[P3-B-1028] 急性期脳卒中患者の各姿勢における代謝量の検討
キーワード:急性期脳卒中, 代謝, 姿勢
【はじめに,目的】
近年,急性期脳卒中患者への介入において,適切なリハビリテーション(以下リハ)と栄養管理を併用することで,より機能改善を期待できるとされている。臨床での栄養投与量決定にはHarris-Benedictの式(HB式)で推定した基礎代謝量を用いることが多いが,個々の代謝量は病態により変動が大きく,間接熱量計での代謝量の実測が最も信頼できるとされている。しかし急性期脳卒中患者の各姿勢での代謝量を実測した研究は少ない。急性期リハが一般的になる中で,安静臥位のみならず,離床に伴う各姿勢の代謝量の把握は重要であると考えられる。本研究の目的は,急性期脳卒中患者の各姿勢での代謝量を検討し,急性期脳卒中の代謝動態の把握と,急性期リハのリスク管理や運動強度の指標として活用を検討することである。
【方法】
当センター入院中の急性期脳卒中患者31名(男性19名・女性12名,年齢74.3±9.8歳,脳出血14名・脳梗塞17名,罹患期間6.9±2.6日)を対象とした。対象者は,安静臥位,ギャッジアップ30°座位(以下ギャッジ30°),端座位,車椅子座位,立位へと姿勢変換し,各5分間それぞれの姿勢をできるだけ自力で保持してもらった。代謝量測定には携帯型呼気ガス代謝モニター(MetaMax3B:コールテックス社製)を使用し,酸素摂取量(V’O2),二酸化炭素排出量(V’CO2),分時換気量(V’E),METs,呼吸数(RR),心拍数(HR),エネルギー消費量(EE)などを測定した。得られた各測定値は,姿勢ごとに平均化し分析した。基礎代謝量(BEE)はHB式を用いて患者ごとに推定し,安静時代謝量(REE)は安静臥位のEEとした。REEをBEEで除して比にした値を%REEとした。統計学的解析には,①BEEとREEの比較,病型別(脳出血,脳梗塞)・性別によるBEE,REE,%REEの比較には対応のあるt検定,②各測定項目の相関関係はPeasonの相関係数,③各測定値の姿勢間の比較には多重比較(tukey法)を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
BEEは1201.5±232.5kcal/日,REEは1570.6±328.8kcal/日であり,REEはBEEより有意に増加した(p<0.01)。%REEは132.5±25.7%であった。病型別によるREEの相違は認めなかった。性別REEの比較では,女性より男性で有意に増加した(p<0.05)。②年齢とREEには有意な負の相関(p<0.01),BMIとREEには有意な正の相関がみられた(p<0.01)。③EEは,ギャッジ30°は1550.4±363.8kcal/日,端座位は1664.6±337.9kcal/日,車椅子座位は1530±287.9kcal/日,立位は2762.5±967.3kcal/日であった。EEを含む各測定値の姿勢間の比較では,立位とその他の姿勢間で有意差は認めたが(p<0.01),立位以外の姿勢間では有意差は認めなかった。V’O2,V’CO2,METs,EEは,安静臥位より車椅子座位・ギャッジ30°で低下し,端座位・立位で増加する傾向にあった。尚,測定中の血圧,SpO2はリハ実施基準内であった。
【考察】
健常者において,HB式によるBEEはREEより高いとの見解が多いが,各病態により代謝動態は大きく変化する。Esperらは発症早期脳出血患者の%REEは126%,Kasuyaらは発症早期くも膜下出血患者の%REEは軽症群146%,重症群198%と報告しており,いずれも脳内出血患者で代謝は亢進するとしている。本研究対象者の%REEも132%と亢進し,病型による代謝量の相違はみられなかった。さらに富井らは回復期脳卒中患者%REEは105%であり,BEEとほぼ一致したと報告している。以上より,代謝亢進は急性期脳卒中患者の特徴であると示唆された。REEは女性より男性で,BMIが高いほど有意に増加し,加齢とともに低下した。一般的に代謝量増加には性別・年齢・体重が影響するとされ,本研究でも同様の結果が得られた。各測定値の姿勢間の比較において,立位が最も高く,安静臥位より端座位で増加したことは,不安定な姿勢を保持する際の筋活動増大に伴い,代謝量が増加したことが考えられた。車椅子座位・ギャッジ30°で低下傾向にあったことは,臥位よりも呼吸機能面から有利であるといわれる背上げの姿勢により,過剰な筋活動が抑制されたと推察された。車椅子座位・ギャッジ30°は身体負荷が少なく代謝効率の良い姿勢であり,急性期脳卒中患者において早期離床を促す際に推奨される姿勢であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,急性期脳卒中患者の代謝動態を明らかにしたことである。本研究の結果は,急性期リハを実施する上でリスク管理や運動強度の指標を決定する一助となる研究である。
