第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター3

予防理学療法5

Sun. Jun 7, 2015 10:50 AM - 11:50 AM ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1077] 高齢者の歩行パラメータと筋力発生率の関連について

淵岡聡, 岩田晃, 樋口由美, 小栢進也 (大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

Keywords:高齢者, 歩行, 筋力発生率

【目的】
歩行は日常生活を送る上で必要不可欠な基本的動作であり,特に高齢者の歩行速度は,ADL能力や転倒発生率,生活自立度,さらに生命予後等との関連が報告されている。一般に歩行速度はケイデンスや歩幅によって規定され,下肢の関節可動域や筋力との関連について数多くの研究報告がなされている。一方,筋機能に関する研究では,筋力のような量的指標のみではなく,筋の出力特性を質的に評価する方法の一つとして,筋力発揮の立ち上がりの早さの指標であるRFD(rate of force development:筋力発生率)が用いられる。RFDは最大等尺性筋力をその発生までに要した時間で除した値で示されるが,そもそも最大筋力との相関が高く,質的評価指標として適切でない場合がある。
本研究ではRFDの概念を準用した,筋力発揮のごく初期段階の筋力発生率(early RFD)に着目し,高齢者の歩行パラメータとの関連を検討することを目的とした。

【方法】
地域在住高齢者の健康増進に資することを目的に,我々が毎年開催している身体機能測定会(自分の身体を測定する会)への参加者を対象とした。
本研究で使用した測定項目は身体属性として身長,体重,筋機能として膝伸展筋力体重比(角速度60°/secの等速性最大筋力を体重で除した値:ISOK,屈曲90°位での等尺性最大筋力を体重で除した値:ISOM,単位:Nm/kg),等尺性筋力測定時のearly RFDとした。等尺性筋力は「できるだけ早く強く力を入れる」よう指示し,数回の練習の後に測定した。early RFDは等尺性筋力が最大値を示した力-時間曲線を抽出し,筋力発生から50msec後と100msec後の筋力を,体重と時間で除し,1秒あたりの筋力発生率として算出した:RFD50,RFD100(単位:Nm/kg/sec)。なお,筋力発生は5Nm以上の筋力が検出された時点とした。
歩行パラメータは,光学式歩行分析装置(OPTOJUMP NEXT,伊MICROGAIT社製)を10m歩行路の中間5mに設置し,通常歩行をそれぞれ2回ずつ計測し,歩行速度(最速値),ストライド長(平均値),ケイデンス(平均値)を算出した。
各項目の関連は,Pearsonの積率相関係数を算出して比較検討した。統計解析にはJMP11を用い,有意確率は5%未満とした。

【結果】
測定会参加者122名のうち,65歳未満の9名と筋力もしくは歩行の計測を完遂できなかった13名を除いた100名(男29名,女71名)を解析対象とした。測定結果の平均値と標準偏差を以下に示す。対象者属性は,年齢75.0±5.1歳,身長154.4±7.6cm,体重51.4±8.1kg,BMI 21.5±2.8であった。筋機能は,ISOK 1.64±0.37,ISOM 1.80±0.48,RFD50 6.51±3.34,RFD100 5.57±2.70であった。歩行パラメータは,歩行速度1.49±0.19m/s,ストライド長131.18±13.67cm,ケイデンス129.47±8.73歩/分であった。
歩行速度とストライド長は筋力との間に有意な相関を認めた。early RFDと歩行パラメータとの関係は,RFD50とケイデンス(r=-0.23,p<0.05),ストライド長(r=0.28,p<0.01)に,RFD100とストライド長(r=0.37,p<0.01)にそれぞれ有意な相関が見られた。

【考察】
高齢者おける歩行と筋力の関連はこれまでの知見と一致する結果であったが,ケイデンスは筋力との有意な関連が見られなかった。また,early RFDは歩行速度との有意な関連を認めず,ストライド長と正の相関があり,RFD50がケイデンスと負の相関を示した。
ケイデンスは左右の下肢を交互に振り出す頻度であり,単位時間あたりの左右への重心移動の反復回数とみなすことができる。今回の結果は,歩行速度に関わらず,early RFDが高いほどストライド長が大きく,側方重心動揺頻度が少ないことを示していた。歩行時の側方への重心動揺頻度は歩行の安定性向上に不可欠な要素であり,early RFDの向上により歩行能力を改善できる可能性が示唆された。本研究では側方重心移動幅の計測を行っていないため,今後は歩行時の重心移動に関する様々なパラメータとケイデンスの関連についてより詳細な分析を加えることで,early RFDと歩行能力との関連をさらに明確にし,介入方法への応用を念頭に検証を重ねる必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
高齢者における歩行の安定性向上を目指す場合,筋力発揮の初期段階における筋力発生率(early RFD)に着目することが,効果的な介入手段の開発に繋がる可能性を示した点。