第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

脳損傷理学療法12

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1060] 脳卒中患者の歩行における時間的左右対称性と歩容との関係について

奈川英美1,2, 対馬栄輝2, 石田水里3, 上川香織2,4, 原子由1, 岩田学1 (1.弘前脳卒中・リハビリテーションセンター, 2.弘前大学大学院保健学研究科, 3.鳴海病院リハビリテーション部, 4.弘前市立病院)

キーワード:脳卒中, 左右対称性, 歩容

【はじめに,目的】
歩行の左右対称性を獲得することが脳卒中患者に対する理学療法の要点と考えられている。特に歩行中の立脚時間,遊脚時間の左右対称性は,歩行速度や立位バランスとの関連がある(KK. Pattersonら,2010)。左右対称性は歩容を反映するといわれているが,具体的な関連は明らかではない。そこで本研究では,歩容評価表を用いて,脳卒中患者の歩行における時間的左右対称性と歩容評価表の合計点の関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
被検者は回復期病棟に入院する脳卒中患者19名(男性15名,平均年齢62.74±11.70歳)で,装具・補助具の使用を問わず近位監視~自立で20m以上歩行可能な者とした。被検者は発症から平均80.11±38.57日経過しており,下肢ブルンストロームステージ(Br.S)III7名,IV2名,V6名,VI4名であった。測定項目は,5mの距離を直線歩行させたときの平均立脚時間・遊脚時間,歩容とした。測定では,日常生活あるいは歩行練習時に使用している装具・補助具を使用させた。被検者に10m歩行路を快適歩行速度で1往復してもらい,中間5mの歩行を矢状面・前額面の2方向からデジタルスチルカメラ(CASIO社製EXFH100)で撮影した。撮影した動画をパソコンに取り込んだ後,動画解析ソフトSiliconcoach pro7(Siliconcoach社製Version7.0.2.2)を用い,歩行路5mでの全歩行周期について麻痺側,非麻痺側それぞれの立脚時間,遊脚時間を測定した。立脚時間は,足部接地から足尖離地まで,遊脚時間は足尖離地から足部接地までの時間とした。各立脚時間と遊脚時間の平均を求めた。次に,立脚時間と遊脚時間に対して,麻痺側時間を非麻痺側時間で除し,それぞれ立脚時間比,遊脚時間比を求めた。歩容は撮影したカメラ映像を観察し,事前に検者間信頼性を確認している(W=0.68~0.88)歩容評価表を用いて,2名の検査者で評価した。歩容評価表は,脳卒中患者に対して用いられるTinetti gait assessment,Wisconsin gait scale,Rivermead visual gait assessmentの3つを統合,一部改変し作成している。歩容評価表は,25項目で構成され,1項目の選択肢は2ないし3である。合計点は25~72点となり,点数が高いほど正常からの逸脱が多いと判断できる。観察項目は,初期接地期(IC)の膝関節/足接地,荷重応答期(LR)~立脚中期(MSt)での膝関節,MStでの体幹/骨盤/膝関節,立脚終期(TSt)での股関節/足関節/慎重さ,麻痺側の立脚時間,麻痺側への重心移動量,遊脚初期(ISw)~遊脚中期(MSw)での膝関節,ISwでの外旋,MSw~遊脚終期(TSw)の体幹(前後・側方)/骨盤挙上/分回し/足関節/非麻痺側への重心移動量,TSwでの骨盤,非麻痺側/麻痺側の歩幅,麻痺側のクリアランス,杖の使用,歩隔とした。立脚時間比,遊脚時間比と歩容評価表合計点の関係をピアソンの相関係数で求めた。有意水準は5%とした。
【結果】
各変数の平均±標準偏差は,立脚時間比0.90±0.08,遊脚時間比1.45±0.50,歩容評価表合計点37.10±8.11であった。立脚時間比,遊脚時間比と歩容評価表の合計点に相関関係が認められ,順にr=-0.78(95%信頼区間;-0.91~-0.51),0.87(0.67~0.95)であった(ともにp<0.05)。
【考察】
歩容評価表の合計点は,時間的左右対称性と高い相関関係が認められた。遊脚時間比において,立脚時間比よりも高い相関を示した。非対称性を示す症例は,クリアランスの低下やMSwでの骨盤挙上といった代償動作が認められ,麻痺側の遊脚時間の延長が認められた。立脚時間に比べ,遊脚時間のばらつきが大きく,歩容評価表の合計点とより高い相関を示したと考える。本研究により,時間的左右対称性は,総合的な歩容評価表を用いた合計点を利用し代替的に評価できる可能性がある。一方で,時間的左右対称性は,歩容を反映した評価指標であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
歩容評価表を用いることで,歩行観察が客観的な歩行評価となり得る。歩行観察は特別な機器を必要としない為,場所を選ばずに利用でき,研究分野のみならず臨床においても有用な評価として利用できる。