[P3-B-1041] 脳卒中片麻痺患者の機能が複数転倒に与える影響
6か月後の比較による検討
Keywords:脳卒中, 複数転倒, BBS
【はじめに,目的】
平成22年度の国民生活基礎調査によれば,介護が必要となった主な原因の第1位は脳卒中(21.6%)で,骨折・転倒は5番目(10.2%)である。脳卒中ガイドライン(2009)には麻痺側は転倒により骨折しやすく,特に大腿骨頸部骨折が多いとしており,脳卒中患者は転倒により要介護状態になりやすいと言える。当院に転倒により再入院した脳卒中患者でも,大腿骨頸部骨折が大半を占め,患者,家族によると,転倒による受傷は一度ではないとのことで,複数回転倒して受傷に至った例が多いと思われる。頸部骨折の受傷は,ほとんど例外なく二度目の転倒である(Abolhassani 2006)との報告があることから,複数転倒を予防することが重要と考えるが,散見する複数転倒の研究は,退院時の機能を報告したものであり,退院後の機能を報告したものは見当たらない。そこで,退院後6か月後にも評価を実施し,複数転倒に影響する機能を検討した。本研究の目的は,複数転倒に関係する機能を退院時と退院6か月後の機能から明らかにすることである。
【方法】
2012年12月から2013年9月までに当病院を退院した脳卒中片麻痺患者345名から,除外基準に当てはまる被験者を除外し対象とした。最終的に統計解析が可能となったのは27名(男性12名,女性15名,平均年齢66.9歳±12.8)であった。
検査項目としては,BBS,MMSE,TMT-A,RBMT,10m歩行(通常,serial7),リーチの見積もり誤差とし,退院1週間前から退院前日までに測定した。また,患者記録より,FIM,服薬のデータ,入院中の転倒の有無,麻痺側,病型の情報を入手した。
退院日から1か月毎,計5回,被験者または同居家族へ転倒の有無,怪我などの情報を電話にて調査した。また,退院後6か月間の転倒回数と,状況の記録を本人または家族に依頼した。
退院日から6か月後に,訪問もしくは外来にて,退院時と同様の評価を実施した。
退院時,6か月後共に,非複数転倒群と複数転倒群の比較について,対応のないt-検定,χ2検定を用い,分析した。単変量解析で有意であった項目について,6か月の期間の影響を調べるために,二元配置分散分析を用い分析した。全ての統計解析は,Dr. SPSS II for Windowsを用いて行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
27名の内17名が転倒無し,5名が1回の転倒,5名が2回以上転倒した。1回もしくは転倒無しの被験者を複数転倒無し群(22名・81.48%),2回以上転倒した被験者を複数転倒群(5名・18.52%)と分類した。退院時での非複数転倒群と複数転倒群との比較では,複数転倒群において,BBS(p<0.01),FIM(p<0.001),FIM-M(p<0.001)が有意に低値を示し,TMT-A(p<0.05),10m歩行(p<0.01),二重課題(p<0.05)で優位に時間が長かった。また,性別(p<0.05)に有意差を認め,女性であることが因子になるとわかった。また,6か月後の比較では,BBS(p<0.01),FIM(p<0.001),FIM-M(p<0.001),FIM-C(p<0.05)が有意に低値を示し,TMT-A(p<0.05),10m歩行(p<0.01)で優位に時間が長かった。また,性別(p<0.05)に有意差を認め,女性であることが因子になるとわかった。しかし,二元配置分散分析の結果,TMT-A(p<0.01),FIM(p<0.05),FIM-motor(p<0.01),10m歩行(p<0.05)は交互作用があることがわかり,BBS(p=0.671)のみが二群間の差で有意な項目であることがわかった。
【考察】
今回の研究では,入院時,退院時共に有意差があり,二元配置分散分析でも交互作用がない項目はBBSのみであった。BBSが転倒リスクを要因となることは先行研究でも報告されていたが,6か月の期間を考慮しても有意であると今回の研究で明らかになった。このことから,脳卒中患者の転倒に関わる因子として,バランス能力が他の運動機能,認知機能,高次脳機能などよりも,強い影響を及ぼすことが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者の理学療法において,バランス能力を向上させることが,退院後の転倒予防において,他の因子よりも重要であると考えられる。
