[P3-B-0995] 前十字靭帯再建術後における装具選択についての検討
キーワード:前十字靱帯再建術後, 装具療法, 装具比較
【目的】
当院では前十字靭帯再建術後(以下,ACL再建術後)の後療法として硬性装具を使用している。臨床で装具が所定の位置よりも下がっている場面を多々見かける。装具が下がることにより膝屈曲位で脛骨前方ベルト部分に隙間ができる。現在,当院ではDONJOY(シグマックス)とBREG X2K(シラック・ジャパン)(以下,BREG)の2種類を採用している。どちらの装具を採用するかは主治医の意向により決定されている。DONJOYは構造上膝のアライメントに合わせて形状を調整することはできない。BREGは上下端のフレームと調節ヒンジにより適合性を向上させることができる。我々が渉猟した限りではこれら2つの装具を比較した研究はない。本研究の目的は,装具ずれに着目しどちらの装具が優れているかを検討することである。
【方法】
対象は膝に疾患を有さない健常者21名(男性:13名,女性:8名)とした。硬性装具はDONJOYとBREGを使用し,どちらの装具も同一検者が同側膝の所定位置に装着した。装着直後,大腿部にマーキングをし,運動課題として快適速度で階段を5往復した後に装具が下がった距離(以下,ずれ幅)を測定した。被検者には運動中,装具が下がってもそれを治さないよう指示をした。また膝アライメントとずれ幅に関係があるかを検討するために,両足を揃えて起立し両内側上顆部間の距離を検者の横指で測定した。(以下,膝横指距離)統計処理はStatView-J5.0を使用した。両装具のずれの比較は対応のあるt検定を用いた。また,装具ずれ幅と膝横指距離の関係をSpearmanの順位相関にて検討した。有意水準は0.05未満とした。
【結果】
運動後のDONJOYのずれ幅は平均19.0±7.8mm,BREGのそれは平均13.3±7.3mmであり,2つの装具間に有意差が認められた。(p=0.0363)。ずれ幅の平均(DONJOY/BREG)はそれぞれ0横指群(4例)16.8±10.9/10.5±11.1mm,1横指群(1例)6.0/17.0mm,1.5横指群(3例)14.7±5.0/19.3±5.0mm,2横指群(3例)19.7±5.0/11.0±7.0mm,2.5横指群(1例)18.0/9.0mm,3横指群(3例)25.7±7.4/14.7±2.5mm,4横指群(4例)20.0±6.8/9.8±7.6mm,5横指群(2例)24.0±8.5/24.0±1.4mmであった。DONJOYずれ幅と膝横指距離との相関係数は0.354(p=0.11),BREGのそれは0.022(p=0.92)であった。
【考察】
当院において,装具は術直後から術後2~3カ月は全例装具を使用している。サイズは術前に採形し個人に合ったものを用いている。装着の際は装具との摩擦を大きくするためにストッキング等を履き,ベルトをきつく締めるがやはり装具が下がることは否めない。また術後経過とともに,筋萎縮により周径が術前よりも小さくなっていき更に装具は下がりやすくなる。本来,硬性装具は再建靭帯の保護を目的として装着するが,装具の位置が下がることによって悪影響を及ぼすことが危惧される。下がった位置で膝を屈曲すると脛骨前方ベルト部分に隙間ができ,後方ベルトによって脛骨を前方へ押し出す力が働く。従ってより下がらない装具が望ましい。今回の結果はDONJOYとBREGのずれ幅に有意差を認め,BREGの方がより装具のずれが少なかった。BREGはフレームの一部とヒンジを調節することによって適合性を向上させることができるが,DONJOYはフレームの修正が困難なため,サイズやアライメントが合う一部の対象にしか適合しない。そのためDONJOYの方がずれ幅が大きくなったと考えられる。DONJOYのずれ幅は内反が強い程大きくなる傾向があったが統計学的有意は見出せなかった。しかし関係がないと結論づけるにはサンプル数が少なく今後更なる検討が必要である。膝アライメントだけでなく脚の太さも装具のずれに関係している可能性があり検討すべき課題である。さらにDONJOYとBREGのずれ幅の差6mmがどれ程の臨床的意義があるか実際に圧を計測する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後,装具を選択する場合はBREGを選択したほうが装具のずれを小さくできる。ずれの少ない装具を使用することで再建靭帯へ悪影響を及ぼす危険性も低くなると思われる。
