[P3-B-1019] 脳卒中片麻痺患者の座位側方リーチ距離と体幹側屈筋力および股関節伸展筋力との関係
キーワード:座位側方リーチ距離, 体幹側屈筋力, 股関節伸展筋力
【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)の座位側方リーチ(以下,リーチ)距離は日常生活活動(以下,ADL)の自立度と高い相関があると報告されており,その不安定性の改善はADLの自立を目指す上で重要だと考えられる。臨床においてもリーチ動作の不安定性の改善を目標に治療介入することがあるが,その原因の特定に難渋することが多い。健常人の筋電図学的分析では,リーチ動作時には非リーチ側体幹側屈筋やリーチ側股関節伸展筋の筋活動が他の筋に比して増加すると報告されており,体幹および麻痺側下肢機能に障害を有する片麻痺患者ではこれらの筋力の低下によりリーチ距離が低下する可能性があり,麻痺側と非麻痺側(以下,両側)で傾向が異なることが推測される。しかし,片麻痺患者におけるリーチ距離と各筋力との関係については明らかでなく,これらの関係を明らかにすることで各筋力の低下がリーチ距離に及ぼす影響を知ることができ,リーチ動作の不安定性の原因を特定する上で有用な知見が得られると考えた。そこで,片麻痺患者を対象に両側のリーチ距離を測定し,非リーチ側体幹側屈筋力およびリーチ側股関節伸展筋力との関係について調査した。
【方法】対象は当院入院中の片麻痺患者14名(男性8名,女性6名,平均年齢63.8±12.2歳,SIAS下肢運動項目9.5±4.1点)とし,著明な高次脳機能障害,重篤な整形外科的既往,測定時に痛みのある者は除外した。リーチ距離は両上肢を胸部の前で組み膝関節90°屈曲位とした足底接地の端座位より,両肩峰水平保持条件で最大肩峰側方移動距離を測定し座高比を求めた(以下,リーチ距離)。体幹側屈筋力は両上肢を胸部の前で組み膝関節90°屈曲位とした足底非接地の端座位より,大腿部・骨盤を固定し,徒手筋力計(アニマ社,μTas F-1)のセンサーを壁と壁側上腕外側部(肩峰直下)との間に入れ,壁側への最大等尺性体幹側屈筋力を測定し体重比を求めた(以下,体幹側屈筋力)。股関節伸展筋力は測定側股・膝関節90°屈曲位とした背臥位より,骨盤・対側大腿・両肩を固定し,徒手筋力計のセンサーを大腿後面遠位部にあて,最大等尺性股関節伸展筋力を測定し体重比を求めた(以下,股関節伸展筋力)。統計学的分析は両側のリーチ距離と非リーチ側体幹側屈筋力およびリーチ側股関節伸展筋力との相関係数(Spearman順位相関係数)を求めた。各測定項目の両側間の比較には対応のあるt検定を用いた。(有意水準5%未満)
【結果】相関分析では麻痺側リーチ距離と麻痺側股関節伸展筋力に有意な中等度の相関がみられ(ρ=0.69,p<0.01),他の測定項目間に有意な相関はみられなかった。各測定項目の平均値(麻痺側,非麻痺側)はリーチ距離(0.22±0.05cm/cm,0.24±0.04cm/cm),体幹側屈筋力(14.3±8.1kg/kg,16.0±9.8kg/kg),股関節伸展筋力(31.9±18.4kg/kg,44.8±14.1kg/kg)で,両側間の比較では股関節伸展筋力にのみ有意差がみられた(p<0.01)。
【考察】相関分析では麻痺側リーチ距離と麻痺側股関節伸展筋力にのみ有意な相関がみられ,両側間の比較では麻痺側股関節伸展筋力に有意な低下がみられた。松村らはリーチ距離の延長にはリーチ側への骨盤傾斜角度の増加が関与すると報告しており,臨床的に骨盤傾斜には傾斜側臀部への十分な重心移動が必要だと考えられる。また,座位側方重心移動時には移動側ハムストリングスや大殿筋の筋活動の増加が報告されている。これらの知見を踏まえると,リーチ側臀部へ重心移動が困難なほどリーチ側股関節伸展筋力が低下した場合,骨盤傾斜角度が減少し股関節伸展筋力の低下に伴ってリーチ距離が低下する可能性がある。本研究では麻痺側股関節伸展筋力に有意な低下がみられた。よって,麻痺側股関節伸展筋力と麻痺側リーチ距離に有意な相関がみられたと考えた。また,辻野らは足底接地条件でのリーチ動作では足底非接地条件に比べて,非リーチ側外腹斜筋の筋活動が少ないことを報告している。よって,足底接地条件にて測定した本研究のリーチ距離と各体幹側屈筋力には有意な相関はみられなかったと考えた。本研究の結果より,リーチ側股関節伸展筋力の一定以上の低下はリーチ距離に影響を及ぼす可能性があり,リーチ動作の不安定性の原因になり得ることが示唆された。今後はリーチ距離に影響を及ぼすリーチ側股関節伸展筋力の上限値について検討する必要がある。
