第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター3

代謝 がん

2015年6月7日(日) 10:50 〜 11:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P3-B-1111] 消化器外科患者の周術期における体力低下に影響する要因

身体組成の変化による検討

矢部広樹1, 大森彩乃1, 伊藤沙夜香1, 渡井陽子1, 寺下幸夫2 (1.医療法人偕行会名古屋共立病院リハビリテーション課, 2.医療法人偕行会名古屋共立病院消化器外科)

キーワード:消化器外科手術後, 身体組成, 体脂肪率

【はじめに,目的】
近年,がん患者数の増加に伴い,がん患者の身体運動機能に対するリハビリテーションが注目されている。特に消化器外科の周術期において,患者の体力は低下し,退院後に回復することが報告されている。術後の体力低下は術後在院日数と関連があるため,消化器外科手術後のリハビリテーションでは,早期離床による術後合併症の予防に加え,術後の体力低下を抑え,早期に改善させる必要があると考えられる。しかし,周術期の体力低下とその後の回復に影響する要因は明らかになっていない。本研究の目的は,消化器外科周術期の患者における体力低下の要因について,身体組成の変化から明らかにし,周術期の体力低下に対する効果的なリハビリテーションの方法について言及することである。
【方法】
対象は当院消化器外科にて開腹手術を行った患者27名(年齢78±8歳,BMI22.1±2.8kg/m2)。手術部位は,食道1例,胃6例,十二指腸2例,結腸13例(胃と同時手術2例含む),直腸2例,胆道4例,膵臓1例であった。術前,術後,および初回外来日(外来)のそれぞれで,6分間歩行距離(6 minute walk distance,6MD),体重,骨格筋指数(Skeletal muscle index,SMI),体脂肪率(Percent body fat, %BF)を測定した。SMIおよび%BFは,体組成測定器(BOCAx1,CLUB CREATE)による多周波インピーダンス解析により測定し,SMIは骨格筋量を身長の二乗で除して算出した。また術前から術後(術前後)と,術後から外来(退院後)にかけての各測定項目の減少及び増加率を算出した。統計学的検討して,各測定項目の測定時時期による経時変化を多重比較検定,術前後および退院後の6MDと測定項目の変化率の関係をピアソンの相関係数にて検討した。有意水準は全て危険率5%未満とした。
【結果】
術後在院日数の平均は16±7日であり,術後と外来評価はそれぞれ術後9±3日と27±9日に行った。6MDは,術前(419.6±82m)から術後(356.9±105.4m)に有意に低下し(p<0.05),術後から外来で有意に増加していた(402.1±103.3m,p<0.05)。体重は,術前(55.9±10.6kg)から術後(55.1±10.9kg)で減少したが有意な差は認めず(p>0.05),術後から外来で有意に低下していた(53.2±10.2kg,p<0.05)。%BFは術前(23.3±6.3%)と術後(23.2±5.9%)に低下したが有意差は認めず(p>0.05),術後から外来で有意に低下していた(21.1±7.4%,P<0.05)。SMIは,術前(16.6±1.7kg/m2)から術後(15.7±2kg/m2)に低下し,外来(15.8±2kg/m2)で増加したが,どの測定時期間にも有意差を認めなかった(P>0.05)。
術前後の6MD低下率は,術前後%BF低下率と関連の傾向を認め(r=0.42,P=0.06),術前後のSMI低下率と体重低下率とは関連を認めなかった(p>0.05)。退院後の6MD増加率は,退院後の%BF低下率(r=-0.54)およびSMI増加率(r=-0.53)と有意な負の相関関係を認めた(p<0.05)。退院後の6MD増加率は,退院後の体重低下率との間に有意な関連を認めなかった。
【考察】
本研究における体力の推移は,術後に体力が低下し,退院後に回復するという先行研究の結果と同様であった。さらに術前後で%BFの減少が大きい対象ほど,体力が低下する傾向を認めた。また退院後は,%BFの平均値が低下する中,その低下率を抑えられた対象ほど,体力の回復が大きいという結果となった。先行研究から,貯蓄エネルギーとしての体脂肪は体力の向上に伴い増加するという報告がある。そのため,周術期において貯蓄エネルギーとしての体脂肪の消耗を抑えることができた対象ほど,体力の回復が早かった可能性がある。SMIは,退院後に増加した対象ほど体力の回復が小さいという結果であったが,平均値の変化に有意差を認めなかったため,体力の変化に与える影響は少ないと考えられる。以上の結果から,周術期の体力の回復には体重や筋肉量ではなく体脂肪率の変化が大きく影響していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から消化器外科手術後の周術期における体力低下の病態を,体脂肪の変化から考察することができた。消化器外科手術後の患者に対するリハビリテーションでは,術前後から退院後にかけて体脂肪率を維持するための栄養療法と,脂肪の消耗を抑えるような低強度の運動によって,術後の体力低下を早期に回復できる可能性がある。