[P3-B-0998] 両膝関節離断の義足歩行練習の経験
~利点と欠点について考える~
キーワード:膝関節離断, 断端歩行, C-Leg
【はじめに】
義足は下肢切断者の機能を代償するものである。近年における義肢学の進歩は著しく,最近ではマイクロコンピュータ制御義足が開発・実用化されている。ただし,下肢切断者が健常人並みの歩行を実現するためには,理学療法が必要不可欠であり,筋力低下,関節モーメントの違いなどから,歩行獲得に難渋する例も少なくない。特に膝関節を温存できなかった大腿切断者,膝関節離断者では,下腿の振り出しを自分の意のままに行う事は,もはや不可能であり,その機能を義足の膝継手に依存せざるを得ないが,それが両側であった場合,歩行獲得は至難を極める。
【目的】
両大腿切断者の義足歩行練習については若干の報告は見受けられるが,両膝関節離断者については,ほとんど皆無である。今回,両膝関節離断となった症例の義足歩行練習を経験したので,膝関節離断の利点と欠点,工夫した点,難渋した点などを,経過とともに考察を加えて報告する。
【症例提示】
30歳代女性。診断名は,蘇生に成功した心停止,両膝関節離断。現病歴は,仕事中(軽作業)に,冠動脈攣縮による心室細動,心筋梗塞を発症し,当院に救急搬送となった。除細動に抵抗性のある心室細動であり,救急搬送中に心停止となったが,当院到着後に経皮的心肺補助装置を挿入され救命された。しかし,6日後に両下肢の血流不全を認め,下腿壊死状態を呈し,両下腿切断術を施行された。その後も壊死拡大を認め,医師,義肢装具士,理学療法士の相談により,両膝関節離断術が選択され,ご本人とご家族の了解を得て,15日後に施行された。
【経過】
理学療法は,介入当初はベッドサイドで,全身状態に配慮しながら,股関節の屈曲拘縮,外転拘縮を予防するため,関節可動域練習,ストレッチング及び良姿位保持に努め,同時に弾性包帯による断端管理を徹底した。義足は,両側ともにマイクロコンピュータ制御義足C-Legを選択し,断端の成熟には約2カ月を要し,仮義足は2カ月半後に完成した。術後4ヶ月で自宅退院され,術後6ヶ月の現在,両ロフストランド杖歩行が監視レベル,独歩が監視~一部介助レベルである。自宅では自走車椅子移動と断端にカバーを装着しての歩行を併用している。
【考察】
C-Legは,ドイツOttoBock社で製品化された単軸膝継手であり,遊脚相と立脚相制御に油圧シリンダーを用いている。1/50秒の間隔でひずみゲージと膝角度センサーが検知したデータを処理し,制御する機構となっており,踵接地期は,最大の油圧抵抗で膝折れを防止し,前足部への荷重が移動するにつれて油圧抵抗が減少し,遊脚相への移行がスムーズに行われ,歩行速度の変化に自動的に追随する。
膝関節離断の最大の利点としては,大腿骨顆部はそもそも荷重部であり,荷重面積が広い事が挙げられる。さらに本症例のように両側例では,下肢長が揃うため,膝立ち位が比較的容易に獲得でき,断端による歩行が可能である。また,大腿骨顆部の膨隆によりソケットの装着がが安定し,懸垂機能を良好に保つ事ができる。
工夫した点として,断端にクッション付きの断端カバーを作製する事で,断端に傷をつくらず断端歩行ができるようにした。
一方,欠点としては,外観の問題があり,膝継手を取り付けるスペースが少なく,下肢が長くなる点である。一般的に,膝関節離断では,大腿切断と比べ,レバーアームが長く義足歩行には有利と考えられているが,本症例のように女性で,筋力が弱い症例では,義足が重くなってしまい不利である。
現在の本症例の問題点は,関節可動域制限はないが,殿筋群,脊柱起立筋,腸腰筋の筋力が不十分であり,歩行時に骨盤前傾及び腰椎が過度の前彎となっている事である。そのため,立脚後期の股関節の伸展が不十分となり,振り出しの際,つま先が引っ掛かり,踵接地が出来ず,前足部へのスムーズな荷重の移動ができない。この現象は,C-Legの利点である踵接地期の膝折れ防止と,遊脚相へのスムーズな移行を活用できなくしている。
今後は,これらの筋の筋力強化を図りながら,荷重練習,バランス練習,歩行練習を継続し,独歩獲得を目指したいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
下肢切断者の歩行能再獲得に我々理学療法士は,大きな一翼を担っていると考える。今回,過去にほとんど報告のない両膝関節離断の義足歩行練習を経験し,その利点と欠点について報告したが,本報告が今後のあらゆる切断患者の義足歩行練習の一助となる事を期待する。
