第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法10

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1044] 脳卒中急性期における合併症発症と脳卒中地域連携パス連携病院退院時の帰結との関連性

藤原亜希子1,2, 萩原晃2, 土橋邦生1, 臼田滋1, 白倉賢二3 (1.群馬大学大学院保健学研究科, 2.群馬大学医学部附属病院, 3.群馬大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学分野)

Keywords:肺炎, 機能的自立度評価法(FIM), 急性期脳卒中

【はじめに,目的】脳卒中後30か月の観察期間では,脳卒中再発,痙攣,尿路感染症(UTI),呼吸器感染症,転落,褥瘡,深部静脈血栓症(DVT),肺塞栓症,肩の痛み,うつ状態,不安,感情失禁,錯乱等が合併症として報告され,発症前に機能障害を有していた重症脳卒中の高齢者に合併症が多く,合併症は死亡率のみならず機能的転帰を悪化させる可能性がある。しかし,急性期病院入院中の脳卒中発症後早期における合併症の発症と最終転帰との関連性は明らかではない。本研究の目的は,臨床で多く認められる合併症として,肺炎,UTI,DVTの頻度を後方視的に調査し,急性期病院入院中における合併症発症と連携病院退院時の帰結との関連性を検討することである。
【方法】平成24年4月から平成25年3月の1年間に,急性期病院である当院の脳卒中ケアユニット(SCU)に脳梗塞,脳出血,くも膜下出血(SAH)の治療目的に入院した131名のうち,脳卒中地域連携パス(パス)を利用して連携病院へ転院した53例で,連携病院にてバリアンス(リハビリテーション実施困難または死亡離脱)のあった者を除外し,当院へパス返却のあった46例を分析対象とした。分析方法は,年齢,性別,疾患名,合併症の有無(肺炎,UTI,DVT),入院時のGlasgow Coma Scale(GCS),尿路カテーテル(尿カテ)留置期間,経管栄養チューブ(NG-t)留置期間,入院日数(当院・SCU),連携病院からの退院時転帰として自宅退院の有無,開始時・当院から連携病院への転院時(転院時)・連携病院退院時(退院時)におけるFunctional Independence Measure(FIM)得点(総合計・運動項目・認知項目)をパスより後方視的に調査し,FIM利得(転院時または退院時FIM得点-開始時または転院時FIM得点)を算出した。肺炎は画像所見と検査値から医師が診断したもの,UTIは尿沈渣5個/HPF以上,DVTはD-dimerの最大値が5.5μg/mL以上とした。統計学的分析は,各合併症の発症群と非発症群の2群間について,属性や経過,転帰を比較した。平均値の比較はt検定,度数分布の比較はχ2検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】分析対象となった46例の属性は,性別が男性22例,女性24例,疾患名が脳梗塞26例,脳出血16例,SAH4例であった。合併症の発症頻度は,肺炎が6例(13.0%),UTI8例(17.4%),DVT15例(32.6%),合併症なしが22例であった。そのうち肺炎単独が2例,UTI単独が7例,DVT単独が10例,肺炎とDVTの併発が4例,UTIとDVTの併発が1例であった。肺炎発症群(n=6)の疾患名は,脳梗塞が3例,脳出血が1例,SAHが2例,UTI発症群(n=8)では,脳梗塞が4例,脳出血が2例,SAHが2例,DVT発症群(n=15)では,脳梗塞が7例,脳出血が6例,SAHが2例であった。肺炎発症群(n=6)/非発症群(n=40)の比較では,発症年齢(平均±標準偏差)は70.5±13.7歳/71.8±13.4歳と有意差を認めなかったが,入院時GCS9.3±3.5/13.3±2.1,当院入院日数45.2±9.3日/30.2±12.4日,SCU入院日数33.7±8.0日/16.3±9.0日,尿カテ留置期間29.0±10.6日/11.6±12.3日,NG-t留置期間40.0±15.5日/6.6±13.2日で有意差を認めた。FIM得点は,開始時,転院時,退院時の全ての時期において,総合計,運動項目,認知項目の全項目で,肺炎発症群の方が有意に低く,FIM利得は有意差を認めなかった。連携病院からの自宅退院は2例(33.3%)/31例(77.5%)と有意差を認めた。UTI発症群(n=8)と非発症群(n=38)の比較では,全ての項目において有意差は認めなかった。DVT発症群(n=15)/非発症群(n=31)の比較では,SCU入院日数が26.5±11.8日/14.8±7.6日と有意に長期化し,FIM得点は,転院時認知項目,退院時の総合計および運動項目において有意に低く,他の項目では有意差は認めなかった。
【考察】調査した3合併症のうち,肺炎が治療期間や最終転帰に影響していることが示唆された。肺炎予防対策として,早期離床や刺激入力により覚醒を向上させること,臥床期間には適切な体位交換により誤嚥を予防すること,および定期的な口腔ケアが必要である。また,肺炎の症状を認める時期には,安定した呼吸状態が得られるポジショニングや体位ドレナージを行い,肺炎の寛解・治癒後においては誤嚥に留意しながら可及的早期に離床を進めていく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】発症後早期における合併症発症と,最終転帰との関連性が明らかとなり,臨床における予後予測や合併症予防対策の一助となる。