【理学療法研究としての意義】リーチ側股関節伸展筋力の一定以上の低下はリーチ距離に影響を及ぼす可能性が示唆された。よって,リーチ動作の不安定性の原因を特定する際にはリーチ側股関節伸展筋力の評価が有用だと考えられる。
【方法】対象は当院入院中の片麻痺患者14名(男性8名,女性6名,平均年齢63.8±12.2歳,SIAS下肢運動項目9.5±4.1点)とし,著明な高次脳機能障害,重篤な整形外科的既往,測定時に痛みのある者は除外した。リーチ距離は両上肢を胸部の前で組み膝関節90°屈曲位とした足底接地の端座位より,両肩峰水平保持条件で最大肩峰側方移動距離を測定し座高比を求めた(以下,リーチ距離)。体幹側屈筋力は両上肢を胸部の前で組み膝関節90°屈曲位とした足底非接地の端座位より,大腿部・骨盤を固定し,徒手筋力計(アニマ社,μTas F-1)のセンサーを壁と壁側上腕外側部(肩峰直下)との間に入れ,壁側への最大等尺性体幹側屈筋力を測定し体重比を求めた(以下,体幹側屈筋力)。股関節伸展筋力は測定側股・膝関節90°屈曲位とした背臥位より,骨盤・対側大腿・両肩を固定し,徒手筋力計のセンサーを大腿後面遠位部にあて,最大等尺性股関節伸展筋力を測定し体重比を求めた(以下,股関節伸展筋力)。統計学的分析は両側のリーチ距離と非リーチ側体幹側屈筋力およびリーチ側股関節伸展筋力との相関係数(Spearman順位相関係数)を求めた。各測定項目の両側間の比較には対応のあるt検定を用いた。(有意水準5%未満)
【結果】相関分析では麻痺側リーチ距離と麻痺側股関節伸展筋力に有意な中等度の相関がみられ(ρ=0.69,p<0.01),他の測定項目間に有意な相関はみられなかった。各測定項目の平均値(麻痺側,非麻痺側)はリーチ距離(0.22±0.05cm/cm,0.24±0.04cm/cm),体幹側屈筋力(14.3±8.1kg/kg,16.0±9.8kg/kg),股関節伸展筋力(31.9±18.4kg/kg,44.8±14.1kg/kg)で,両側間の比較では股関節伸展筋力にのみ有意差がみられた(p<0.01)。
【考察】相関分析では麻痺側リーチ距離と麻痺側股関節伸展筋力にのみ有意な相関がみられ,両側間の比較では麻痺側股関節伸展筋力に有意な低下がみられた。松村らはリーチ距離の延長にはリーチ側への骨盤傾斜角度の増加が関与すると報告しており,臨床的に骨盤傾斜には傾斜側臀部への十分な重心移動が必要だと考えられる。また,座位側方重心移動時には移動側ハムストリングスや大殿筋の筋活動の増加が報告されている。これらの知見を踏まえると,リーチ側臀部へ重心移動が困難なほどリーチ側股関節伸展筋力が低下した場合,骨盤傾斜角度が減少し股関節伸展筋力の低下に伴ってリーチ距離が低下する可能性がある。本研究では麻痺側股関節伸展筋力に有意な低下がみられた。よって,麻痺側股関節伸展筋力と麻痺側リーチ距離に有意な相関がみられたと考えた。また,辻野らは足底接地条件でのリーチ動作では足底非接地条件に比べて,非リーチ側外腹斜筋の筋活動が少ないことを報告している。よって,足底接地条件にて測定した本研究のリーチ距離と各体幹側屈筋力には有意な相関はみられなかったと考えた。本研究の結果より,リーチ側股関節伸展筋力の一定以上の低下はリーチ距離に影響を及ぼす可能性があり,リーチ動作の不安定性の原因になり得ることが示唆された。今後はリーチ距離に影響を及ぼすリーチ側股関節伸展筋力の上限値について検討する必要がある。
【理学療法研究としての意義】リーチ側股関節伸展筋力の一定以上の低下はリーチ距離に影響を及ぼす可能性が示唆された。よって,リーチ動作の不安定性の原因を特定する際にはリーチ側股関節伸展筋力の評価が有用だと考えられる。