第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

人工膝関節

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-0992] 高位脛骨骨切り術と人工膝関節全置換術の術前後成績推移の比較および関連する因子の検討

Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)を使用して

近藤淳, 永塚信代, 糟谷紗織, 雲谷夏美, 井上宜充 (地域医療振興協会横須賀市立市民病院リハビリテーション療法科)

Keywords:高位脛骨骨切り術, 人工膝関節全置換術, 変形性膝関節症

【はじめに,目的】変形性膝関節症患者の外科的治療法に内側開大高位脛骨骨切り術(HTO)や人工膝関節全置換術(TKA)がある。今回,両者の術後特性を明らかにするため,術式内・術式間の術前から術後6ヶ月までの成績推移を比較検討し,術後6ヶ月成績と関連のある因子の調査を行い術後の予後予測やリハビリテーションの一助にしたいと考えた。
【方法】対象は当院にて片側HTOを施行された78例(男性19例,女性59例。年齢66.4±7.5歳),片側TKAを施行された51例(男性12名,女性39名。年齢74.2±5.4歳)とした。両術式共,術翌日より可及的全荷重開始した。成績評価としてKnee injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)でアンケート調査した。KOOSは患者立脚型膝評価で5段階評価の全42問構成,合計と各下位尺度において各々百分率で得点算出され,高いほど良好となる。合計(Total)と症状(S)・痛み(P)・日常生活(A)・スポーツレクリエーション活動(SP)・生活の質(Q)の各下位尺度を使用し,全て術前・術後1・3・6ヶ月で調査した。
(1)術式内の成績推移:KOOSの術式内経時的変化は,各期の得点を多重比較検定(Bonferroni法)で調査した。2)術式間の成績推移比較:各術式の術前状態の違いを考慮し,KOOS各得点の術後各期の術前差を算出し,その両術式の差をMann-WhitneyのU検定で比較した。(3)術式内の術後6ヶ月成績と関連のある因子:関連調査因子として年齢・BMI・ROM・筋力を採用した。ROMは日本整形外科学会の方法で膝伸展・屈曲を測定した。筋力はHand-held dynamometer(μTas F-1)を使用し,端座位での等尺性膝伸展屈曲筋力を測定し筋力体重比を算出した。全て術後6ヶ月で測定した。術後6ヶ月におけるTotalと年齢・身長・体重・BMI・ROM・筋力との関連をSpearmanの順位相関係数で検討した。
【結果】術前/術後1/3/6ヶ月の順で記載したKOOS得点の中央値は以下の通り。HTOのTotalは58.9/57.4/66.1/76.2,Sは64.3/64.3/75.0/78.6,Pは56.9/61.1/69.4/80.6,Aは69.1/69.1/77.9/84.6,SPは40.0/25.0/42.5/55.0,Qは31.3/37.5/43.8/62.5であった。TKAのTotalは48.2/56.0/67.3/70.8,Sは53.6/67.9/71.4/78.6,Pは44.4/55.6/75.0/75.0,Aは58.8/66.2/77.9/79.4,SPは20.0/15.0/30.0/45.0,Qは25.0/43.8/43.8/50.0であった。術後6ヶ月因子の中央値は以下の通り。HTOの年齢は67.5歳,身長は155.1cm,体重は60kg,BMIは24.6,伸展ROMは0°,屈曲ROMは140°,伸展筋力は3.1N/kg,屈曲筋力は1.0N/kgであった。TKAの年齢は74歳,身長は153cm,体重は59kg,BMIは25,伸展ROMは0°,屈曲ROMは115°,伸展筋力は2.8 N/kg,屈曲筋力は0.8 N/kgであった。
(1)術式内の成績推移に関して,HTOは全てのKOOS得点において術前と術後6ヶ月間で有意に改善していた。術前と術後1ヶ月で有意に改善している項目は無かった。術後3ヶ月と6ヶ月の間でP(p<0.01)とTotal(p<0.05)は有意に改善していた。TKAは全てのKOOS得点において術前と術後6ヶ月間で有意に改善していた(p<0.01)。術前と術後1ヶ月で有意に改善している項目は無かった。術後3ヶ月と6ヶ月の間では全項目で有意差は無かった。
(2)術式間におけるKOOS術前差の比較では,術後1ヶ月ではQ以外の全ての項目でHTOよりTKAが有意に改善していた。術後3ヶ月ではTotal・P・AでHTOよりTKAが有意に改善していた。術後6ヶ月では両術式に改善の差は無かった。
(3)HTOで術後6ヶ月Totalと関連があった因子は伸展ROM(r:0.49)・屈曲ROM(r:0.38)・伸展筋力(r:0.3)・屈曲筋力(r:0.24)であった。TKAで術後6ヶ月Totalと関連があった因子は伸展ROM(r:0.34)・屈曲筋力(r:0.35)であった。
【考察】HTOとTKAの術後成績は急性期ではTKAが勝るものの,術後6ヶ月では両術式間の改善に差が無いことが示唆された。先行文献によればHTO術後6ヶ月で全例脛骨外側が骨癒合したとされ,骨癒合の要因が成績の差に反映していると考えた。HTO後の疼痛に関しては術後3ヶ月以降にも改善することが示唆されたため,それらを考慮した予後予測が必要と考えた。総合的な成績の観点から見ると,HTO術後は伸展屈曲ROMと伸展屈曲筋力,TKA術後は伸展ROMと屈曲筋力が重要であることが示唆された。中でもHTOの伸展ROMの相関のみ中程度の強さがあり,特に重要な因子であると考えた。
【理学療法研究としての意義】TKAに比べHTOは術後KOOSの改善が遅れるが,術後6ヶ月で差が無くなること,特にHTOの疼痛に関しては術後3ヶ月以降の改善を予後予測として考慮すべきである。術後リハビリテーションに関してはHTOの伸展屈曲ROMと伸展屈曲筋力,TKAの伸展ROMと屈曲筋力,中でもHTOの伸展ROMを重要視すべきであると示唆された。