第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

大腿骨頚部骨折

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1010] 手術後1週目の評価を用いた大腿骨近位部骨折患者の歩行自立度に関与する因子の検討

山下輝昭, 久保光正, 細川真登, 小中澤聡, 寺田僚介, 山岡祐介, 満冨一彦 (磐田市立総合病院)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 片脚立位時間, 関節可動域

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折は,転倒によって引き起こされ,要介護の原因の一つとなる骨折である。したがって急性期から生活維持期まで,幅広くリハビリテーションを施行される疾患の一つである。急性期病院における大腿骨近位部骨折患者の理学療法は,リスクを管理しながら廃用症候群を予防し,早期離床,早期日常生活動作獲得が重要となる。しかしながら,近年では地域連携パスの導入で急性期病院での在院日数が短縮し,早期日常生活動作獲得,特に歩行が自立に至らず回復期病院に転院される場合が増加している。大腿骨近位部骨折患者の歩行予後や転帰に関する報告は散見されるが,急性期病院の短い在院日数内で歩行予後を予測する報告は少ない。本研究では,入院期間中の客観的評価で回復期病院転院までに歩行自立に至るための条件は何であるのかを明らかにすることを目的に調査をしたのでここに報告する。
【方法】
対象は2014年4月から2014年9月までに当院に入院した大腿骨近位部骨折患者の中で,後方視的にカルテにより手術後1週間時点での安静時と歩行時の疼痛(NRS:Numeric Rating Scale),術側と非術側の片脚立位時間,股関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋)の評価を抽出できた40名とした。全症例が観血的整復術を施行され,保存的加療の症例は除外した。回復期病院転院までに病棟内での歩行が自立に至った群(自立群)と歩行が自立に至らなかった群(非自立群)に分け,各群間で安静時と歩行時のNRS,術側と非術側の片脚立位時間,股関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋)を比較検討することとした。尚,本研究における歩行自立とは,歩行補助具の種類は問わず病棟内の移動を歩行主体で自立できている状態とした。統計処理は対応のないT検定を用い,有意水準を5%以内とした。
【結果】
対象者の年齢は79.0±9.0歳で,男性10名,女性30名であった。大腿骨近位部骨折の内訳は,大腿骨頚部骨折が29名,大腿骨転子部骨折が11名であった。自立群は12名(年齢73.0±9.7歳,男性4名,女性8名)で非自立群は28名(年齢82.0±7.1歳,男性6名,22名)であった。全在院日数は25.4±13.3日で,手術後の在院日数は19.1±10.6日であった。自立群の安静時NRSは0.7±1.5で歩行時NRSは3.6±2.1であった。術側の片脚立位時間は0.9±1.2秒で,非術側の片脚立位時間は7.4±10.0秒であった。股関節可動域の屈曲は97.9±11.1°,伸展は2.9±7.5°,外転は25.4±7.8°,外旋は32.1±10.9°であった。自立群が用いていた歩行補助具は,全例で歩行器であった。非自立群の安静時NRSは1.3±1.6で歩行時NRSは4.3±2.5であった。術側の片脚立位時間は0.1±0.2秒で,非術側の片脚立位時間は0.6±1.9秒であった。股関節可動域の屈曲は91.6±9.1°,伸展は0.0±7.6°,外転は23.6±7.3°,外旋は28.7±9.5°であった。自立群と非自立群の間で,安静時と歩行時のNRS,股関節可動域(屈曲,伸展,外転,外旋)には優位な差を認めなかった。術側と非術側の片脚立位時間にそれぞれ優位確率0.38,0.40と優位な差を認めた。
【考察】
先行研究における大腿骨近位部骨折患者の歩行予後に関する因子の検討では,年齢や認知症の有無,骨折前歩行能力等が挙げられている。しかしながら,急性期病院の短い在院日数内で歩行自立に関連する因子を検討した調査は少なく,本研究で手術後1週間が経過した時点での術側と非術側の片脚立位時間が,回復期病院転院前に歩行自立が可能か判断できる評価になることが明らかとなった。加えて片脚立位時間は,術側と非術側の両側で重要であり,手術後も術側だけにとらわれず理学療法を進めることが重要であると考えられる。急性期から多様な因子が関連する片脚立位能力の個別評価が重要であることが示唆された。疼痛の強さは歩行自立度に与える影響は少ない可能性があり,手術後は疼痛をコントロールして積極的な理学療法が勧められると考えられる。股関節可動域は,歩容や歩行速度等に影響を与えることが予想されるが,早期の歩行自立に与える影響が少ないことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立度に関与する因子の検討は,大腿骨近位部骨折だけではなく全ての疾患に共通して重要であると考える。急性期から歩行自立度を予測できる評価を明らかにすることで,今後さらなる病院機能の細分化が進められたとき,在院日数の短縮のために理学療法が大きな鍵となる可能性が秘められていると考える。