[P3-B-1092] 半側空間無視患者の移動手段としての電動車いすの設定とトレーニングの効果
キーワード:電動車いす, 半側空間無視, 移動
【はじめに,目的】
歩行困難な片麻痺患者の移動手段としては車いすが考慮されるが,半側空間無視を有する場合には無視空間への注意が欠落し事故を生じる危険性から実生活での使用は躊躇され,もっぱら介助による移動とが選択される。運動麻痺や半側空間無視を回復させなければ患者の自由な移動を獲得させることができないと判断されやすいが,車いすの環境設定と操作の適切なトレーニングにより問題を解決させることについて十分な検討はなされていない。そこで我々は,半側空間無視例に対して電動車いすの操作レバー配置を工夫しトレーニングすることにより,移動がどの程度自立して行えることができるようになるかを検証することにした。
【方法】
対象は急性期片麻痺5例(年齢60-84歳,全例右利き)で,机上検査により無視を認めた3例(いずれも左無視,重症度は重度,中等度,軽度)と無視を認めなかった2例(左麻痺1例,右麻痺1例)とした。取込み基準は車いす自走操作経験がないこととし,除外基準は,課題理解が不十分,座位姿勢が不安定で車いす乗車姿勢が保てないこととした。トレーニングは電動車いす操作レバーを,通常の非無視(非麻痺)側に設置した場合と,無視(麻痺)と反対に設置した場合とで,1日5分間,5日間の操作練習(障害物のない室内自由走行,障害物を避ける規定走行)を行った。トレーニング効果の検証には,実験空間での障害物回避走行とした。6m×8mの明るい室内空間で,スタート地点から4m前方に左右2m離れた目印(コーン)を配置し,対象者は2つの目印の間を通過した後,指定された一方の目印を回ってスタート地点に戻ることとした。測定は左旋回,右旋回を各1回ずつとし,コーンへの衝突の有無およびスタートからゴールまでの所要時間を測定した。電動車いすは最も低速(1.6km/h)で設定し,またコーンや壁に衝突しても怪我のないように環境設定した。測定は各々のレバー設置位置でトレーニング開始前と終了後の2回行い,トレーニングのインターバルは2日間とした。
【結果】
トレーニング開始前では,麻痺(無視)側旋回において無視を有するものは無視がないものよりスタートから2つの目印間通過の時間(それぞれ32.1/9.8/9.4と9.2/8.6,秒)およびゴール通過の時間(98.6/34.1/32.1と31.7/30.8,秒)が有意に延長していた(P<.05))。2つのコーンを通過する時点での車いすコーンとの距離は,無視を有する群が無視(麻痺)側への回旋において有意に大きかった(120.0/107.7/55.8と29.6/11.4,cm)一方で,麻痺(無視)側旋回後に無視を有する2例に回旋中にコーンへの接触がみられた。同例では,旋回中は右側に視線が向き,身体左側にある目印を見ていないのが観察された。トレーニング後の再測定時では,無視を有する例で所要時間が短縮し,2つのコーンの間を通過する際の麻痺側のコーンと車いすとの距離が短縮し,無視なし群と同等まで改善した。さらに衝突がなくなった。一方,非無視(非麻痺)側に操作レバーを設置してのトレーニングでは,操作の改善が得られなかった。
【考察】
操作レバーを通常の非無視側(非麻痺側)ではなく無視側に設置したことにより,無視を有する片麻痺患者でも無視を有さないものと同等に,障害物への衝突を回避しながら車いすを操作できるようになる可能性が示唆された。その効果機序としては半側空間無視へのこれまでの介入研究成果から,無視側への体幹回旋姿勢と無視空間での上肢操作が考えられた。これに,移動手段として手動式ではなく電動式の車いすを選択したこと,5日間の連続トレーニングを行ったこと,の工夫が影響した可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