当院では前十字靭帯再建術後(以下,ACL再建術後)の後療法として硬性装具を使用している。臨床で装具が所定の位置よりも下がっている場面を多々見かける。装具が下がることにより膝屈曲位で脛骨前方ベルト部分に隙間ができる。現在,当院ではDONJOY(シグマックス)とBREG X2K(シラック・ジャパン)(以下,BREG)の2種類を採用している。どちらの装具を採用するかは主治医の意向により決定されている。DONJOYは構造上膝のアライメントに合わせて形状を調整することはできない。BREGは上下端のフレームと調節ヒンジにより適合性を向上させることができる。我々が渉猟した限りではこれら2つの装具を比較した研究はない。本研究の目的は,装具ずれに着目しどちらの装具が優れているかを検討することである。
【方法】
対象は膝に疾患を有さない健常者21名(男性:13名,女性:8名)とした。硬性装具はDONJOYとBREGを使用し,どちらの装具も同一検者が同側膝の所定位置に装着した。装着直後,大腿部にマーキングをし,運動課題として快適速度で階段を5往復した後に装具が下がった距離(以下,ずれ幅)を測定した。被検者には運動中,装具が下がってもそれを治さないよう指示をした。また膝アライメントとずれ幅に関係があるかを検討するために,両足を揃えて起立し両内側上顆部間の距離を検者の横指で測定した。(以下,膝横指距離)統計処理はStatView-J5.0を使用した。両装具のずれの比較は対応のあるt検定を用いた。また,装具ずれ幅と膝横指距離の関係をSpearmanの順位相関にて検討した。有意水準は0.05未満とした。
【結果】
運動後のDONJOYのずれ幅は平均19.0±7.8mm,BREGのそれは平均13.3±7.3mmであり,2つの装具間に有意差が認められた。(p=0.0363)。ずれ幅の平均(DONJOY/BREG)はそれぞれ0横指群(4例)16.8±10.9/10.5±11.1mm,1横指群(1例)6.0/17.0mm,1.5横指群(3例)14.7±5.0/19.3±5.0mm,2横指群(3例)19.7±5.0/11.0±7.0mm,2.5横指群(1例)18.0/9.0mm,3横指群(3例)25.7±7.4/14.7±2.5mm,4横指群(4例)20.0±6.8/9.8±7.6mm,5横指群(2例)24.0±8.5/24.0±1.4mmであった。DONJOYずれ幅と膝横指距離との相関係数は0.354(p=0.11),BREGのそれは0.022(p=0.92)であった。
【考察】
当院において,装具は術直後から術後2~3カ月は全例装具を使用している。サイズは術前に採形し個人に合ったものを用いている。装着の際は装具との摩擦を大きくするためにストッキング等を履き,ベルトをきつく締めるがやはり装具が下がることは否めない。また術後経過とともに,筋萎縮により周径が術前よりも小さくなっていき更に装具は下がりやすくなる。本来,硬性装具は再建靭帯の保護を目的として装着するが,装具の位置が下がることによって悪影響を及ぼすことが危惧される。下がった位置で膝を屈曲すると脛骨前方ベルト部分に隙間ができ,後方ベルトによって脛骨を前方へ押し出す力が働く。従ってより下がらない装具が望ましい。今回の結果はDONJOYとBREGのずれ幅に有意差を認め,BREGの方がより装具のずれが少なかった。BREGはフレームの一部とヒンジを調節することによって適合性を向上させることができるが,DONJOYはフレームの修正が困難なため,サイズやアライメントが合う一部の対象にしか適合しない。そのためDONJOYの方がずれ幅が大きくなったと考えられる。DONJOYのずれ幅は内反が強い程大きくなる傾向があったが統計学的有意は見出せなかった。しかし関係がないと結論づけるにはサンプル数が少なく今後更なる検討が必要である。膝アライメントだけでなく脚の太さも装具のずれに関係している可能性があり検討すべき課題である。さらにDONJOYとBREGのずれ幅の差6mmがどれ程の臨床的意義があるか実際に圧を計測する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後,装具を選択する場合はBREGを選択したほうが装具のずれを小さくできる。ずれの少ない装具を使用することで再建靭帯へ悪影響を及ぼす危険性も低くなると思われる。