[P3-B-1047] 入院期における脳卒中片麻痺者の階段昇降の可否を決定づける因子の検討
キーワード:階段昇降, バランス, 脳血管疾患
【はじめに,目的】
理学療法の治療目標の一つである歩行動作の獲得の可否は,その後の転帰先を大きく左右するため,動作の判定だけでなく的確な予測が求められている。近年,脳卒中片麻痺者の歩行動作の獲得を決定づける因子の検討が数多くなされている一方で,自立性や実用性を判定する時期や環境(条件)が研究者間で大きく異なることから,一定した見解が得られていない。さらに,応用歩行の一つである階段昇降の可否を決定づける因子については平地歩行に比べて,その報告が極めて少ないのが現状である。そこで本研究は,入院期の片麻痺者の階段昇降動作に注目し,動作の判定時期を退院時,動作の環境を理学療法室内にある練習用の階段に限定して,階段昇降の可否を身体機能から予測可能かを検証した。
【方法】
2011年1月から2014年9月までの間に入院した片麻痺者のうち,理学療法が処方され,入院中に平地10m間の歩行が可能となった67例を調査対象とした。除外基準は,認知症を有する者,階段昇降の際に支障となる視覚障害を有する者とした。測定項目は,患者背景因子として年齢,性別,病型,発症からの期間(発症後期間)を診療録より調査した。さらに,退院時の身体機能として,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の総得点,等尺性膝伸展筋力(麻痺側,非麻痺側,体重比)およびFunctional Balance Scale(FBS)の総得点を測定し,退院時の階段昇降の可否(自立度)を判定した。階段昇降の環境は,理学療法室に設置してある練習用階段(4段:{蹴り上げ[高さ]18cm,踏み面[奥行]25cm},6段:[高さ]12cm,[奥行]27cm),手すりの高さ100cm,酒井医療{SPR-3100})とした。解析方法は,階段昇降が介助や見守りを必要とせず可能な群(自立群)とそれ以外(非自立群)の2群に分類し,患者背景因子と身体機能の差異を対応のないt検定とχ2検定を用いて検討した。また,階段昇降の自立度(2値)を判別する独立した因子を抽出する目的で,前述の2群間の差異の判定で有意な因子と認められた項目を独立因子をとした多重ロジスティック回帰分析を実施した。さらに,多重ロジスティック回帰分析において独立した因子が認められた場合,その因子を用いて階段昇降の自立度を判別するカットオフ値,カットオフ値から求められる感度,特異度および正診率をReceiver Operating Characteristics Curve(ROC曲線)を用いて算出した。なお,統計解析の有意水準は5%未満とした。
【結果】
解析対象者67例のうち,自立群は41例(年齢61.2±13.8歳,女性12例,脳出血20例,脳梗塞21例,発症後期間4.7±1.6ヶ月),非自立群は26例(年齢63.3±14.7歳,女性8例,脳出血14例,脳梗塞12例,発症後期間5.1±2.2ヶ月)であった。2群間の比較については,患者背景因子に有意な差異は認められなかった。一方,自立群の身体機能であるSIAS(63.2±10.4点),麻痺側の膝伸展筋力(31.1±16.8%)およびFBS(50.7±7.1点)は非自立群(SIAS{53.9±13.0点},麻痺側膝伸展筋力{20.2±17.9%},FBS{38.2±13.8点})に比べて有意に高値を示したが,非麻痺側の膝伸展筋力には有意な差は認められなかった。また,多重ロジスティック回帰分析の結果,FBS(Odds Ratio:1.129,95%信頼区間:1.031-1.231,P<0.01)のみが階段昇降の自立度を予測する独立した因子として抽出された。さらに,FBSを用いてROC曲線を求めた結果,階段昇降の可否を判定するFBSのカットオフ値は45.5点であり,感度0.81,特異度0.65,正診率0.74(陽性的中率0.77,陰性的中率0.71)であった。
【考察】
入院期の理学療法が施行されていた片麻痺者が,理学療法室内に設置してある練習用の階段の昇降可否を決定づける独立した因子としてFBSが認められた。片麻痺者の平地歩行の自立を予測する過去の研究調査においても,FBSならびにFBSの構成要素であるfunctional reachが認められたとする報告は多い。また,階段昇降自立を判別するカットオフ値として算出されたFBS 45点は,一般高齢者の転倒リスクを判別する値として採用されている点や,正診率が7割以上であったことからも,本研究の結果が妥当で汎用できる指標となり得ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の応用歩行を判断するにあたっては,実際に実施してその可否を判断することが多いが,判断する時期や目標動作に対する理学療法を積極的に展開する時期と方法は担当する理学療法士の経験に委ねられている。本研究の結果はこれらの理学療法をデータに基づいて展開していくための有用な情報となり得る。
