[P3-B-1057] 維持期片麻痺患者に対する横歩きと後ろ歩き練習によるパフォーマンスの経時的な変化について
3症例のABデザインによる4週間の経時的変化
キーワード:片麻痺患者, 横歩き, 後ろ歩き
【はじめに,目的】
維持期片麻痺患者に対する課題指向型アプローチの目的は多様な環境や生活場面に適応できるよう実践的な動作能力を向上することである。片麻痺患者では多方向へのステップ動作の安定が転倒を回避するために重要である。日常生活場面の移動では前方に進むだけでなく,物をよける,方向を変るなど横歩きや後ろ歩きを伴うことがある。これに対し,理学療法では横歩きや後ろ歩き練習を行うことがある。今回,維持期片麻痺患者3症例に対して横歩きと後ろ歩き練習を4週間実施し,前後でのパフォーマンスの経時的変化を調査したので報告する。
【方法】
対象は当施設を利用した片麻痺患者3名。対象者A 女性,60歳代,左被殻出血,右片麻痺,発症後5年,SIAS39点,歩行は杖使用,下肢装具使用で見守りレベル,普段の移動は車椅子使用。対象者B 男性,60歳代,右被殻出血,左片麻痺,発症後3年,SIAS45点,歩行は杖,下肢装具使用で自立レベル。対象者C 女性,80歳代,脳幹梗塞,右片麻痺,発症後2年,SIAS 66点,歩行は杖使用,装具無しで自立レベル。介入は4週間,週2回,通常の理学療法に加え,麻痺側,非麻痺側方向への横歩き5mを各6セット,後ろ歩き5mを4セット実施した。測定項目は麻痺側への横歩き,非麻痺側への横歩き,後ろ歩きの3項目について5mの最適歩行速度を測定した。それぞれ,2回測定し秒数の少ない方を採用した。また,5m最大歩行速度と両側下肢の膝伸展筋力を測定した。測定時期は基礎水準測定期として介入前4週間と前2週間そして,操作導入期として介入開始後2週間,後4週間の時期に測定した。
【結果】
以下,介入前4週間,前2週間,介入後2週間,介入後4週間の順に結果を表記する。対象者Aでは麻痺側横歩き(秒)では53.4,31.4,29.2,29.6,非麻痺側横歩き(秒)では58.0,45.3,43.0,43.6,後ろ歩き(秒)では49.0,55.6,35.6,33.8であった。対象者Bでは麻痺側横歩きは18.3,21.1,18.1,26.9,非麻痺側横歩きは17.7,19.0,19.7,18.7,後ろ歩きでは22.6,25.1,23.7,25.2であった。対象者Cは麻痺側横歩きでは31.0,26.8,29.5,31.9,非麻痺側横歩きは29.4,22.0,22.7,26.4,後ろ歩きでは21.7,37.5,39.2,42.4であった。膝伸展トルク,5m歩行は全対象者で特徴的な変化はなかった。
【考察】
各対象者は発症後数年経過しており,麻痺側の身体機能の著明な変化は生じにくいため,横歩きや後ろ歩きの動作練習によるパフォーマンスの変化は麻痺側と非麻痺側下肢間での重心のコントロールや体幹と下肢の運動連鎖を制御するスキルの習得が影響したと考える。対象者Aは麻痺側横歩き非麻痺側横歩き,後ろ歩きのすべての結果で最適速度が著明に短縮した。しかし,対象者B,Cの横歩き,後ろ歩きでは目立った変化は無かった。対象者AとB,Cとの違いは日常生活の中で歩行しているか否かである。対象者B,Cでは歩行自立レベルであり,横歩き,後ろ歩きに対応する高いスキルを持っていたといえる。一方,対象者Aでは日常は車椅子を使用しており,横歩き,後ろ歩きは普段実施しない動作であるため,歩行に対応するスキルが低く,普段の生活で行っていない動作課題を練習したことでパフォーマンスが課題特異的に向上したと考える。今回の結果より,横歩き,後ろ歩きの動作練習によるパフォーマンス変化の程度は個々の生活環境や残存能力による個人差が影響するため,個々に適した課題の難易度の設定が重要といえる。前方への歩行に比較し,横歩き,後ろ歩きは重心コントロールや姿勢制御において全く異なった課題であるが,日常生活場面では複合的に実施する重要な動作であり,今後,その練習方法の検討や効果の検証がさらに必要である。
【理学療法学研究としての意義】
