第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

大腿骨頚部骨折

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1004] 大腿骨近位部骨折後の退院転帰と術前後栄養状態に関する検討

神戸市急性期病院の多施設共同研究

中馬優樹1, 山添忠史1, 井上達朗2,4, 坂本裕規3,4, 山田真寿美3, 田中利明2 (1.済生会兵庫県病院リハビリテーション科, 2.西神戸医療センターリハビリテーション技術部, 3.神戸市立医療センター中央市民病院リハビリテーション技術部, 4.神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 退院転帰, 多施設共同研究

【はじめに,目的】
近年,サルコペニアやロコモティブシンドロームなど加齢による骨格筋減少と運動機能の関係が注目されるようになってきている。また人口の高齢化に伴い大腿骨近位部骨折患者は増加と高齢化傾向にある。加齢により骨格筋量減少・低栄養・運動機能低下等を伴うと大腿骨近位部骨折後に日常生活動作の改善が乏しく,自宅退院が困難となる症例も稀ではない。これらの背景から今回,術前の栄養状態,術前の筋力/筋量等が術後運動能力改善の経過および大腿骨近位部骨折後の自宅復帰に関連があるのかを検討した。尚,本研究は神戸市内急性期総合病院に勤務する理学療法士が多施設協力システムとデータベースを構築し調査を行った。
【方法】
研究デザインは前向き調査研究であり,第3次救急総合病院1施設,第2次救急総合病院2施設の計3施設で行った。2013年6月から順次調査を開始し,2014年8月30日までに入院した患者を調査対象とした。対象者は大腿骨近位部骨折の手術を施行した150症例のうち,65歳未満例,死亡・術後急性増悪例,受傷前歩行不能例,術後免荷期間を要した例を除いた131名(男性24名,女性107名,83.7±7.2歳)を対象とした。
基本情報として性別,年齢,体組成,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R),骨折型,術式,受傷前歩行能力,受傷原因,既往歴,術後合併症を確認した。血液データは入院時と術後Alb・Hb・CRP値を,栄養学的因子には簡易栄養状態評価表(以下,MNA-SF)による分類を用いた。筋力/筋量の評価には入院時下腿周径,握力を測定した。運動機能は術後/術後2週/退院時にFIM・Timed Up and go Test(以下,TUG)を測定し,退院時に歩行能力を評価した。各項目の関連と,退院先が自宅群・自宅以外群の2群間で比較を行った。統計学的解析にはMann-Whitneyの検定,対応のないt-検定,χ2検定,相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
自宅群は37名(81.1±7.6歳),自宅以外群は94名(84.7±6.8歳)であった。自宅以外は転院75名(回復期65名,慢性期10名),老健施設8名,福祉施設11名であった。
自宅群では有意に若齢であり(p<0.05),HDS-Rは高値であった(p<0.05)。性差,既往歴,受傷前歩行能力,術後合併症等には差を認めなかった。入院時血液データではHb値が自宅群12.7±1.7g/dl,自宅以外群11.3±1.8g/dlと有意差を認め(p<0.01),術後血液データではAlb値が自宅群3.1±0.3g/dl,自宅以外群2.7±0.5g/dlと有意差を認めた(p<0.05)。MNA-SFでは両群間に差を認めなかった。下腿周径は自宅群28.7±3.2cm,自宅以外群27.4±3.2cmと有意差を認め(p<0.05),握力は差を認めなかった。TUGは自宅群(術後2週38.8±29.5秒,退院時30.6±21.0秒)が自宅以外群(術後2週50.1±34.7秒,退院時47.0±18.2秒)より術後2週・退院時ともに早かった(p<0.05)。退院時に杖もしくはシルバーカー歩行能力を獲得した者は自宅群36名(97.3%)と自宅以外群75名(79.8%)で有意差を認めた(p<0.05)。また各項目で,入院時Hb値は下腿周径(p<0.01,r=0.32)・握力(p<0.01,r=0.24)・術後2週TUG(p<0.01,r=-0.34)・退院時TUG(p<0.01,r=-0.26)と,術後Alb値は術後2週TUG(p<0.01,r=-0.25)・退院時TUG(p<0.01,r=-0.58)と相関を認め,下腿周径は術後2週TUG(p<0.01,r=-0.26)・退院時TUG(p<0.01,r=-0.37)と相関を認めた。
【考察】
今回の調査では,自宅退院群では術後2週・退院時TUGともに有意に好成績であり,退院時に歩行能力を獲得できた者の割合が高く,先行研究と同様の結果であった。
またHb・Alb値は加齢とともに減少し全身状態の影響を受け,下腿周径は栄養状態や基本動作能力に関係していると報告されている。今回の調査では自宅以外群で入院時Hb値・術後Alb値・下腿周径が有意に低値であった為,自宅以外群では低栄養/骨格筋量減少傾向であったと考えられる。これらの結果から高齢・認知機能低下・低栄養・骨格筋量減少という特徴を示した自宅以外群ではTUG・退院時歩行能力が低下し,退院転帰に影響していた可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
術前因子として年齢・入院時Hb値・下腿周径,術後因子として術後Alb値が大腿骨近位部骨折後の退院転帰を予測する指標となる可能性がある。これらの影響を早期より考慮することで術後理学療法やチーム医療,地域連携を円滑に進めることができる可能性がある。