近年,急性期脳卒中患者への介入において,適切なリハビリテーション(以下リハ)と栄養管理を併用することで,より機能改善を期待できるとされている。臨床での栄養投与量決定にはHarris-Benedictの式(HB式)で推定した基礎代謝量を用いることが多いが,個々の代謝量は病態により変動が大きく,間接熱量計での代謝量の実測が最も信頼できるとされている。しかし急性期脳卒中患者の各姿勢での代謝量を実測した研究は少ない。急性期リハが一般的になる中で,安静臥位のみならず,離床に伴う各姿勢の代謝量の把握は重要であると考えられる。本研究の目的は,急性期脳卒中患者の各姿勢での代謝量を検討し,急性期脳卒中の代謝動態の把握と,急性期リハのリスク管理や運動強度の指標として活用を検討することである。
【方法】
当センター入院中の急性期脳卒中患者31名(男性19名・女性12名,年齢74.3±9.8歳,脳出血14名・脳梗塞17名,罹患期間6.9±2.6日)を対象とした。対象者は,安静臥位,ギャッジアップ30°座位(以下ギャッジ30°),端座位,車椅子座位,立位へと姿勢変換し,各5分間それぞれの姿勢をできるだけ自力で保持してもらった。代謝量測定には携帯型呼気ガス代謝モニター(MetaMax3B:コールテックス社製)を使用し,酸素摂取量(V’O2),二酸化炭素排出量(V’CO2),分時換気量(V’E),METs,呼吸数(RR),心拍数(HR),エネルギー消費量(EE)などを測定した。得られた各測定値は,姿勢ごとに平均化し分析した。基礎代謝量(BEE)はHB式を用いて患者ごとに推定し,安静時代謝量(REE)は安静臥位のEEとした。REEをBEEで除して比にした値を%REEとした。統計学的解析には,①BEEとREEの比較,病型別(脳出血,脳梗塞)・性別によるBEE,REE,%REEの比較には対応のあるt検定,②各測定項目の相関関係はPeasonの相関係数,③各測定値の姿勢間の比較には多重比較(tukey法)を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
BEEは1201.5±232.5kcal/日,REEは1570.6±328.8kcal/日であり,REEはBEEより有意に増加した(p<0.01)。%REEは132.5±25.7%であった。病型別によるREEの相違は認めなかった。性別REEの比較では,女性より男性で有意に増加した(p<0.05)。②年齢とREEには有意な負の相関(p<0.01),BMIとREEには有意な正の相関がみられた(p<0.01)。③EEは,ギャッジ30°は1550.4±363.8kcal/日,端座位は1664.6±337.9kcal/日,車椅子座位は1530±287.9kcal/日,立位は2762.5±967.3kcal/日であった。EEを含む各測定値の姿勢間の比較では,立位とその他の姿勢間で有意差は認めたが(p<0.01),立位以外の姿勢間では有意差は認めなかった。V’O2,V’CO2,METs,EEは,安静臥位より車椅子座位・ギャッジ30°で低下し,端座位・立位で増加する傾向にあった。尚,測定中の血圧,SpO2はリハ実施基準内であった。
【考察】
健常者において,HB式によるBEEはREEより高いとの見解が多いが,各病態により代謝動態は大きく変化する。Esperらは発症早期脳出血患者の%REEは126%,Kasuyaらは発症早期くも膜下出血患者の%REEは軽症群146%,重症群198%と報告しており,いずれも脳内出血患者で代謝は亢進するとしている。本研究対象者の%REEも132%と亢進し,病型による代謝量の相違はみられなかった。さらに富井らは回復期脳卒中患者%REEは105%であり,BEEとほぼ一致したと報告している。以上より,代謝亢進は急性期脳卒中患者の特徴であると示唆された。REEは女性より男性で,BMIが高いほど有意に増加し,加齢とともに低下した。一般的に代謝量増加には性別・年齢・体重が影響するとされ,本研究でも同様の結果が得られた。各測定値の姿勢間の比較において,立位が最も高く,安静臥位より端座位で増加したことは,不安定な姿勢を保持する際の筋活動増大に伴い,代謝量が増加したことが考えられた。車椅子座位・ギャッジ30°で低下傾向にあったことは,臥位よりも呼吸機能面から有利であるといわれる背上げの姿勢により,過剰な筋活動が抑制されたと推察された。車椅子座位・ギャッジ30°は身体負荷が少なく代謝効率の良い姿勢であり,急性期脳卒中患者において早期離床を促す際に推奨される姿勢であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,急性期脳卒中患者の代謝動態を明らかにしたことである。本研究の結果は,急性期リハを実施する上でリスク管理や運動強度の指標を決定する一助となる研究である。