第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法9

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1037] 急性期椎骨・脳底動脈梗塞患者の転帰先に関連する因子の検討

馬井孝徳, 公文範行, 福田真也, 浦谷明宏, 船越剛司, 原田真二 (公益財団法人倉敷中央医療機構倉敷中央病院)

Keywords:急性期, 脳梗塞, 転帰

【はじめに,目的】脳卒中ガイドライン2009では,リハビリテーション治療において,急性期から,根拠のある予後予測に基づく目標を設定し,脳卒中リハビリテーションチーム内で共有したうえで,積極的なリハビリテーション介入を実施することが推奨されている。脳梗塞を責任血管で大別すると,前方循環系と後方循環系に大別される。前方循環系に対する予後や転帰先の報告は多く見られるが,後方循環脳梗塞患者の予後や転帰先に関する報告は少なく,臨床において,多彩な症状から自宅退院・転院の適応などで苦渋する場面を多く経験し,医師や看護師,リハスタッフの経験的な判断に委ねられているのが現状である。そこで今回の研究として,当院椎骨・脳底動脈梗塞患者の転帰先に関する因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】研究デザインは後ろ向き観察研究とした。2012年7月~2013年6月に当院脳卒中科,脳外科に入院し,リハビリテーション(以下リハ)を施行した790例の連続症例のうち,椎骨動脈もしくは脳底動脈脳梗塞と診断された69例を抽出した。そのうち,入院中死亡例,脳卒中既往例,入院前modified Rankin Scale(以下mRS)4・5,入院中の脳梗塞拡大・症状増悪例,データ欠損例を除外した39例を対象とし,自宅退院群,転院群に分け以下の項目に関して比較を行った。性別,病型分類,障害半球,治療方針,歩行獲得可否,初回15秒端座位テスト可否,リハ中の吐気・嘔吐・眩暈の有無に関してはΧ2検定を行った。年齢,入院前mRS,世帯構成人数(本人を除く),発症からリハ開始までの日数,発症から歩行獲得までの日数,在院日数,リハ開始時National Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS),上・下肢運動項目を除くリハ開始時NIHSS下位項目,リハ開始時上・下肢Brunnstrom recovery stage(以下BRS),リハ開始時Functional Independence Measure(以下FIM),リハ開始時摂食・嚥下グレードはMann-Whitney U検定を行った。統計ソフトはSPSS Statistics22を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】自宅退院群は16例,転院群は23例であった。患者背景・疾患に関する因子の自宅退院群と転院群の比較では,年齢はp<0.05で,入院前mRSはp<0.01で有意差を認めた。リハ開始時評価の自宅退院群と転院群の比較では,上下肢BRS,リハ開始時摂食・嚥下グレード,リハ開始時NIHSS,リハ開始時NIHSS下位項目の意識水準,最良の注視,視野,顔面麻痺,構音障害はp<0.01で有意差を認め,意識障害質問はp<0.05で有意差を認めた。リハ経過の自宅退院群と転院群の比較では,歩行獲得可否,発症から歩行獲得までの日数,在院日数はp<0.01で有意差を認めた。
【考察】本研究では椎骨,脳底動脈脳梗塞患者の転帰先に関連する因子を明らかにすることを目的として行った。患者背景から年齢,入院前mRSに有意差を認め,責任血管や病巣を限定しない脳出血,脳梗塞患者を対象とした転帰の報告と同様の結果であり,椎骨・脳底動脈脳梗塞患者においても転帰先に関連する因子であることが明らかとなった。また,意識障害,運動麻痺などの身体機能障害,疾患の重症度,ADLに加えて,眼球運動障害,視野障害,顔面神経麻痺,嚥下障害,構音障害などの脳神経症状も,椎骨・脳底動脈脳梗塞患者の転帰を考慮する際には重要な因子であることが明らかとなり,脳神経症状を考慮しながらリハを行うことが重要であることを示している。また,椎骨・脳底動脈梗塞の特徴的な症状の小脳性運動失調は,今回の検討ではNIHSS失調項目において自宅退院群と転院群では有意差がないという結果であった。これは,NIHSSの運動失調項目は片麻痺がある患者,または理解のない患者は運動失調なしとして採点することが定められており,意識障害が顕著に見られる急性期においては失調がないものと同じ結果となったためであろう。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,数少ない後方循環脳梗塞の転帰に関する知見を提供し,責任血管・病巣別の予後予測・転帰予測が必要であることを示唆するものである。