第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

股関節・膝関節

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1001] 下部体幹筋の収縮の有無が歩行立脚後期の股関節伸展運動に与える影響

矢状面に着目して

西村圭二1, 南部利明1, 北村淳1, 山﨑敦2, 後藤公志3, 杉本正幸4 (1.市立長浜病院リハビリテーション技術科, 2.文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科, 3.京都大学医学部附属病院整形外科, 4.市立長浜病院整形外科)

Keywords:股関節伸展, 下部体幹筋, 骨盤傾斜角度

【はじめに】変形性股関節症患者の歩行では,立脚中期から後期における股関節伸展を腰椎や骨盤で代償する場合がある。原因として,股関節伸展可動域制限,殿筋筋力低下,下部体幹筋安定性低下などが挙げられる。先行研究において,下部体幹筋収縮の意識により,腹臥位での股関節伸展や歩行立脚期を想定した前方へのステップ動作時の股関節伸展運動軸が解剖学的な運動軸に近づくことを報告した。そこで今回は,歩行を想定した前方へのステップ動作において下部体幹筋収縮の意識の有無による股関節伸展角度,骨盤および体幹傾斜角度変化について検討したので報告する。
【方法】対象は健常成人10名(平均年齢30.0±4.5歳,身長172.0±2.3cm)で,股関節伸展,外転可動域および大殿筋,中殿筋筋力が正常である者とした。計測肢位は,マーカーを大転子頭側,上前腸骨棘,上後腸骨棘,腸骨稜,膝外側関節裂隙,上半身重心位置に付けた矢状面とし,歩行の立脚中期から後期を想定した前方へのステップ動作を立脚側からビデオカメラにて撮影した。この動作を下部体幹筋収縮を意識しない状態と意識した状態で各々実施した。計測前に5回練習した。下部体幹筋収縮は,まず背臥位にて骨盤底筋の収縮を伴う腹横筋と多裂筋の同時収縮を検者が触診にて指導し,さらに立位にて収縮を確認した後,ステップ動作で再現した。同様の計測を変形性股関節症によるTHA3週後(退院時)患者5名にも実施した。撮影動画より矢状面における立脚後期の股関節伸展角度,骨盤傾斜角度,体幹傾斜角度をImage Jにてパソコン上で求め,各々を比較した。計測方法は,股関節伸展は大転子頭側と膝外側関節裂隙を結ぶ線と垂直線とのなす角度,骨盤傾斜は上前腸骨棘と上後腸骨棘とを結ぶ線と水平線とのなす角度,体幹傾斜は上半身重心位置と腸骨稜を結ぶ線と垂直線とのなす角度とした。静止立位における各々の角度も計測し,下部体幹筋収縮意識の有無によるステップ動作時と静止立位時の角度を比較し変化量として算出した。統計処理は対応のあるt検定を用い,危険率5%未満とした。
【結果】骨盤傾斜角度は意識無2.0±1.0°,意識有3.0±1.1°と後傾増加(前傾減少)を認めた(p<0.01)。体幹傾斜角度は意識無0.7±3.8°,意識有0.8±3.1°と伸展が増加し,股関節伸展角度は意識無4.1±2.5°,意識有5.6±3.2°と増加したが有意差はなかった。THA3週後患者でも意識することにより同様の傾向を示したが,角度変化量にはばらつきを認めた。
【考察】歩行立脚期を想定した前方へのステップ動作において,下部体幹筋収縮を意識したことで立脚後期での骨盤前傾が減少し,さらに体幹前傾減少,股関節伸展角度増加傾向を示した。一般的に立脚後期では股関節伸展に伴い骨盤前傾が生じ,見かけ上の股関節過伸展を助長するといわれている。しかし,THA後患者の歩行では,股関節伸展可動域がある程度得られていても,術前の姿勢や歩容の影響を受け,立脚後期の股関節伸展が不十分となり,骨盤の過剰な前傾や後退,腰椎伸展増大などで代償する場合がある。下部体幹筋が収縮すると腹腔内圧が上昇し腰椎の安定化作用が得られることや,頭尾側方向に積極的に体幹を伸展することで腹横筋の活動が高まることが報告されている。したがって,下部体幹筋収縮の意識により健常成人においても骨盤や体幹の動きが軽減し,股関節伸展角度が増加したことから,THA後患者の歩容改善の一助となる可能性が示唆された。THA3週後患者でも同様の傾向を示したが,角度変化量にばらつきを認めたため,下部体幹筋収縮の意識を反復的且つ継続的に実施した上での効果の検討がさらに必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】股関節疾患は不良姿勢を伴うことが多く,手術を施行しても術前の歩行パターンを改善するのに時間を要する。特に変形性股関節症ではTHA後に理学療法を実施し,疼痛や可動域,筋力は改善しても,立脚後期における股関節伸展を腰椎および骨盤にて代償する症例を臨床上経験する。先行研究により,前方へのステップ動作にて,下部体幹筋収縮を意識することで股関節伸展の運動軸が解剖学的運動軸に近づく傾向を示した。これを踏まえ,本研究の結果より下部体幹筋収縮を意識したことで骨盤前傾および体幹前傾減少,股関節伸展増大傾向を認めたことから,代償を抑制した状態で,より股関節を中心とした立脚後期に繋がる可能性が示唆された。股関節機能の改善だけでなく,下部体幹筋の収縮方法も十分に指導し,腰椎および骨盤の安定化を得ることも,歩容改善の一助となるといえる。