療社製)の計測機能を用い,不安定板の動きを前後,左右方向に限定して測定を行った。対象者には,1m前方の指標をみながら,立位で不安定板を水平位に20秒間保持するように指示した。計測は2回行い,安定指数,角度変動域の各左右,前後の平均を求めた。安定指数は水平を基準とした変動を,角度変動域は左右または前後方向における角度範囲を示すが,これらの値が高いほど姿勢制御能力が低いとされる。また,運動機能の評価として,日本語版膝機能評価法(準WOMAC)の「疼痛」と「機能」,Timed up and Go test(TUG),10m歩行テスト,膝伸展筋力(体重比)を測定した。評価時期は,姿勢制御能力の計測は術前,術後1週,4週に,運動機能の評価は術前と術後4週に行った。神経筋協調トレーニングは,椅子座位で不安定板に両足部を置き,板を傾斜させることにより,前方に設置したモニター内に表示されるターゲットへマーカーを移動させる60秒間のゲームを3セット,術後1週目より開始し,週に3日,通常の理学療法に加えて行った。統計解析は,姿勢制御能力の経時的変化には反復測定分散分析(事後検定Bonferroni法)を,術後4週の姿勢制御能力と各測定値との関係にはPearsonの相関係数を,術後4週から術前の値を引いた値を改善度とし対応のないt検定を用い2群で比較した。統計解析には,SPSSver.21.0を用い有意水準は5%とした。
【結果】姿勢制御能力のうち左右安定指数は,術前は4.5±1.0,術後1週は5.1±1.1,術後4週は4.3±1.0であり,術後1週は,術前と術後4週と比べ有意に高値を示した。左右角度変動域は,術前は3.2±1.1,術後1週は3.3±1.0,術後4週は2.7±0.9であり,術後4週は,術前と術後1週に比べ有意に低値を示した。前後安定指数と前後角度変動域には,有意差は認められなかった。また,術後4週での左右安定指数とTUGの間で,前後安定指数と筋力の間で有意な相関が認められたが,角度変動域に相関は認められなかった。改善度の群間比較では全ての項目で有意差が認められなかった。
【考察】結果より,左右方向の姿勢制御能力は,術前と比較して術後1週で低下し,術後4週で回復することが示された。一方,前後方向の姿勢制御能力は術前後で有意差は認められなかった。また,術後,左右方向の姿勢制御能力はTUGと関係があり,前後方向では膝伸展筋力と関係があることが明らかになった。神経筋協調トレーニングにより固有感覚が改善すると報告されており,術後早期に行うことにより姿勢制御能力や身体機能の改善速度が早くなると考えたが,本研究では介入による改善効果は認められなかった。これは,トレーニングを座位で行ったことや介入期間やトレーニング時間が短かったことが原因の一つと考えられる。固有感覚の低下は関節の不安定性に繋がり,異常歩行の大きな要因となる。人工関節を保護し傷害を予防するためにも,姿勢制御能力を術後早期に改善させる必要がある。今後は,姿勢制御能力を改善させるトレーニング法の再検討を行い,長期的に姿勢制御能力を評価していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者において,神経筋協調トレーニングの効果は明らかにならなかったが,左右方向の姿勢制御能力は術後4週で回復すること,また姿勢制御能力は,左右方向,前後方向によって関連要因が異なることが明らかになり,TKA術後の理学療法の一助になると考えられる。
【方法】対象者は,TKAを施行した30名(75.4±7.18歳)とし,連続した16名をコントロール群,次の連続した14名を神経筋協調トレーニング群(介入群)とし2群に分け比較検討した。姿勢制御能力の評価には,ディジョックボード・プラスSV-200(ver.2.0)(酒井医療社製)の計測機能を用い,不安定板の動きを前後,左右方向に限定して測定を行った。対象者には,1m前方の指標をみながら,立位で不安定板を水平位に20秒間保持するように指示した。計測は2回行い,安定指数,角度変動域の各左右,前後の平均を求めた。安定指数は水平を基準とした変動を,角度変動域は左右または前後方向における角度範囲を示すが,これらの値が高いほど姿勢制御能力が低いとされる。また,運動機能の評価として,日本語版膝機能評価法(準WOMAC)の「疼痛」と「機能」,Timed up and Go test(TUG),10m歩行テスト,膝伸展筋力(体重比)を測定した。評価時期は,姿勢制御能力の計測は術前,術後1週,4週に,運動機能の評価は術前と術後4週に行った。神経筋協調トレーニングは,椅子座位で不安定板に両足部を置き,板を傾斜させることにより,前方に設置したモニター内に表示されるターゲットへマーカーを移動させる60秒間のゲームを3セット,術後1週目より開始し,週に3日,通常の理学療法に加えて行った。統計解析は,姿勢制御能力の経時的変化には反復測定分散分析(事後検定Bonferroni法)を,術後4週の姿勢制御能力と各測定値との関係にはPearsonの相関係数を,術後4週から術前の値を引いた値を改善度とし対応のないt検定を用い2群で比較した。統計解析には,SPSSver.21.0を用い有意水準は5%とした。
【結果】姿勢制御能力のうち左右安定指数は,術前は4.5±1.0,術後1週は5.1±1.1,術後4週は4.3±1.0であり,術後1週は,術前と術後4週と比べ有意に高値を示した。左右角度変動域は,術前は3.2±1.1,術後1週は3.3±1.0,術後4週は2.7±0.9であり,術後4週は,術前と術後1週に比べ有意に低値を示した。前後安定指数と前後角度変動域には,有意差は認められなかった。また,術後4週での左右安定指数とTUGの間で,前後安定指数と筋力の間で有意な相関が認められたが,角度変動域に相関は認められなかった。改善度の群間比較では全ての項目で有意差が認められなかった。
【考察】結果より,左右方向の姿勢制御能力は,術前と比較して術後1週で低下し,術後4週で回復することが示された。一方,前後方向の姿勢制御能力は術前後で有意差は認められなかった。また,術後,左右方向の姿勢制御能力はTUGと関係があり,前後方向では膝伸展筋力と関係があることが明らかになった。神経筋協調トレーニングにより固有感覚が改善すると報告されており,術後早期に行うことにより姿勢制御能力や身体機能の改善速度が早くなると考えたが,本研究では介入による改善効果は認められなかった。これは,トレーニングを座位で行ったことや介入期間やトレーニング時間が短かったことが原因の一つと考えられる。固有感覚の低下は関節の不安定性に繋がり,異常歩行の大きな要因となる。人工関節を保護し傷害を予防するためにも,姿勢制御能力を術後早期に改善させる必要がある。今後は,姿勢制御能力を改善させるトレーニング法の再検討を行い,長期的に姿勢制御能力を評価していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者において,神経筋協調トレーニングの効果は明らかにならなかったが,左右方向の姿勢制御能力は術後4週で回復すること,また姿勢制御能力は,左右方向,前後方向によって関連要因が異なることが明らかになり,TKA術後の理学療法の一助になると考えられる。