[P3-B-1053] 脳卒中片麻痺患者の麻痺側手指皮膚温および周径に影響を与える因子の検討
Keywords:片麻痺, 手指皮膚温, 手指周径
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺(以下,片麻痺)患者では,しばしば麻痺側上肢の複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)を認める。CRPSを発症する片麻痺例では,急性期から回復期の段階でCRPSの発症に先行した麻痺側手指皮膚温の上昇や麻痺側手指の浮腫を認めることが多く,麻痺側手指皮膚温や周径はCRPS発症の予測指標になり得ると指摘されている。しかしながら,麻痺側手指皮膚温上昇,及び手指周径増加の原因については十分な検討がなされておらず,複数要因の関与も予想される。そこで本研究では,片麻痺患者の麻痺側手指皮膚温,及び麻痺側手指周径に影響を及ぼす関連因子について検討することを目的とした。
【方法】
当センター回復期病棟に入院した患者で,本研究への参加に同意を得た重篤な末梢循環障害が無い初発の片麻痺患者63名(男性38名,女性23名,平均年齢66.6歳,発症からの期間90.0日,脳梗塞29例,脳出血30例,くも膜下出血2例)を対象とした。評価項目として,麻痺側および非麻痺側手指皮膚温(中指指尖部),麻痺側手指周径(中指)に加えて,基礎情報として手指運動麻痺の重症度を示すBrunnstrom stage(以下,手指Br.st)および感覚障害の重症度をStroke Impairment Assessment Setにおける上肢触覚項目の得点(以下,感覚障害),半側空間無視検査であるBehavioural Inattention Testの得点(以下,BIT),認知症検査であるMini-Mental State Examinationの得点(以下,MMSE)を評価した。統計学的分析では,第一に麻痺側と非麻痺側での手指皮膚温の差を対応のないt検定で比較した。次に,麻痺側と非麻痺側の手指皮膚温の比率(以下,皮膚温患健比)を算出し,基礎情報4項目との間のSpearmanの順位相関係数の検定を用いて検討した。さらに,麻痺側手指皮膚温,及び手指周径に影響を及ぼす因子を抽出するために,すべての基礎情報項目を独立変数,皮膚温患健比,及び手指周径患健比を独立変数とし,stepwise重回帰分析を実施した。全ての統計学的分析の有意水準は5%未満とした。
【結果】
麻痺側および非麻痺側手指皮膚温の平均値はそれぞれ33.4±1.9℃,32.5±2.1℃であり,麻痺側での有意な上昇を認めた。麻痺側および非麻痺側手指周径の平均値はそれぞれ6.17cm,5.67cmであり,麻痺側での有意な増加を認めた。手指皮膚温患健比については,Spearmanの順位相関係数の検定の結果,BITを除く全ての基礎情報項目との間に有意な相関を認めた(相関係数:手指Br.;-0.43,感覚障害;-0.36,MMSE;-0.29)。次に有意な相関を認めた基礎情報項目を独立変数としてstepwise重回帰分析の結果,麻痺側手指皮膚温を上昇させる関連因子として手指Br.st(β=-0.32),MMSE(β=-0.22)が抽出され,決定係数は0.18であった。一方,手指周径患健比については,Spearmanの順位相関係数の検定の結果,全ての基礎情報項目との間に有意な相関を認められなかった。
【考察】
麻痺側手指皮膚温の上昇が認められ,この背景にはSpearmanの順位相関係数の検定の結果から手指Br.stと感覚障害,MMSEとの関係が示唆された。また,stepwise重回帰分析の結果,麻痺側手指皮膚温を上昇させる因子として手指Br.stとMMSEが選択された。これに関しては,運動麻痺が重度である症例では,筋緊張異常などに起因した肩関節亜脱臼を有することが多く,肩関節周囲炎を生じ皮膚温が上昇する可能性が考えられる。また認知機能の低下により麻痺側上肢の管理が不十分となり,筋や腱板の損傷により炎症所見を生じるよるものではないかと考えられる。これまで,浮腫の生じる要因として運動麻痺によって麻痺側上肢の筋活動が低下することで,筋のポンプ作用の低下などが指摘されてきた。しかし,本研究では非麻痺側と比較し,麻痺側手指での周径の増加が認められたが,麻痺側手指周径患健比と運動麻痺の重症度などとの基礎情報項目との間に有意な相関関係は認められなかった。このことについては,運動麻痺の重症度によらず浮腫を生じ,皮膚温の上昇とは異なる発生機序をたどることが示唆された。今後は麻痺側手指における皮膚温や周径に影響を及ぼす別の関連因子の検討と,発症時期を統一した上での縦断的な検討が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,片麻痺患者において麻痺側手指皮膚温の上昇と浮腫が生じることが示唆された。これは片麻痺患者におけるCRPSや拘縮予防やなどのリスク管理に対する方策を検討する上で極めて意義深いと考える。