平成22年度の国民生活基礎調査によれば,介護が必要となった主な原因の第1位は脳卒中(21.6%)で,骨折・転倒は5番目(10.2%)である。脳卒中ガイドライン(2009)には麻痺側は転倒により骨折しやすく,特に大腿骨頸部骨折が多いとしており,脳卒中患者は転倒により要介護状態になりやすいと言える。当院に転倒により再入院した脳卒中患者でも,大腿骨頸部骨折が大半を占め,患者,家族によると,転倒による受傷は一度ではないとのことで,複数回転倒して受傷に至った例が多いと思われる。頸部骨折の受傷は,ほとんど例外なく二度目の転倒である(Abolhassani 2006)との報告があることから,複数転倒を予防することが重要と考えるが,散見する複数転倒の研究は,退院時の機能を報告したものであり,退院後の機能を報告したものは見当たらない。そこで,退院後6か月後にも評価を実施し,複数転倒に影響する機能を検討した。本研究の目的は,複数転倒に関係する機能を退院時と退院6か月後の機能から明らかにすることである。
【方法】
2012年12月から2013年9月までに当病院を退院した脳卒中片麻痺患者345名から,除外基準に当てはまる被験者を除外し対象とした。最終的に統計解析が可能となったのは27名(男性12名,女性15名,平均年齢66.9歳±12.8)であった。
検査項目としては,BBS,MMSE,TMT-A,RBMT,10m歩行(通常,serial7),リーチの見積もり誤差とし,退院1週間前から退院前日までに測定した。また,患者記録より,FIM,服薬のデータ,入院中の転倒の有無,麻痺側,病型の情報を入手した。
退院日から1か月毎,計5回,被験者または同居家族へ転倒の有無,怪我などの情報を電話にて調査した。また,退院後6か月間の転倒回数と,状況の記録を本人または家族に依頼した。
退院日から6か月後に,訪問もしくは外来にて,退院時と同様の評価を実施した。
退院時,6か月後共に,非複数転倒群と複数転倒群の比較について,対応のないt-検定,χ2検定を用い,分析した。単変量解析で有意であった項目について,6か月の期間の影響を調べるために,二元配置分散分析を用い分析した。全ての統計解析は,Dr. SPSS II for Windowsを用いて行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
27名の内17名が転倒無し,5名が1回の転倒,5名が2回以上転倒した。1回もしくは転倒無しの被験者を複数転倒無し群(22名・81.48%),2回以上転倒した被験者を複数転倒群(5名・18.52%)と分類した。退院時での非複数転倒群と複数転倒群との比較では,複数転倒群において,BBS(p<0.01),FIM(p<0.001),FIM-M(p<0.001)が有意に低値を示し,TMT-A(p<0.05),10m歩行(p<0.01),二重課題(p<0.05)で優位に時間が長かった。また,性別(p<0.05)に有意差を認め,女性であることが因子になるとわかった。また,6か月後の比較では,BBS(p<0.01),FIM(p<0.001),FIM-M(p<0.001),FIM-C(p<0.05)が有意に低値を示し,TMT-A(p<0.05),10m歩行(p<0.01)で優位に時間が長かった。また,性別(p<0.05)に有意差を認め,女性であることが因子になるとわかった。しかし,二元配置分散分析の結果,TMT-A(p<0.01),FIM(p<0.05),FIM-motor(p<0.01),10m歩行(p<0.05)は交互作用があることがわかり,BBS(p=0.671)のみが二群間の差で有意な項目であることがわかった。
【考察】
今回の研究では,入院時,退院時共に有意差があり,二元配置分散分析でも交互作用がない項目はBBSのみであった。BBSが転倒リスクを要因となることは先行研究でも報告されていたが,6か月の期間を考慮しても有意であると今回の研究で明らかになった。このことから,脳卒中患者の転倒に関わる因子として,バランス能力が他の運動機能,認知機能,高次脳機能などよりも,強い影響を及ぼすことが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者の理学療法において,バランス能力を向上させることが,退院後の転倒予防において,他の因子よりも重要であると考えられる。