維持期片麻痺患者において,日常生活の様々な場面に転倒なく対応する為には多様な課題と可変的な練習がパフォーマンスを最適化するために重要である。横歩きや後ろ歩き練習の実施と効果についても今後さらなる調査が必要である。
維持期片麻痺患者に対する課題指向型アプローチの目的は多様な環境や生活場面に適応できるよう実践的な動作能力を向上することである。片麻痺患者では多方向へのステップ動作の安定が転倒を回避するために重要である。日常生活場面の移動では前方に進むだけでなく,物をよける,方向を変るなど横歩きや後ろ歩きを伴うことがある。これに対し,理学療法では横歩きや後ろ歩き練習を行うことがある。今回,維持期片麻痺患者3症例に対して横歩きと後ろ歩き練習を4週間実施し,前後でのパフォーマンスの経時的変化を調査したので報告する。
【方法】
対象は当施設を利用した片麻痺患者3名。対象者A 女性,60歳代,左被殻出血,右片麻痺,発症後5年,SIAS39点,歩行は杖使用,下肢装具使用で見守りレベル,普段の移動は車椅子使用。対象者B 男性,60歳代,右被殻出血,左片麻痺,発症後3年,SIAS45点,歩行は杖,下肢装具使用で自立レベル。対象者C 女性,80歳代,脳幹梗塞,右片麻痺,発症後2年,SIAS 66点,歩行は杖使用,装具無しで自立レベル。介入は4週間,週2回,通常の理学療法に加え,麻痺側,非麻痺側方向への横歩き5mを各6セット,後ろ歩き5mを4セット実施した。測定項目は麻痺側への横歩き,非麻痺側への横歩き,後ろ歩きの3項目について5mの最適歩行速度を測定した。それぞれ,2回測定し秒数の少ない方を採用した。また,5m最大歩行速度と両側下肢の膝伸展筋力を測定した。測定時期は基礎水準測定期として介入前4週間と前2週間そして,操作導入期として介入開始後2週間,後4週間の時期に測定した。
【結果】
以下,介入前4週間,前2週間,介入後2週間,介入後4週間の順に結果を表記する。対象者Aでは麻痺側横歩き(秒)では53.4,31.4,29.2,29.6,非麻痺側横歩き(秒)では58.0,45.3,43.0,43.6,後ろ歩き(秒)では49.0,55.6,35.6,33.8であった。対象者Bでは麻痺側横歩きは18.3,21.1,18.1,26.9,非麻痺側横歩きは17.7,19.0,19.7,18.7,後ろ歩きでは22.6,25.1,23.7,25.2であった。対象者Cは麻痺側横歩きでは31.0,26.8,29.5,31.9,非麻痺側横歩きは29.4,22.0,22.7,26.4,後ろ歩きでは21.7,37.5,39.2,42.4であった。膝伸展トルク,5m歩行は全対象者で特徴的な変化はなかった。
【考察】
各対象者は発症後数年経過しており,麻痺側の身体機能の著明な変化は生じにくいため,横歩きや後ろ歩きの動作練習によるパフォーマンスの変化は麻痺側と非麻痺側下肢間での重心のコントロールや体幹と下肢の運動連鎖を制御するスキルの習得が影響したと考える。対象者Aは麻痺側横歩き非麻痺側横歩き,後ろ歩きのすべての結果で最適速度が著明に短縮した。しかし,対象者B,Cの横歩き,後ろ歩きでは目立った変化は無かった。対象者AとB,Cとの違いは日常生活の中で歩行しているか否かである。対象者B,Cでは歩行自立レベルであり,横歩き,後ろ歩きに対応する高いスキルを持っていたといえる。一方,対象者Aでは日常は車椅子を使用しており,横歩き,後ろ歩きは普段実施しない動作であるため,歩行に対応するスキルが低く,普段の生活で行っていない動作課題を練習したことでパフォーマンスが課題特異的に向上したと考える。今回の結果より,横歩き,後ろ歩きの動作練習によるパフォーマンス変化の程度は個々の生活環境や残存能力による個人差が影響するため,個々に適した課題の難易度の設定が重要といえる。前方への歩行に比較し,横歩き,後ろ歩きは重心コントロールや姿勢制御において全く異なった課題であるが,日常生活場面では複合的に実施する重要な動作であり,今後,その練習方法の検討や効果の検証がさらに必要である。
【理学療法学研究としての意義】
維持期片麻痺患者において,日常生活の様々な場面に転倒なく対応する為には多様な課題と可変的な練習がパフォーマンスを最適化するために重要である。横歩きや後ろ歩き練習の実施と効果についても今後さらなる調査が必要である。