義足は下肢切断者の機能を代償するものである。近年における義肢学の進歩は著しく,最近ではマイクロコンピュータ制御義足が開発・実用化されている。ただし,下肢切断者が健常人並みの歩行を実現するためには,理学療法が必要不可欠であり,筋力低下,関節モーメントの違いなどから,歩行獲得に難渋する例も少なくない。特に膝関節を温存できなかった大腿切断者,膝関節離断者では,下腿の振り出しを自分の意のままに行う事は,もはや不可能であり,その機能を義足の膝継手に依存せざるを得ないが,それが両側であった場合,歩行獲得は至難を極める。
【目的】
両大腿切断者の義足歩行練習については若干の報告は見受けられるが,両膝関節離断者については,ほとんど皆無である。今回,両膝関節離断となった症例の義足歩行練習を経験したので,膝関節離断の利点と欠点,工夫した点,難渋した点などを,経過とともに考察を加えて報告する。
【症例提示】
30歳代女性。診断名は,蘇生に成功した心停止,両膝関節離断。現病歴は,仕事中(軽作業)に,冠動脈攣縮による心室細動,心筋梗塞を発症し,当院に救急搬送となった。除細動に抵抗性のある心室細動であり,救急搬送中に心停止となったが,当院到着後に経皮的心肺補助装置を挿入され救命された。しかし,6日後に両下肢の血流不全を認め,下腿壊死状態を呈し,両下腿切断術を施行された。その後も壊死拡大を認め,医師,義肢装具士,理学療法士の相談により,両膝関節離断術が選択され,ご本人とご家族の了解を得て,15日後に施行された。
【経過】
理学療法は,介入当初はベッドサイドで,全身状態に配慮しながら,股関節の屈曲拘縮,外転拘縮を予防するため,関節可動域練習,ストレッチング及び良姿位保持に努め,同時に弾性包帯による断端管理を徹底した。義足は,両側ともにマイクロコンピュータ制御義足C-Legを選択し,断端の成熟には約2カ月を要し,仮義足は2カ月半後に完成した。術後4ヶ月で自宅退院され,術後6ヶ月の現在,両ロフストランド杖歩行が監視レベル,独歩が監視~一部介助レベルである。自宅では自走車椅子移動と断端にカバーを装着しての歩行を併用している。
【考察】
C-Legは,ドイツOttoBock社で製品化された単軸膝継手であり,遊脚相と立脚相制御に油圧シリンダーを用いている。1/50秒の間隔でひずみゲージと膝角度センサーが検知したデータを処理し,制御する機構となっており,踵接地期は,最大の油圧抵抗で膝折れを防止し,前足部への荷重が移動するにつれて油圧抵抗が減少し,遊脚相への移行がスムーズに行われ,歩行速度の変化に自動的に追随する。
膝関節離断の最大の利点としては,大腿骨顆部はそもそも荷重部であり,荷重面積が広い事が挙げられる。さらに本症例のように両側例では,下肢長が揃うため,膝立ち位が比較的容易に獲得でき,断端による歩行が可能である。また,大腿骨顆部の膨隆によりソケットの装着がが安定し,懸垂機能を良好に保つ事ができる。
工夫した点として,断端にクッション付きの断端カバーを作製する事で,断端に傷をつくらず断端歩行ができるようにした。
一方,欠点としては,外観の問題があり,膝継手を取り付けるスペースが少なく,下肢が長くなる点である。一般的に,膝関節離断では,大腿切断と比べ,レバーアームが長く義足歩行には有利と考えられているが,本症例のように女性で,筋力が弱い症例では,義足が重くなってしまい不利である。
現在の本症例の問題点は,関節可動域制限はないが,殿筋群,脊柱起立筋,腸腰筋の筋力が不十分であり,歩行時に骨盤前傾及び腰椎が過度の前彎となっている事である。そのため,立脚後期の股関節の伸展が不十分となり,振り出しの際,つま先が引っ掛かり,踵接地が出来ず,前足部へのスムーズな荷重の移動ができない。この現象は,C-Legの利点である踵接地期の膝折れ防止と,遊脚相へのスムーズな移行を活用できなくしている。
今後は,これらの筋の筋力強化を図りながら,荷重練習,バランス練習,歩行練習を継続し,独歩獲得を目指したいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
下肢切断者の歩行能再獲得に我々理学療法士は,大きな一翼を担っていると考える。今回,過去にほとんど報告のない両膝関節離断の義足歩行練習を経験し,その利点と欠点について報告したが,本報告が今後のあらゆる切断患者の義足歩行練習の一助となる事を期待する。