理学療法の治療目標の一つである歩行動作の獲得の可否は,その後の転帰先を大きく左右するため,動作の判定だけでなく的確な予測が求められている。近年,脳卒中片麻痺者の歩行動作の獲得を決定づける因子の検討が数多くなされている一方で,自立性や実用性を判定する時期や環境(条件)が研究者間で大きく異なることから,一定した見解が得られていない。さらに,応用歩行の一つである階段昇降の可否を決定づける因子については平地歩行に比べて,その報告が極めて少ないのが現状である。そこで本研究は,入院期の片麻痺者の階段昇降動作に注目し,動作の判定時期を退院時,動作の環境を理学療法室内にある練習用の階段に限定して,階段昇降の可否を身体機能から予測可能かを検証した。
【方法】
2011年1月から2014年9月までの間に入院した片麻痺者のうち,理学療法が処方され,入院中に平地10m間の歩行が可能となった67例を調査対象とした。除外基準は,認知症を有する者,階段昇降の際に支障となる視覚障害を有する者とした。測定項目は,患者背景因子として年齢,性別,病型,発症からの期間(発症後期間)を診療録より調査した。さらに,退院時の身体機能として,Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の総得点,等尺性膝伸展筋力(麻痺側,非麻痺側,体重比)およびFunctional Balance Scale(FBS)の総得点を測定し,退院時の階段昇降の可否(自立度)を判定した。階段昇降の環境は,理学療法室に設置してある練習用階段(4段:{蹴り上げ[高さ]18cm,踏み面[奥行]25cm},6段:[高さ]12cm,[奥行]27cm),手すりの高さ100cm,酒井医療{SPR-3100})とした。解析方法は,階段昇降が介助や見守りを必要とせず可能な群(自立群)とそれ以外(非自立群)の2群に分類し,患者背景因子と身体機能の差異を対応のないt検定とχ2検定を用いて検討した。また,階段昇降の自立度(2値)を判別する独立した因子を抽出する目的で,前述の2群間の差異の判定で有意な因子と認められた項目を独立因子をとした多重ロジスティック回帰分析を実施した。さらに,多重ロジスティック回帰分析において独立した因子が認められた場合,その因子を用いて階段昇降の自立度を判別するカットオフ値,カットオフ値から求められる感度,特異度および正診率をReceiver Operating Characteristics Curve(ROC曲線)を用いて算出した。なお,統計解析の有意水準は5%未満とした。
【結果】
解析対象者67例のうち,自立群は41例(年齢61.2±13.8歳,女性12例,脳出血20例,脳梗塞21例,発症後期間4.7±1.6ヶ月),非自立群は26例(年齢63.3±14.7歳,女性8例,脳出血14例,脳梗塞12例,発症後期間5.1±2.2ヶ月)であった。2群間の比較については,患者背景因子に有意な差異は認められなかった。一方,自立群の身体機能であるSIAS(63.2±10.4点),麻痺側の膝伸展筋力(31.1±16.8%)およびFBS(50.7±7.1点)は非自立群(SIAS{53.9±13.0点},麻痺側膝伸展筋力{20.2±17.9%},FBS{38.2±13.8点})に比べて有意に高値を示したが,非麻痺側の膝伸展筋力には有意な差は認められなかった。また,多重ロジスティック回帰分析の結果,FBS(Odds Ratio:1.129,95%信頼区間:1.031-1.231,P<0.01)のみが階段昇降の自立度を予測する独立した因子として抽出された。さらに,FBSを用いてROC曲線を求めた結果,階段昇降の可否を判定するFBSのカットオフ値は45.5点であり,感度0.81,特異度0.65,正診率0.74(陽性的中率0.77,陰性的中率0.71)であった。
【考察】
入院期の理学療法が施行されていた片麻痺者が,理学療法室内に設置してある練習用の階段の昇降可否を決定づける独立した因子としてFBSが認められた。片麻痺者の平地歩行の自立を予測する過去の研究調査においても,FBSならびにFBSの構成要素であるfunctional reachが認められたとする報告は多い。また,階段昇降自立を判別するカットオフ値として算出されたFBS 45点は,一般高齢者の転倒リスクを判別する値として採用されている点や,正診率が7割以上であったことからも,本研究の結果が妥当で汎用できる指標となり得ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の応用歩行を判断するにあたっては,実際に実施してその可否を判断することが多いが,判断する時期や目標動作に対する理学療法を積極的に展開する時期と方法は担当する理学療法士の経験に委ねられている。本研究の結果はこれらの理学療法をデータに基づいて展開していくための有用な情報となり得る。