半側空間無視を有すると移動手段の自立に難渋することが言われているが,車いすの環境やトレーニング方法の工夫により移動を自立できる可能性が示唆された。
歩行困難な片麻痺患者の移動手段としては車いすが考慮されるが,半側空間無視を有する場合には無視空間への注意が欠落し事故を生じる危険性から実生活での使用は躊躇され,もっぱら介助による移動とが選択される。運動麻痺や半側空間無視を回復させなければ患者の自由な移動を獲得させることができないと判断されやすいが,車いすの環境設定と操作の適切なトレーニングにより問題を解決させることについて十分な検討はなされていない。そこで我々は,半側空間無視例に対して電動車いすの操作レバー配置を工夫しトレーニングすることにより,移動がどの程度自立して行えることができるようになるかを検証することにした。
【方法】
対象は急性期片麻痺5例(年齢60-84歳,全例右利き)で,机上検査により無視を認めた3例(いずれも左無視,重症度は重度,中等度,軽度)と無視を認めなかった2例(左麻痺1例,右麻痺1例)とした。取込み基準は車いす自走操作経験がないこととし,除外基準は,課題理解が不十分,座位姿勢が不安定で車いす乗車姿勢が保てないこととした。トレーニングは電動車いす操作レバーを,通常の非無視(非麻痺)側に設置した場合と,無視(麻痺)と反対に設置した場合とで,1日5分間,5日間の操作練習(障害物のない室内自由走行,障害物を避ける規定走行)を行った。トレーニング効果の検証には,実験空間での障害物回避走行とした。6m×8mの明るい室内空間で,スタート地点から4m前方に左右2m離れた目印(コーン)を配置し,対象者は2つの目印の間を通過した後,指定された一方の目印を回ってスタート地点に戻ることとした。測定は左旋回,右旋回を各1回ずつとし,コーンへの衝突の有無およびスタートからゴールまでの所要時間を測定した。電動車いすは最も低速(1.6km/h)で設定し,またコーンや壁に衝突しても怪我のないように環境設定した。測定は各々のレバー設置位置でトレーニング開始前と終了後の2回行い,トレーニングのインターバルは2日間とした。
【結果】
トレーニング開始前では,麻痺(無視)側旋回において無視を有するものは無視がないものよりスタートから2つの目印間通過の時間(それぞれ32.1/9.8/9.4と9.2/8.6,秒)およびゴール通過の時間(98.6/34.1/32.1と31.7/30.8,秒)が有意に延長していた(P<.05))。2つのコーンを通過する時点での車いすコーンとの距離は,無視を有する群が無視(麻痺)側への回旋において有意に大きかった(120.0/107.7/55.8と29.6/11.4,cm)一方で,麻痺(無視)側旋回後に無視を有する2例に回旋中にコーンへの接触がみられた。同例では,旋回中は右側に視線が向き,身体左側にある目印を見ていないのが観察された。トレーニング後の再測定時では,無視を有する例で所要時間が短縮し,2つのコーンの間を通過する際の麻痺側のコーンと車いすとの距離が短縮し,無視なし群と同等まで改善した。さらに衝突がなくなった。一方,非無視(非麻痺)側に操作レバーを設置してのトレーニングでは,操作の改善が得られなかった。
【考察】
操作レバーを通常の非無視側(非麻痺側)ではなく無視側に設置したことにより,無視を有する片麻痺患者でも無視を有さないものと同等に,障害物への衝突を回避しながら車いすを操作できるようになる可能性が示唆された。その効果機序としては半側空間無視へのこれまでの介入研究成果から,無視側への体幹回旋姿勢と無視空間での上肢操作が考えられた。これに,移動手段として手動式ではなく電動式の車いすを選択したこと,5日間の連続トレーニングを行ったこと,の工夫が影響した可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
半側空間無視を有すると移動手段の自立に難渋することが言われているが,車いすの環境やトレーニング方法の工夫により移動を自立できる可能性が示唆された。