脳卒中片麻痺(以下,片麻痺)患者では,しばしば麻痺側上肢の複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)を認める。CRPSを発症する片麻痺例では,急性期から回復期の段階でCRPSの発症に先行した麻痺側手指皮膚温の上昇や麻痺側手指の浮腫を認めることが多く,麻痺側手指皮膚温や周径はCRPS発症の予測指標になり得ると指摘されている。しかしながら,麻痺側手指皮膚温上昇,及び手指周径増加の原因については十分な検討がなされておらず,複数要因の関与も予想される。そこで本研究では,片麻痺患者の麻痺側手指皮膚温,及び麻痺側手指周径に影響を及ぼす関連因子について検討することを目的とした。
【方法】
当センター回復期病棟に入院した患者で,本研究への参加に同意を得た重篤な末梢循環障害が無い初発の片麻痺患者63名(男性38名,女性23名,平均年齢66.6歳,発症からの期間90.0日,脳梗塞29例,脳出血30例,くも膜下出血2例)を対象とした。評価項目として,麻痺側および非麻痺側手指皮膚温(中指指尖部),麻痺側手指周径(中指)に加えて,基礎情報として手指運動麻痺の重症度を示すBrunnstrom stage(以下,手指Br.st)および感覚障害の重症度をStroke Impairment Assessment Setにおける上肢触覚項目の得点(以下,感覚障害),半側空間無視検査であるBehavioural Inattention Testの得点(以下,BIT),認知症検査であるMini-Mental State Examinationの得点(以下,MMSE)を評価した。統計学的分析では,第一に麻痺側と非麻痺側での手指皮膚温の差を対応のないt検定で比較した。次に,麻痺側と非麻痺側の手指皮膚温の比率(以下,皮膚温患健比)を算出し,基礎情報4項目との間のSpearmanの順位相関係数の検定を用いて検討した。さらに,麻痺側手指皮膚温,及び手指周径に影響を及ぼす因子を抽出するために,すべての基礎情報項目を独立変数,皮膚温患健比,及び手指周径患健比を独立変数とし,stepwise重回帰分析を実施した。全ての統計学的分析の有意水準は5%未満とした。
【結果】
麻痺側および非麻痺側手指皮膚温の平均値はそれぞれ33.4±1.9℃,32.5±2.1℃であり,麻痺側での有意な上昇を認めた。麻痺側および非麻痺側手指周径の平均値はそれぞれ6.17cm,5.67cmであり,麻痺側での有意な増加を認めた。手指皮膚温患健比については,Spearmanの順位相関係数の検定の結果,BITを除く全ての基礎情報項目との間に有意な相関を認めた(相関係数:手指Br.;-0.43,感覚障害;-0.36,MMSE;-0.29)。次に有意な相関を認めた基礎情報項目を独立変数としてstepwise重回帰分析の結果,麻痺側手指皮膚温を上昇させる関連因子として手指Br.st(β=-0.32),MMSE(β=-0.22)が抽出され,決定係数は0.18であった。一方,手指周径患健比については,Spearmanの順位相関係数の検定の結果,全ての基礎情報項目との間に有意な相関を認められなかった。
【考察】
麻痺側手指皮膚温の上昇が認められ,この背景にはSpearmanの順位相関係数の検定の結果から手指Br.stと感覚障害,MMSEとの関係が示唆された。また,stepwise重回帰分析の結果,麻痺側手指皮膚温を上昇させる因子として手指Br.stとMMSEが選択された。これに関しては,運動麻痺が重度である症例では,筋緊張異常などに起因した肩関節亜脱臼を有することが多く,肩関節周囲炎を生じ皮膚温が上昇する可能性が考えられる。また認知機能の低下により麻痺側上肢の管理が不十分となり,筋や腱板の損傷により炎症所見を生じるよるものではないかと考えられる。これまで,浮腫の生じる要因として運動麻痺によって麻痺側上肢の筋活動が低下することで,筋のポンプ作用の低下などが指摘されてきた。しかし,本研究では非麻痺側と比較し,麻痺側手指での周径の増加が認められたが,麻痺側手指周径患健比と運動麻痺の重症度などとの基礎情報項目との間に有意な相関関係は認められなかった。このことについては,運動麻痺の重症度によらず浮腫を生じ,皮膚温の上昇とは異なる発生機序をたどることが示唆された。今後は麻痺側手指における皮膚温や周径に影響を及ぼす別の関連因子の検討と,発症時期を統一した上での縦断的な検討が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,片麻痺患者において麻痺側手指皮膚温の上昇と浮腫が生じることが示唆された。これは片麻痺患者におけるCRPSや拘縮予防やなどのリスク管理に対する方策を検討する上で極めて意義深いと考える。