第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法7

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1013] 脳卒中片麻痺患者の足部変形に対する整形外科的手術後の運動学的変化

歩行周期時間と足関節角度変化に着目して

野口大助1, 濱崎寛臣1, 竹内睦雄1, 三宮克彦1, 徳永誠2, 高橋修一朗3, 山永裕明2 (1.熊本機能病院, 2.熊本機能病院, 3.熊本機能病院)

Keywords:脳卒中, 機能改善手術, 歩行分析

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の過剰な筋緊張亢進に伴う麻痺側足部変形に対し,しばしば整形外科的手術療法が適応される。先行研究では,簡便な装具への移行,下肢Br.Stage(以下,BRS)の改善,装具着脱能力の改善,歩行能力の改善など報告がある。しかし,術後経過や運動学的な変化に関する報告は少ない。今回,初発脳卒中片麻痺患者1例に対し,術後15か月までの経過を追跡し,1歩行周期時間と足関節角度の変化を評価したので報告する。
【方法】
対象は,当院にて整形外科的手術療法を施行した初発脳卒中片麻痺患者1例である。50歳代,女性,アテローム血栓性脳梗塞で,左中大脳動脈領域広範囲に認めた。入院時(25病日)下肢BRSIIで,下肢BRSIIIまで改善するも起立時の下肢筋緊張亢進強く,内反尖足変形を呈していたため,129病日にVulpius変法(腓腹筋腱膜延長術),長趾・長母趾屈筋腱切離術を施行した。本手術は,術後に足関節の固定を要さず,当日より荷重可能である。歩行評価は,川村義肢株式会社製の簡易歩行分析ゲイトジャッジシステムを使用し,動画は計測機器と同期したipad内臓カメラで矢状面から撮影した。3歩行周期の平均時間を算出し足関節最大背屈角度と最大底屈角度の絶対値を加算し,足関節最大可動域を求めた。また,歩行動画の2歩行周期目の1歩行周期を麻痺側踵接地点(以下,IC点),非麻痺側離地点(以下,MS始点),非麻痺側接地点(以下,MS終点),麻痺側離地点(以下,Sw始点)に分割し,IC-MS始点間を荷重受け継ぎ期間(以下LR),MS始点-MS終点間を単脚支持期期間(以下MS),MS終点-Sw始点を前遊脚期間(以下PSw),Sw始点-次のIC点を遊脚期間(以下Sw)とし,1歩行周期における各期間の時間と割合を求めた。さらに,各期間における足関節角度の変化を評価した。計測時期は術前,術後3週,術後5週,術後5か月,術後15か月時点の計測を実施し,各計測時期で比較した。尚,計測時の歩行手段は実際の移動手段を用いた。さらに比較の参考として健常者データと比較した。
【結果】
平均1歩行周期時間(sec)は,術前2.0,術後3週1.9,術後5週1.7,術後5か月1.4,術後15か月1.2,健常者1.1と経過とともに短縮していた。1歩行周期内の各期間の時間は,LRは経過とともに短縮し,その割合は術前24%から術後5か月まで経過とともに低下し,15か月で15%となったが,健常者の10%には至らなかった。MSの時間は術後5か月から短縮し術後15か月では健常者と同じ時間になり,Pswは術後5週で健常者と同じ時間まで短縮した。しかし,Swは他の期間の時間短縮に比べ時間の短縮は認めなかった。また,術後15か月での割合は,MS23%と術前とほぼ変わらず健常者の30%より小さく,Pswは15%と健常者の20%より小さい割合となり,Swは46%と健常者の40%より大きい割合を占めていた。1歩行周期の各期間における足関節角度の変化では,術前は全期間において角度変化が少なく,MS中盤まで関節角度変化が停滞しており,Psw直前に背屈方向への動きが僅かにみられる程度で全期間において底屈域であった。術後3週では,MS後半からPswにかけて背屈運動がみられたが,MS前期では底屈域で角度変化なく停滞しており,足関節可動範囲は狭かった。術後5週では,術後3週より背屈域は拡大したが,MS中盤まで底屈位で停滞し,MS後半からPswにかけて背屈運動が開始されていた。術後5か月では,LRの底屈直後からPsw前期にかけて連続的に背屈運動がみられ,背屈方向への可動域も大きく拡大した。術後15ヶ月では術後5ヶ月より足関節可動範囲は狭くなり,術後5週と同様にMS前半に底屈位で停滞し,中盤以降に遅れて背屈運動開始していた。
【考察】
1歩行周期時間は術後から経過とともに短縮し,術後15か月の中期的な経過でも歩行能力の改善が認められることがわかった。また,1歩行周期の各期間の時間は経過とともに短縮するが,経過によってその短縮する期間は異なり,術後15か月でも健常者に比べLR,SW時間の延長を認めており,時期に応じた理学療法介入の選択が必要と考える。足関節可動域は術後経過とともに改善し,術後15か月でもその可動範囲は維持していた。しかし,術後3週,5週,15ヶ月ではMS前期に足関節が底屈位で停滞する傾向にあり,術後3週までは底屈筋の一時的な機能不全により前足部荷重が困難であること,術後15カ月では底屈筋の過緊張が再燃していることが示唆され,術後初期,中期経過での理学療法介入の検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
手術後の経過を運動学的に評価したことで,経過に応じた術後理学療法の課題が明確になった。