第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法8

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1022] 被殻出血における血腫量は機能予後の予測因子となりうるか

高齢者群と非高齢者群での検討

菊谷明弘, 皆方伸, 佐藤雄一 (秋田県立脳血管研究センター機能訓練部)

Keywords:被殻出血, 血腫量, 機能予後

【はじめに,目的】
被殼出血は全脳出血のうち60~65%と,最も頻度が高い。その血腫量が多くなることで,血腫による炎症,圧排による脳組織の障害がより高度となるため,運動麻痺の改善が不良であるという報告がされている。血腫量の程度により,発症6か月後のADL能力に差があるとする先行研究もあり,被殻出血の血腫量は機能予後を予測する1つの因子と考えられている。また,脳血管障害の機能予後を予測する上で,発症時の年齢は強力な予測因子であると報告されている。しかし,これまでの被殻出血の血腫量と機能予後を検討した研究では,年齢による影響を考慮した検討は少ない。そのため,本研究では,被殻出血患者を対象として高齢者と非高齢者の二群に分け,血腫量と退院時の運動麻痺の重症度,動作能力,ADL能力との関係性を検討し,血腫量が機能予後の予測因子となり得るかを検討した。
【方法】
2011年1月から2014年6月までに当センターに入院し,回復期病棟を退院した脳血管障害の既往のない被殻出血55例(平均年齢58.6±13.1歳,男性36例,女性19例,平均血腫量は20.1±19.8ml,発症から転科までの日数31.1±15.7日,トレーニング期間111.7±55.0日)を対象とした。さらに対象群を年齢65歳以上の群(以下,高齢群,18例)と,65歳未満の群(以下,非高齢群,37例)に2群に分けた。検討項目は,発症後24時間以内のCT画像から簡易計算式(長径×短径×厚さ×π/6)で算出した脳内血腫量と,当センター回復期病棟退院時の運動麻痺の重症度:麻痺側下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下,下肢Br.stage),動作能力の指標:体幹・下肢運動年齢(以下,MOA),ADL能力の指標:Functional Independence Measure運動項目合計得点(以下,運動FIM)を採用した。統計学的解析は,SPSS statistics Ver.17.0を使用し,血腫量と各検討項目との関連性をpearsonの積率相関係数,及びSpearman順位相関係数を用いて検討した。有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】
高齢群において,血腫量と下肢Br.stageには有意な相関関係(r=-0.770。p<0.01)を認めたが,MOAと運動FIMの間には有意な相関関係は認めなかった。一方,非高齢群においては,下肢Br.stage(r=-0.395。p<0.05)と,MOA(r=-0.593。p<0.01)と運動FIM(r=-0.618。p<0.01)の全てに有意な相関関係を認めた。
【考察】
今回の検討では,血腫量と退院時の運動麻痺の重症度,動作能力,ADL能力の関係性には,高齢群と非高齢群の結果には差異がみられ,高齢群では血腫量と退院時の動作能力,ADL能力との間に相関関係はみられなかった。その要因として,非麻痺側の運動機能や病前のADL能力が高齢群と非高齢群で異なるためによる影響が考えられた。高齢群においては,整形外科疾患や加齢による筋力低下等により,非高齢群よりも同一の群内における病前の動作能力,ADL能力に差があったため,血腫量と運動麻痺の重症度には有意な相関関係がみられても,能力指標との関係性が弱まったと考えられた。そのため,高齢者においては発症時の血腫量だけでは退院時の動作能力,ADL能力を予測することは難しいことが示唆され,予後を早期に予測するためには非麻痺側の運動機能や病前のADL能力を踏まえて行うことの必要性が再確認された。
【理学療法学研究としての意義】
今回の検討では,高齢者と非高齢者では血腫量の程度が機能予後の予測因子として持つ意味合いが異なるということが明らかとなった。高齢者では血腫量の程度だけでは退院時の機能予後を予測する因子としては不十分であり,非麻痺側の運動機能や病前のADL能力を評価することが重要であることが再確認された。